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入学式の翌日には、様々な係を決めることになった。高校生にもなってそんな係を分担するのかと少し驚いた。


「じゃあまず、この中で学級委員長を決めてほしいんですけども」


加藤先生のその言葉に、全員が沈黙し、机上の1点をを見つめる。まるで前々から決められていたアクションを時刻通り遂行したかのように、見事に全員の仕草が一致していたようで、堪らず先生が吹き出した。


「まあこの教室にいる人って、小中学生の時に何かしら大きな役をやった事がある人ばっかりだから、ぶっちゃけ俺的には誰でもいいんですけどね」


とはいえ、皆昨日顔を合わせたばかり、しかも殆ど会話をせず、今日の朝もおはようの挨拶も交わさず黙々と読書して、皆して誰も近づくなと言わんばかりの雰囲気を漂わせていたのに、大役の委員長にさらっと名乗り出る人間は殆どいないだろう。皆誰とも顔を合わせず、何とも気まずい膠着状態が続いていた。

私はこういう無意味な沈黙の時間が嫌いだった。魔法か何かで時計の針をぴたりと止められたようなその空気は、どうも息が詰まって苦しくなる。自分だけが動いているのではないかと不安になる。そんな空気に耐えきれず、私はすうっと息を吸った。


「……じゃんけんに、しません?」


静寂の中、突然言葉を発した私に、一斉に視線が集まる。この注目されている時の視線も嫌いだった。でも、息が出来なくなるような静寂ほど嫌いではない。


「……そう、だね。そうしよっか」

「どうせ誰がやっても同じならさ、勝った奴が委員長で良くね?」

「いいね。じゃあ15人だから、5人ずつの3グループに分かれよう」


止まっていた時間が、ゆっくりと動き出した。息が詰まって苦しかった胸に、やっと新鮮な空気が入り込んで来たかのような解放感。そっと息を吐くと、私は既に輪を作っていた4人のグループに入れてもらった。




「……勝っちゃった」


清々しい程の連勝だった。

優勝の褒美が甘いチョコレートやフルーツたっぷりのケーキだったらどんなに喜んだだろう。しかし優勝の暁に得られるのは、"委員長"という称号と、それに伴い課せられる責任だった。


「では、委員長は内野さんということで。よろしくお願いしますね」

「……はい」


結局、責任重大で荷が重いと思っていた"委員長"は言うほど責任を課せられず、ただ授業の最初と最後の号令をかけるだけが仕事だった。先生の言う通り、本当に「誰でも良かった」のだ。

しかし"委員長"はそのまま私のあだ名となり、後に男子からそう呼ばれるようになる。後期になり、委員長の座から降りても、あだ名が変わることは無かった。

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