メッチェンは知っている
新吉
第1話
私たちは大人になることはできない
なぜってそれは
死んでしまうから
私たちはこいをすることはできない
なぜってそれは
しんでしまうから
世界が滅んでしまうから
私たちには何にもない
もうこの流れに逆らうことはできない
ニヒリズムに囚われている
抜け出せない
私たちは水の星に生まれた
水のように同調しては
油と反発しあっては
争いが絶えない
穏やかな波になったと思えば
また激しく荒れ狂う
私たちには何にもない
明日はないのだ
明日を生きる意味がないのだ
なにもないから新しい
全てが全部奇跡のようで
お話のようで
神話のようで
昔流行ったライトノベルのようで
私はそのイラストレーターになりたかった
今生きていることが奇跡
ここにいることが奇跡
私は私たちは奇跡
私たちはジュブナイル
誰も教えてはくれない
それでももう知っている
明日はないのだ
だから私たちはもう何も信じられないのだ
裏切られるのが怖くて信じたくないのだ
果たして明日がないから怖いのか
怖いから明日がなくなってしまうのか
世界が滅ぶことはもう知っている
だから私はもう、
〇〇〇〇〇〇
「まーたこんなのばっかり!」
「お母さん、うるさい」
「結局星間戦争も生活が便利になったり、ちょっと調査隊に被害が出ただけでしょ?大げさなのよあんたは」
「わかんないでしょ?どーなるのか!」
「もー、いいからほらお誕生日のおばあちゃんへのメッセージ入れといて」
「はいよー」
〇〇〇〇〇〇
「あらあら、あの子こんなに難しいこと考えるような歳になったのね」
孫から祖母へ。メッセージがモニターに届き、大きく見やすい字が音声付きで流される。間違えて送信したものだが彼女は本当に喜んだ。やっと最近覚えたリモコンのボタンを押し、カーテンを開け電動車椅子で窓際へやって来る。そこには春が終わり青々とした木々が凛として立っていた。
たとえ明日がなくとも
たとえ世界が滅ぼうとも
その一瞬まで
生きることを
考えることを
悩むことを
怖い、楽しい、嬉しい、悲しい
とめどなく流れる気持ちを
やめてはいけない
休むことはあっても
やめてはいけない
ゆっくりでもまたはじめるのだ
何度休んでもいいから
またゆっくりはじめるのだ
だってその時までは生きているのだから
彼女は跡形もなく消えた。木々も家も地面も空気も、航空写真から辺り一面が消えた。ごっそり敵に持っていかれたのだ。星は欠け、バランスは崩れていく。さらにさらに混沌の時代へと傾いていく。
メッチェンは知っている 新吉 @bottiti
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