アマチュア作品にはアイデアや着想が作品の骨に上手く繋げきれてない『とりあえずこんなん出来ました☆』な作品も多い中、この作品は蝉時雨というシンボルを多面的に各所各所にいやらしくなく巧みに織り込んでいて非常に技巧が感じられる作品でした。また、ほんの一言、ほんの数瞬にその人のなりや本心をさり気なく印象的に表現するというのも滅茶苦茶高等テクニックだと感じました。キャラにもラノベ的な魅力があって読みやすくていいです。くそぅ、こんな短編書いてみたいなぁ…
学生や子供とは違う大人の恋愛……それも一夜限りの恋をテーマにしており、その心情を綺麗かつ風情ある形に表現しています。短編小説でありながら非常に奥が深く、こんな恋もある……と教えてくれる作品です!
いっそ忘れた方がいいのに、忘れられない忘れられるわけがないから、記憶の底に沈めてしまいたいのに、浮かび上がってきてしまうそんなお話
蝉は必ずどこかにいる。でも、見つけられない。特にこの言葉が胸に残ってます。淡々とした一人称の語り口のおかげで、盛況な夏ではなく、陰りある哀愁の夏の雰囲気が引き立つ。先輩がどんな人だったのか。掴み所のない人って魅力的ですよね。でも、小説という文字だけが頼りの作品では、そういった人物を描くことが難しいんです。ただ、この物語では、先輩のミステリアスな雰囲気がちゃんと醸し出ていた。蝉、という夏の一大風物詩を使った、少しだけ大人の夏物語。素敵な物語をありがとうございます。にぎた