第11話 イージー・ヒーロー


              〜数日後〜



 眠気を誘う数学の授業を終えて、やっと昼休みという時間になった頃、圭佑は机から体を起こした。

「おい、則夫。飯にしようぜ」

 圭佑の前の席で、突っ伏して寝ている則夫は、目を擦ってあくびを一つした。

「何だ? もう昼か」

 午前中をすべて睡眠に費やしたようである。

「学食でいいか」

「いや、わるい。俺は用事があるからパス。サッカー部のミーティングがあるんだ」

「そうか、わかった。僕はどうすっかな。激アツ丼の日だから、やっぱ学食だな」

「おう、俺の分も食ってきてくれ」

「任せろ」

 圭佑は背伸びをしてから、席を立った。

「ちょっと、圭佑くん」

 と、そのとき、ちょうど美心に呼び止められた。

「さっきの授業のノートとった? 私、寝ていて、何一つ聞いていなかったから後で見せてほしいんだけど」

「いや、僕も爆睡していたから」

「えー」

「後ろの席なのに見てなかったのかよ」

「見てないわよ。私、授業始まる前から寝てたんだから」

「……堂々と言うなよ」

「そっか、使えないわね」

「かわいくねぇな」

 ふん、と美心は鼻を鳴らす。

「それより、激アツ丼て何?」

「あ? 知らねぇの? ここの学食の名物だよ。とりあえず、すげぇ肉だ」

「ふーん。おいしいの?」

「いや、さほど」

「……じゃ、何で名物なのよ」

「言っただろ。すげぇ肉なんだよ」

「さっきから語彙が貧困過ぎない?」

「寝起きなんだよ。で、行くのか? 行かないのか?」

「行く」

 圭佑の後に続き、美心が席を立った、そのとき。

 二人のスマホが同時に鳴った。


『緊急招集』


 スマホでメッセージを確認して、美心はため息をつく。

「まったく、ヒーローってこんな子供の力をフルに使わないと回らないわけ?」

「人手不足なんだよ、この業界は常にね」

 不服そうな美心の様子を窺って、圭佑はひそかに笑い、

「で、どうする? アンジェ?」

 尋ねた。

「世界でも救いにいきますか?」

 すると、美心は不満そうに少し考え、

「そうね」

 と答え、それから、ふふといたずらっぽく笑ってみせた。

「激アツ丼、食べてから、だけど」

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イージー・ヒーロー 最終章 @p_matsuge

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