第10話 帰宅

「どうして私をかばったの?」


 学校の体育館裏に戻ってきたときには、すっかり暗くなっていた。この辺りには照明がないため、圭佑はスマホをライト代わりに使っていた。

「誰が誰を?」

「あなたが、私を、よ」

「僕は僕の仕事をしただけだ」

「嘘。ロゼさんが言っていたわ。普段は、あんな危険なことをしないって」

 進藤の冷ややかな声に、圭佑はバツがわるそうに答えた。

「むりに能力使うくらいなら、世界なんて終わればいい。そう思っただけさ」

「うっ」

 今朝の言葉を返されて、進藤は嫌そうに顔をしかめた。

「あれは言葉の綾というか、その、あのときは、世界の理不尽に耐えられなかったというか。ていうか、それは今もそうだけど」

 進藤は、一つ息を吐いて、決心したように口を開いた。

「あたしの能力は、生命エネルギーを与えること。さっきみたいな傷ならすぐ治せる」

 なるほど、と圭佑が頷いていると、

「逆もできるの」

 進藤は続けた。

「相手の生命エネルギーを吸い取ること。ただ、こっちは0か1。使ったら必ず相手を殺してしまう」

 それでか、と圭佑は思い至る。

 ベルセルクを制圧できる力があると、そう言ったのは、こういうことなのか。

 そして、その力を躊躇ったのも。

「利用されるんだと思った。ここの組織で、利用されて、たくさん殺しをさせられるんだと思って、理不尽だなって。だから、こんな理不尽な世界は終わっちゃえばいいって思っただけ」

 言い終えると、進藤は再度ため息をついた。

「でも、違ったみたいね」

「さぁ。たぶん、そう思っている奴もいるんじゃねぇの」

「うっ、空気読まない奴」

「知らないね。どっちにしろおまえ次第だろ。おまえの能力なんだから」

「おまえって言わないで」

「じゃ、美心」

「馴れ馴れしい」

「じゃ、進藤」

「呼び捨てにしないで。って、これ、今朝やったわよね?」

「進藤様」

「激しくデジャブなんだけど!?」

「じゃ、何て呼べばいいんだよ」

「……はぁ、美心でいいわよ」

 疲れたように肩をすくめる進藤美心に対して、圭佑は天気の話をするように適当な口調で述べた。

「不幸自慢なら、いくらでもすりゃいい。ここの組織、不幸な奴には事欠かないからな。だから、世界が滅べばいいとか、そういう気持ちは、きっとよくわかってもらえるよ」

「世界滅亡に共感できるヒーロー組織って、どうなの?」

「ばーか、ヒーローだから、尚更だよ」

「そういうもんなの?」

「だから、気楽にいこうぜ」

「一歩間違えば死んじゃうのに?」

「たかが死ぬだけだ」

「世界が滅ぶかもしれないのに?」

「たかが世界が滅ぶだけだ」

 圭佑は、美心と視線を合わせ、もう一度言った。

「だから、気楽にいこうぜ」

 しばらく黙り込んでから視線を落とし、

「狂ってるわ」

 と否定して、だが、またしばらく黙ってから、首を傾げて、

「でも、そういうもんなのかもしれないわね」

 と、一応、何かに納得したようであった。

 その後、校門まで歩き、寮への道を違えるところで二人は別れた。


「じゃ、美心。また明日、学校で」

「……えぇ、また明日」

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