第9話 天使の口付け

 巨大な生物の上で立ち上がったのは、全身ぴっちりの赤いタイツスーツ、いわゆる戦隊モノルックのヒーロー、レッドであった。

「やぁ! ラック! 奇遇だな! 元気してるか?」

 巨大生物は、爬虫類のように見え、巨大な羽と長い尻尾、口元はワニのようで、いわゆる竜そのものだ。

 レッドが対応していた制圧案件とはこれのことだったのか。

「あ、レッドさん、おつかれっす」

「あぁ! ゆっくり話したいところだが、次の緊急案件があってな!」

「いや、レッドさん。それ、ここっすよ」

「何!?」

「ちなみに、その緊急案件はたった今片付いたっす」

「何だって!?」

 大げさに驚くレッドに対して、ロゼがやれやれと肩をすくめていた。

「もう、アンジェちゃんの前だからって、はりきり過ぎよ」

「そんなんじゃないっすよ」

「嘘、いつもあんなむちゃしないじゃない」

「まぁ、たまには、ね」

 アンジェはというと、事態について来れておらず、放心状態だった。


「な、なんか降ってきた!?」


 そしてテンポの遅れた反応を見せた。

「って、どういうこと? 倒したの?」

「あぁ、レッドさんの仕事場と近かったからね。レッドさんの倒した敵が、偶然、ベルセルクの上に落ちてきたってこと」

「どんな偶然よ!」

「そんな能力なんだよ」

 ラックは、小さく息を吐いた。

「とにかく終わったんだ。初仕事、お疲れ様」

 アンジェは、そのとき気づいたようで、へなへなと崩れ落ちた。

「こ、こんなことを、いつもやっているの?」

「今回は、楽な方だよ」

「私、むりかも」

「まぁ、いずれ慣れるさ」

 なるべく笑みを浮かべて、ラックはアンジェに手を差し伸べた。

「その手、怪我している」

「ん? あぁ、今、あれが落ちてきたときに切った」

 アンジェはラックの手をとると、その手にかるく口づけをした。

「は?」

 突然のことにラックは困惑した。

 だが、ラックを置いて、彼の差し出した右手は青く輝き出し、傷口はみるみるうちに塞がっていった。

「これが、私の能力」

 完全に治った右手を眺めつつ、ラックは納得したように頷いた。


「あぁ、それでエンジェルキッ――」


 思いっきり、手の甲をつねられた。

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