試合を終えて

 気がつくとそこは、最初に居た看板のある道だった。まぁ、看板の姿はどこにもないのだが。

「あれ?結局なんだったのよ?」

 メグが首をかしげると、カノヴァが目を瞑り、熱を込めて話す。

「分かってないっすね、お嬢。こういうのは、“アレ、夢オチ?”と思わせてからの、やっぱり夢じゃなかった的な演出っすよ。くぅ〜、憎い事してくれるっす〜!」

「夢だけど、夢じゃなかったー!!ってあれか。」

 ダリオが口を挟む。

「え?なんすか、それ?」

「いや、向こうの……なんか絵が動くヤツでやってた。」

「絵が動く!?なんのカジェルディっすか!?」


「そんなカジェルディ、ないよ。」


 どこからか声がする。ジャックではなかった。

「ハーイ!」

「ウィル!!」

 メグは咄嗟に身構えるが、ウィルは手を出してたしなめた。

「聞いてないの?今回限り何もしないってば。」

「……の割には、愉快な仲間たち連れてきたな。」

 ダリオの言う通りだ。ウィルの後ろには、奇抜な服装の中年男性と、ドレスを着た若い美女が立っていた。2人とも右目が赤いことから、アンデッドなのだろう。

「おや陛下、お気に召しませんでしたか?しょうがないんですよ〜。連れてくるって言っちゃったんですから。」

 ウィルはダリオ相手なので、中途半端な丁寧語で話し出す。

「申し訳ありません。どうしても彼の戦う姿を拝見したくて……。いつも逃げてばかりでしょう?」

 ウィルの後ろの女性が話す。おっとりとしているが、少々小馬鹿にしたような口調だ。

「それに、私の教官としての素質があるかどうか見てみたかったのですよ。」

「上々じゃないの?見た限り。」

 女性の隣に立っている男性が、これまたニヤニヤしながら会話に入る。ウィルは再び口を開いた。

「はいはい、隊長もクロードもそこまで。あんまり馬鹿にしてると、エル助が怒るぞ。」


「誰だよ、エル助って。」


 向こうからジャックが現れた。1人だけ転移場所がズレてしまっていたようだ。

「ハロー、エル!お疲れ様でした!!」

「うわっ!ジゼル……。」

 ジャックは女性を見るなり顔をしかめた。

「オレもいるぞー。」

 クロードは自己アピールをするも、ジャックは見向きすらしなかった。

「なんでこれまで1話も出なかったのに、試合終わったらそそくさと出てくんだよ。」

 ジャックは非常に面倒臭そうだ。


「オレもいる──。」

「名前だけ出てたのでしょう?」

「オレも──。」

「それにしたって、お前誰だよって状況になるだろ。俺達が普段何してるか、誰も知らないんだぞ。」

「オレ──。」

「恐らく、俺が主人公だってことすら知られてないしな。」

「オ──。」

「そういう事言っていいのですか?」

「あの──。」

「どうせ本編じゃ一言も言えないんだ。言える内に言ってやる。」


「おい、聞けよ!!」

「うるさいよ!!!!」

 クロードの必死の努力は、ジャックの憤慨によって水泡と化した。

「いつにも増して、文章が酷い!疲れてるのか……。」

「エル。もうやめようぜ。」



「で!でよ!これからどうすんの?」

 ウィルが切り出した。ジャックは腕を組んで答える。

「決まってるだろ。大聖堂に殴り込んで、教皇をぶっ殺す。」

「やっぱりね。」

 そこにメグが首を突っ込む。

「で、3人は大聖堂にいて待ち受けてないといけないから、はい!持ち場について!」

 ウィルとジゼルとクロードはダリオとカノヴァに押されていった。


「えっ!?あの、ちょっと?」

「はいはい!御三方は退場っす〜。この場にいていいアンデッドは大将だけなんす。」

「そういや、お前男だと思われてたらしいな!」

「陛下!それ言っちゃダメっすよ!!」


 そんな光景を尻目に、ジャックとメグは顔を合わせていた。

「こんなんでいいの?」

 メグは些か心配そうだ。

「いいだろう。お祭り的な話なんだから、今くらい気楽でいたい。この後が大変だろ?」

 ジャックは割と涼しい顔をしていた。少し間を置いてから、再び話し出す。


「……あの女は強かった。力の源が何かも分かる。それに、アンデッド如きでは太刀打ち出来ない相手もいた。」

「自分の弱さを見せつけられた?」

 ジャックは苦く微笑んだ。

「ド直球だな。」

「あら、貴方が弱いなんて言ってないわよ。でも、そう思いがちだから……。」

 メグは少し笑ったあと、真剣な表情に戻る。


「おばあ様は言ってた。弱さを知っても強くはならないって。そこを改めて、初めて強くなるから。」

 ジャックは深く息をついた。

「誰に対しても同じ事を言うな。アイツ。」

「それでいいんじゃない?」

 メグは優しく笑った。

「さ、カノヴァと陛下も戻ってきたし、行きましょ。しんみりするのは私のキャラじゃないわ!」

 メグは帰ってきた2人の元へ駆け出す。ジャックはしばらくその場で考えていた。ふと、彼は笑い出す。何を思ったか、それは私にも分からない。


「さてと、俺の魂は燃えていられるかな?」


 心の中で祈りを捧げる。ゆっくりと足を進めて。




 燃え尽きてしまったその男は、悪しき灯火を取り集め、己の炎にしようとした。自ら燃やす事など出来ない、弱き存在ものと知った為。後悔つみ不運ばつを抱きながら、この世を彷徨う生けた屍。その者が持つ灯火は、何を照らし示すのか──?


 短い短い物語。答えはいでず、我らは闇に立ち尽くすのみ。


 もしその答えを知りたくば、ただひたすらに待ち続けよ。先を照らす灯火たましいを、それがいのちとなる瞬間ときを、希望のぞみを抱いて待ち続けよ。


 灯火の先には、必ずその男が立っている。それが見えれば、またこの者を追いかけるとしよう。


 己の炎を2度も燃やした、「燃えすぎた聖職者」を──。



 


 ──願わくば、この物語が貴方の気を休めるきっかけとならんことを。



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 七四六明さま、木林藤二さま、いずくかける様、そして、貴企画にご参加の皆様。皆様と繋がりを持てたこと、心より光栄に思います。私は敗退となりましたが、皆様のご武運を祈っております。またご縁がありましたら、その時は宜しくお願い致します。


 それでは──。

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燃えすぎた聖職者 詠村 ハミア @Idel

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