俺は白銀の戦士シルバーシザー!【後】

「まーくんっ!」

 メイは顔を真っ赤にし、俺を呼んだ。

「っていうかなんでおまえ、ここにいるんだ!? 公園だったろ、待ち合わせ場所!」

「や、約束の時間より早く着ちゃったから、と、図書館で時間をつぶそうと思って……あっ」

 メイの口から、この状況に似合わない艶っぽいが漏れる。メイの体に巻きついているステインの足が、にゅるにゅるとメイの体をはいずり回っているのだ。

 肩や胸、そして太もも……彼女のあらゆる場所に絡み付いては、ずりずりと動くものだから、彼女の顔は恐怖と苦痛、そしてあられもない姿で拘束される羞恥心でゆがんでいる。

「くそっ……!」

 俺は即座にシルバーシザーズを取り出し、変身する。なんでもう一体に気づかなかったんだ、俺のバカヤロウ!

 シザースーツを装着した俺は、ステインに向かって走り出す。するとホワイティは、俺の隣にぴったりと着いて走りながら、この場に似合わぬ冷静なため息をついた。

「まだまだあなたの力が足りないのよ、マサル。もう少し、白銀の戦士としての自覚を、持ってほしいところね」

「今はおまえのお説教を受けてる場合じゃねえ! ペチャパイは黙ってくれっ!」

 ホワイティの上から目線な言い方に、俺は悪態をついた。

 実際のところ、彼女――ホワイティは、見た目だけは完全無欠の美少女ではある。しかし、口を開けば毒舌な上、胸がぺったんこなのが、俺にとっては残念でならない。何度でも言うが、胸がぺったんこなのが、本当の本当に残念でならない。重要なので二度言った。

「……ペチャパイ……」

 低くつぶやかれたホワイティの言葉と、彼女のかわいらしい眉間に寄せられたしわを無視し、俺は巨大なシルバーシザーズをステインへと向けて振りかぶる。

「ええい許せん! 許せないぞステイン! 貴様をタコのぶつ切り以下略だ!」

「ま、まーくん……っ! 助けてえっ」

 メイの悲鳴が上がるたび、ステインの足がにゅるりと動き、さらに胸を締め付け、メイの豊満なおっぱいが寄せられては、ぷるんと揺れる。

 ――なにが一番許せないって、メイのおっぱいの上にも下にも間にも絡み付いているステインの足が許せないっ! メイの体にすっかり絡みついたステインの足が動く度、おっぱいがぷるんぷるんと動くのだ。ああ、けしからん。

「うおおおおおおお! あの巨乳を好き勝手していいのは、俺だけだーーーっ!」

 思わず心の声ホンネがそのまま出てしまう。しかし残念ながら、俺はメイのおっぱいを、あんな風に好き勝手したことはこれまでに一度も、ない。

 だってあいつ触らせてくれないんだもん! あんな立派なおっぱいもってるのに!

 だからこそ……ステインが憎い! 憎いんだよぉっ!

「シルバーシザーズパァァァンチィィィッ!」

「ま、ま、まーくんのばかぁっ!」

 怒りに任せて、俺はシルバーシザーズを投げ捨て、ステインの膨らんだ頭みたいな部分を、空いた右腕で思い切り殴りつける! 

 スーツで強化された腕力のおかげで、ステインはボールのように本棚へと飛んでいく。その衝撃で、メイが宙に浮くのが見えた。俺はすかさず飛び上がり彼女を抱きとめた。

「大丈夫か、俺のおっぱい!」

「なっ……なんで胸の心配しかしないのっ。っていうかまーくんのばか! スケベ! おっぱい星人! なによ俺のって!」

 メイは顔を真っ赤にしながら、俺の胸をたたいた。シザースーツの装甲は厚いから、痛くもかゆくもないのだが、なにをそんなに怒っているのか、俺には分らない。

 大切なメイのおっぱいだぞ? 巨乳は世界の宝だぞ? 

 メイを一見したが、とりあえずおっぱいに傷はついていないようだ。安心すると、やはりこのおっぱいを弄んだ、ステインへの怒りが沸いてくる。

「くそっ、ステインのヤツ、あのおっぱいを、あんなにっ! おっぱいをあんなにっ!」

「あーーーもうっ、そんなにおっぱい、おっぱい言わないでえっ! すっごく恥ずかしかったんだからあっ! もうっ!」

 腕の中で暴れるメイをどうしようか悩んでいると、鋭く俺を呼ぶ声が聞こえた。

「マサル、ステインをどうにかしてちょうだい。私の力では、押さえつけるのが、精一杯だわ……!」

 ホワイティが手から白い点線を出している。それは鎖のようにステインの体を拘束し、動きを封じているのだ。

 ホワイティの口調は淡々としてはいるが、ステインを押さえつけるその顔には、苦痛の表情が浮かんでいる。

「すまねえメイ! 俺、とどめ指してくるわ! 危ねぇから離れてろ!」

 メイを降ろし、俺は身をひるがえしてステインの元へと向かう。

メイのおっぱい俺のおっぱいをもみしだいたステインめええええっ!!」

 俺は満身の力をこめて、再びシルバーシザーズを呼び出し、両手で構える。

「本日二度目のおおおお! シルバーシザアアアアッ・オーバードラァァァアイブッ!!」

 シルバーシザーズが光り輝き、俺の周りに無数の小さなシルバーシザーズが出現。俺は「切り取り線」に向かって、手の内のシルバーシザーズをブン投げた。すると、たちまちステインは、切り取り線の向こう側へ姿を消した。

「ふう……」

「今度はちゃんとできたようね。じゃあ、私はこれで。またよろしくお願いします、マサル。あ、あと一つ。今度私に向かって、ペチャパイと言ったときは、覚悟しておいてください、では」

「ああ、じゃあな……って、覚悟って、どういう意味だ!? おい、待て、ホワイティ!?」

 意味深な言葉を残し、ホワイティは現れたときと同じように、いつの間にかその姿を消した。

 彼女はいつでもこんな調子で、なぜシルバーシザーズを俺に与えたのか、そもそも、「切り取り線の向こう側ドッターライン・ワールド」から、なぜステインがこの世界に現れたのかすら、彼女ははっきりと言おうとしない。まったく分からないことだらけだ。しかし、

「ま、いっか」

 俺がヒーローになる力を手に入れられたのは事実だ。今の俺には、それで十分だった。難しいこと、ホントわかんねえし。ああやって暴れられるのは、楽しいしな!

 変身を解除した俺のもとへ、メイが心配そうな顔をして近寄ってきた。

「ま、まーくん、大丈夫?」

「うん? 平気へーき。ステインも追っ払ったし、お前のおっぱいも無事だったし!」

 にこっと笑ってやったが、メイはまた顔を赤くして、わあわあとわめき始めてしまった。

「もおっ、む、胸のことを、そんな大きな声で言わないでって言ってるのにっ!! まーくん、私の胸しか、見てないんだからっ……私よりも、胸が好きなんだもん……」

 最後の言葉は小さすぎて、俺には「胸しか見てない」までしか聞こえなかった。

「だってそんなおっきいおっぱ……うお」

「もう、恥ずかしい! 黙って! さ、行きましょう! 遊園地、終わっちゃう」

 急にメイは俺の腕を引いて、図書館の出口へと歩き出す。なにをするんだと思ったが、そう、メイとの約束――遊園地へ遊びに行くという、本来の目的を俺はすっかり忘れていたのだ。

 その瞬間だった。俺の左腕に、柔らかな感触がした。見れば、メイが俺の腕を組んでいるのか、彼女の巨乳がふにゃりと押し付けられていた。

 ……うおおおおおっ! 

 おっぱいの感触が俺の腕にっ!! 

 ふにょん、と押し付けられる柔らかさに、俺は思わずガッツポーズを取りそうになったそのときだった。

「……まーくん、いつも助けてくれて、ありがとう」

 メイが顔をうつむかせたまま、小声でささやいた。そして、きゅっ、と腕にしがみつく力を強くする。

 そのときだけ俺は、おっぱいの柔らかさを忘れ、どきりと胸が高鳴るのを感じた。……なんだ、これ? 

「ま、俺は白銀の戦士シルバーシザー、だからな。……では今度、お礼にそのおっぱいを好き勝手させてもらうぜえっ!」

 急に感じた甘酸っぱいような妙な気持ちを隠したくて、俺はあらためてメイのおっぱいを注視する。うん、見るのもやっぱり最高だぜ! 

「そ、そ、それはだめえええっ!!!」

 バチーン! と頬に痛みが走った。メイの平手打ちが、見事に炸裂したのだった。


  

 *



「……」

 マサルとメイが去った後。騒ぎが治まった図書館の中、ステインが消えた場所にぽつねんと立つ少女の姿があった。金のウェーブヘアーに、無表情ではあるが、だれもが驚くような整った顔立ち。そして、まぶしいほどの白いワンピース。

 ホワイティ・ドッターラインの姿であった。

 彼女はしゃがみこみ、床に落ちているステインの吸盤を拾い上げると、指先ですりつぶしてそれを消した。紺碧の瞳には、どんな感情も浮かんではいない。

「白銀の戦士シルバーシザー……まだ、経過観察が必要ね」

 それだけつぶやくと、ホワイティはふっと姿を消した。しかし、それに気づくものは、一人としていなかったのだった。



 *



 こうして、空切マサル=白銀の戦士シルバーシザーの戦いは、さまざまな思惑と陰謀と、そしておっぱいにはさまれていくのであった……。

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白銀の戦士シルバーシザー 服部匠 @mata2gozyodanwo

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