白銀の戦士シルバーシザー

服部匠

俺は白銀の戦士シルバーシザー!【前】

 右手に握られたハサミが、銀の光を帯びる。静かだった日曜日の図書館に、どこからともなく風が現れ、本のページがパラパラと激しく開かれる。まさに紙の嵐の中、俺はかっと目を見開いた。

「カァァァァット!! ドッターァァァァァァラインッッ!!」

 俺は手にした銀色のハサミを、天井を貫く勢いで突き出し、変身スペルを叫ぶ。すると、俺の頭上に現れた白い点線――『切り取り線』は、四角に空間を切り取り始める。ぽっかりと開いた亜空間から、銀に輝く戦闘用スーツ『シザースーツ』が現れ、俺の目の前に舞い降りた。

 キィン! と金属音が響き、シザースーツが俺の体に装着されると、清浄な白銀の輝きが周りを照らした。

「白銀の戦士、シルバーシザー見参! おまえのその汚れ、切り取ってやる!」

 俺は全身にかけめぐるアドレナリンに導かれるまま、名乗り口上を高らかに叫ぶ。目の前で暴れる、黒く薄汚れた、タコみたいなキモチワルイ怪物が、咆哮を上げた。



 ――突如「切り取り線の向こう側ドッターライン・ワールド」からこの世界に現れた異型生物・ステイン。タコの形に酷似したその生物が吐き出す黒い粉は毒素があり、これまでたくさんの人々が襲われていた。

 ちょっと大きなおっぱいが好きなだけの、ごくごく普通の高校生だった俺、空切そらきりマサルは、ひょんなことから、白いワンピースの金髪ロリ美少女『ホワイティ・ドッターライン』そして、ステインを元の世界に送り返す力を持つ、銀のハサミ『シルバーシザーズ』と出会った。

 目の前で幼なじみの少女・メイが襲われ、その衝動のままにシルバーシザーズを手にした俺は、白銀の戦士「シルバーシザー」に変身。

 それ以来俺は、ステインからこの世界の平和を守る、ヒーローになったのだ。

 ちなみにぴちぴちの十七歳、好きなタイプは巨乳のねーちゃんである。いつでも紹介を待ってるぜ!



「うおおおおお!」

 巨大化したシルバーシザーズを両手に持ち、俺はステインに向かって飛び掛る。

「タコのぶつ切りにしてやらぁ!!」

 黒い瘴気を出すステインの気持ち悪さなどお構いなしに、俺はうねうねと動くステインの足めがけ、シルバーシザーズを差し込んだ。

「うおりゃあ!」

 両腕を大きく広げ、シルバーシザーズの持ち手部分を広げた後、目にも留まらぬ速さで、思い切り二つの刃を交わらせる。

 ジャキン!! と大きな音が響く。

 キュアアアア、と耳をつんざくようなステインの悲鳴とともに、切断された足がボトボトと落ちていった。しかしステインも負けてはいない。残った足を鋭く伸ばし、俺の体に絡んできたのだ。

 規則的に並ぶ吸盤は、俺の肉を引きちぎりそうな勢いで吸い付く。思わず痛みのために、シルバーシザーズを落としそうになった。

「クソッ……!」

 俺はシルバーシザーズの持ち手に力を入れ、二つの刃を分離させる。そして一本の刀のようになったシルバーシザーズ(右)を、躊躇なくステインの、丸い頭だか胴体だか分からない部分に、ぶっ刺した。

 キュアアアァァ、と、ステインの叫び声が響きわたる。

「俺はタコに抱かれる趣味は、ねえんだよ!」

 どっちかっていうとタコみたいにやわらかいおねーちゃんのおっぱいにつぶされたい、と本気で考えながら、急な攻撃に動揺したステインから逃れ、ゴロゴロと地面を転がった。

 もがくステインはいよいよ怒りに全身をふるわせ、口――本来は漏斗という排泄器官らしいのだが、良く分からんから口って呼んでる――をとがらせ、ぶわっと黒い霧状のものを噴出した……例の毒だ!

「シザーバリヤーっ!!」

 バラバラだったシルバーシザーズをくっつけて、持ち手部分を開く。刃と刃の間にできた隙間にバリヤーが張られ、毒を防ぐ。

「これでおしまいだ!」

 毒を振り払い、俺はシルバーシザーズを両手で構え、突き出す。

「シルバーシザー・オーバードライブ!!」

 シルバーシザーズが一層光り輝き、俺の周りに無数の小さなシルバーシザーズが出現する。シルバーシザーズ(小)がひゅんと飛び、戸惑うステインの周りを取り囲み『切り取り線』を描く。ステインはもう、あの切り取り線の中から動くことはできない。

「とぉうりゃあっ!!」

 槍投げよろしく、俺はシルバーシザーズを力の限りブン投げる!

 光をまとったシルバーシザーズは、ステインにグサリと刺さった。

 刺されたステインはギュアアアアー、と断末魔の叫びを上げながら、切り取り線と一緒に消えた。

「ふん、一丁あがりだぜ!」

 変身を解き、腰に手を当てて一息ついた。やったぜ、これで平和を守ったぜ……! ヒーローの余韻に浸っていると、はたと俺は本来の目的を思い出した。

 今日はメイと、図書館の隣の公園で待ち合わせをしていたのだ。向かっている途中で、ステインの波動を感じてここにやってきてしまったのだ。とんだ寄り道だ。

「おっと、やばいやばい。寄り道しちまった。メイのやつ、怒ってるかなー」

 俺はシルバーシザーズをポケットに入れる。メイの小言を聞く覚悟をしながら、図書館を去ろうとした、そのときだった。

「まだ終わっていないわ、マサル」

 冷ややかだが幼さの残る声が、俺の背中に投げかけられた。

 振り向くと、そこには長い金色のウェーブヘアーをたなびかせた、白いワンピース姿のロリ美少女が立っていた。顔立ちは整っているが、凍りついたような無表情がひときわ印象的な少女だ。

 彼女こそ、俺をシルバーシザーズにした張本人、ホワイティ・ドッターライン。

 彼女は、『切り取り線の向こう側ドッターライン・ワールド』の住人だ。つまり、この世界の人間じゃない。

 いわゆる異世界というところから来たらしいのだが、次元がなんちゃらだの言われても、俺には良く分からん。

「ホワイティ、遅いぜ! ステインならさっき、俺がちゃちゃっとやっつけて……」

「何をぼーっとしているの? 後ろを見なさい」

 ついさっきステインを倒したというのに、後ろを見ろだって? 馬鹿なことをと言いかけた瞬間、ぞくりと俺の背中に悪寒が走った。

 ――これは、ステインの波動だ!

「まだ、残っていたのよ」

 ホワイティの言葉とほぼ同時に、きゃああ、と絹を裂くような少女の悲鳴が響いた。とっさに後ろを振り向くと、そこには、さっきよりもさらに一回り大きなステインと、ステインの足に囚われた少女の姿があった。

 野暮ったい眼鏡に三つあみのお下げ、白いシャツに控えめなデザインのスカートと、地味なインテリ系女子。しかし、ステインに締め付けられた胸は大きく、その胸には見覚えがある、というかそいつは――!

「メイ!?」

 眼鏡巨乳の少女――俺の幼なじみで、待ち合わせの相手であるメイが、ステインに囚われていた。

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