人生ゲームep.2

 でかい、大きい、ビックサイズ。


 この三拍子が揃った建物は輝かしいばかりにその威厳を放っている。

 そのでかさで太陽を隠しているので出入り口は日陰だが。


「おおー!」

「これビックサイトとどっちが大きいかな」

「分からねえ、定規すらないし」

「いや、定規で測れるものでもないでしょ」


 やはり大きいものというのは人の気分を高揚させるものがある。

 ここに来るまですっかり落ち込み気味だった二人もいつも通りに戻っている。


「ここならしばらく過ごしていられそうだね」

「閉館は夜の十時らしいけど」


 嬉しそうに語る小奈美に武士はやんわりと否定を入れる。


「それで何があるんだ?太鼓の○人か、格ゲーか、はたまたクレーンとかか?」

「私やるんだったらサバゲーとかもやりたいわね、もしかしたらリズムゲーとかもあるのかしら」

「ここに特設ステージとかでアプリ無料配信とか無いのかな?」

「いやさっきの説明聞いてた?ここはボードゲームの……」


 と武士が改めて説明し始めたところで。


「なんだつまらん」

「期待外れね」

「じゃあ、アプリゲーは配信されてないか」


 と三人のテンションがだだ下がりした。

 そこの二人はともかく、小奈美は聞いてただろと突っ込む武士だった。


「まあ待ってよ。ここ以外に行く当ても稼ぐ場所も見当たらないんだから、取りあえずは中に入らないと」


 少しだけ焦る武士。せっかく来たのにこのまま帰るわけにはいかない。いつぞやのコミケで鍛えられた感覚だ。


「それもそうね。トランプとかばっかりやるよりはマシだろうし」


 と幸江が何とか立ち直ってくれたことで、他の二人も立ち直る。

 武士はひとまずの安心を得るのだった。


 ウィーンと自動ドアをくぐり中へ。


 まだ転生が始まったばかりとは言え、結構な人数がここにはいた。

 やはりマップから得られた情報はとても大きいのだろう。


「おお、やっぱり結構広いな」

「見て、あそこにどこに何のゲームがあるかのマップがあるわ」


 と自由に行動し始める仁と幸江。

 しかしこの建物内の構造はストーンの方にも現れていた。


「待つんだ。ここに何があるか分かるって、あー」


 幸江がマップの描かれた看板に群がる人混みに消え、仁が噴水に突っ込んだ。


「じ、仁君大丈夫?」


 急いで引き上げられた仁はぐっしょりとびしょ濡れだった。

 武士は頭を掻きながらそれを手伝う。


「全く馬鹿だねー君は」

「うるせえゴリラ」

「ゴリラ言うなし」


 平常運転だ。頭が濡れて力が出ないことはないらしい。


「それでどこへ行くの?」


 取りあえず噴水に固まった三人はストーンから何があるかを調べる。

 チェス、リバーシ、将棋、双六、パズル、麻雀、囲碁、カタン、ダイヤモンド、カルカソンヌ、ブロックス、チャトランガ、ドミノなどそれはもう様々。


「たくさんあるなこれ」

「うーん、選べないし知らないのもあるなあ」


 仁と小奈美はずらずらと並べられているゲームを見ながら頭を悩ませる。


「ふっ、ふふ」


 だが武士は違った。


「おい、どうした。ゴリラみたいな顔に戻って」

「ふっ、君たち悩まなくてもここにいいゲームがあるじゃないか!ほらっ、ここだ!」


 バアアアアン!


 武士が指さした場所、そこには一つのゲームの名前が示されている。


「「じ、人生ゲーム?」」

「そうだ。これから人生を決めようと言うとき、まさにぴったりなゲームではないか!ふはーっはっはっは」


(やべえ、武士のやる気スイッチが何故か入ってやがる)


 説明しよう。武士のやる気スイッチとは、武士に突如発生する謎現象の一つで、武士に急激に熱が入ることである。その時の武士の暑苦しさは摂氏五百度を超え、あの松○修造さえも適温と感じれるほどの温度を解き放つ。それの暑苦しさで敵を薙ぎ払う姿はテレビゲームをショートさせるほどだ。原因は不明だが、本人曰く原因は分からないらしい。つまりはゴリラと言うことである。


「って、誰がゴリラじゃい!」

「突っ込むのおせーよ」


 とまあ、別に仁達も決まってやりたいゲームがあるわけではないので、武士の意見に反対することはない。


「まあまあ、とにかく行ってみよ」


 小奈美がなだめたところで三人は息ぴったりに立ち上がる。


「そうだな。人生ゲームならみんなとやれそうだし」

「よし、絶対に勝つぞおらあ!」


 三人は意気揚々とその人生ゲームが置いてある部屋へと向かった。

 幸江が人混みに巻き込まれているのを忘れて。


「ねえ、武士、このリアルチェスとか面白そうじゃない……って、みんなどこへ行ったのおおおお!」

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