人生ゲームep.1
四人の戦いが終わったところで、それぞれは手にしたポイントで食事を取る。
別にお金を使ってどこかで買っても良いが、敢えてポイントを使うのは、それを獲得できたという優越感に浸るためである。
もちろん負けた方の二人はそんなもの味わうことは出来ないが。
「にしてもポイントだと結構高く感じるな」
「それは最初だからじゃないの」
「そうかも知れないけど、一ポイントで果物だぜ。もしこれで料理を買おうだなんて思ったら到底ブラックジャックとかだけやってても稼げないな」
仁の理論は一理あるものがある。
果物は一ポイントで買えるが、毎日果物ばかり食べてく訳にもいかない。そこでなにか料理をしようものならそれ以上にお金のかかるものをいろいろ買わなければならないのだ。トランプとかだけにまかなっていくことも出来なくはないが、まるでホームレスか旅人のような暮らしを送ることになる。
「お金は多少あるけど住む場所は与えられていないしね。これでどこかに宿代だなんて払ったら到底まかなえるもんじゃないよ」
「欲しいならもっと他に稼ぎのいいゲームをするしかないわね」
「そんで稼いで自由に動いて……」
とは言っても、彼らは悩んでいた。
まずこの世界に来たはいいものの、どのように行動するのか。仕事を探してお金を得るか、ゲームをしてポイントをためてお金に交換するか。
そしてお金などを貯めて旅をするのか、家を購入して暮らすのか。はたまた別の事業を起こしたり、ゲームにのめり込んでいくのか。
新しく始めた人生であり、新しい世界であるのだから道は無限大にも広がっている。完成された世界でないからこそどのようにも進めるのだ。
「あまり遠くを見通して考えるのも難しいね。けど、早くしないと毎日お金が飛んでいってすぐになくなっちゃいそうだ」
「それは言えるな。例え野宿したとしても、このままだと尽きるのは時間の問題になりそうだ」
きっと三万マリクものお金は道を決めるまでの資金なのであろう。
だとしたらスマホゲームにお金を掛けるのはしばらく出来そうにない。
「少し考えましょうか、この先どうするかを」
「そうだね。私も幸江ちゃんの意見に賛成」
四人はゲームのことやポイントのことは一旦置いておいて、まずはこの世界でどのようにして生きるのかを決めることにした。
そこで提案を出すのは武士。
「ならまずは各自の目標を決めるべきだろう」
「目標?」
小奈美が頭の上にはてなを浮かべて聞き耳を立てる。
「うん、四人でいっしょに来たとはいえ辿る人生は決して同じであるわけじゃない。いってしまえばゲームは自分の人生を決めるものであり、それぞれの結果は必ず変わってくる。だから、一人ごとに何を目標としてこの世界で生き抜くのかを決めないといけない」
「確かに、今は四人で良いと思うけど、ゲームといえどこれは新たな人生。その点は前の世界と変わらないもんな」
全員の理解はとても早かった。
もちろん理解だけですまないのが人生なのであるが、目標を決めるというのは前の世界でもこの世界でも重要なことだ。
誰もが経験することになる受験が良い例だろう。志望校を決めなければどこに行くかなんてあやふやとなり、その結果何もやる気が起きなくなるということがよく起こる。そうなるとそれは人生を過ごしていると言えるのだろうか。
生きているという点では同じだが、特に目標も無くうろついているだけなら餌を探して毎日を過ごしている自然の動物よりもだらしないことだ。
目標は何でもいい、目の前に届くような小さいものを積み重ねても良いし、いつかと夢見るほどの大きなものでも良いだろう。目標さえあれば人は人らしく生きていける。
特にこの世界では、目標無しにゲームしてるだけなら、必ずといっていいほどいつか金がなくなり勝手に飢え死にすることになる。
なぜなら前の世界ほど発展していないから。
「あたしは安定した生活をしながらゲームが出来ればそれでいいわ」
「意外と小さいな、幸江は」
「いいのよ、堅実派といって頂戴」
目標を最初に決めたのは幸江だった。
まさに即断即決みたいな形だが、彼女らしいといったらそうなる。
「ツンデレ人間は私が一番なのよ、とかいいそうだけどな」
「や、やめなさい。あたしは、別に、なんでもないわ!」
仁に振られて即興でツンデレ返しをした彼女だが、言葉は見事に決まっていた。しかし残念ながらどや顔をしていたため、ツンデレは見事なまでに失敗しており、作り上げた雰囲気をぶち壊していたのだった。
「惜しいな、やっぱお前にはツンデレ似合わねえ」
「うるさいわね。それであんたの目標は?」
仁はよくぞ聞きましたとばかりにすっと立ち上がると、体を横向きにしながら片手を脇腹に当て、片手を眼鏡の縁に当てて決めポーズを取った。
「よくぞ聞きました。俺は、この、この世界で最強の大金持ちになる」
「あっそ」
「ふーん」
「ちょい待てお前ら、なんでそんな冷たい態度を取るんだ。ここまで決めている俺がとても恥ずかしいじゃないか!」
武士は苦笑いしていたが、女子の態度は明らかに冷え切っていた。
見る価値もなさそうに彼から目を離している。
「おいいいいいい、目標くらい夢がでかくても良いだろおぉ?」
「いや、なんかそんなもんかと思ったら力が抜けて」
「うーん、別に悪くはないけどそこまでかっこつけて言うことじゃないような。というか仁君の頭の中、子供の頃から変わってないんだね」
ピキリと仁は内側で何かが割れたような気がした。
「お前、だけには、言われたく、無かったのに、がはっ」
「へっ?」
ドサリと、打ち上げられたマグロのように仁は棒倒しになった。
小奈美は子供を見るような優しい目で見つめているが。
「小奈美はどうするんだい?」
仁を捨て去った武士が今度はその彼女に尋ねる。
「私?私は、えーっと、ご飯を食べる、とか?」
「お、おう。そうか、楽で良いな」
聞いた自分が悪かったと武士は笑いながらすぐに目をそらした。
「ふっ、ふん。武士はどうなのよ」
「いや、今のどこにツンを突っ込む要素があった。まあいいが、僕は世界とは言えゲームの世界なんだからポイント一位を目指すよ」
「そっ、そう。悪くないじゃない、ふんっ!」
「いやだからツンを入れるタイミングがおかしいって」
幸江がしょげて体育座りに縮こまる、
ともあれ小奈美以外は目標は大体心の中で決まったようだ。
本当は彼女も決めた方が良いのだが、多分決めろと言っても小奈美は頭を悩ますだけなので、それ以上突っ込もうとする人はいない。というよりまともに居座っているのが武士しかいない。
「それで、この後はどうする。チェス?リバーシ?」
話しかけづらい中、せめて顔を上げていた小奈美が武士に聞く。
「その手もあるけどこれを見てくれ」
武士がストーンからマップを引っ張り出して見せるが、小奈美しか見てくれない。
「ずいぶんと縮小してるね。へー、この建物って上から見るとこんな形をしてるんだ」
そこには上から見たこの地域周辺の情報が載っており、いくつかの建物に吹き出し突きで何かが書かれている。
そして武士はその内の一つに指を差す。
「ほら、ここにゲームスタジアムってあるだろ。よく分からないからさっきここを押してみたんだけど」
現れた情報からはこう書かれてあった。
「なになに、ゲームスタジアムは世界各地に存在するボードゲームなどを行うことの出来る場所。利用料は無料、ポイントは手に入る……えっ、すごくない?」
「でしょ、だからここに行こうと思うんだけど、どうかな?」
目を輝かせた小奈美は真っ先に賛成を示す。
「はいはーい、行きたーい。そこで稼いでガッポガッポだね」
「……良いと思う」
「……明るい未来が待ってるぜ」
「君たち、そろそろ生き返りたまえ」
武士は仁に揺さぶりを掛けながら起こそうとするのだった。
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