その電化業務用につき

 ちょうど手紙を読み終わった時、来客を知らせるベルが鳴った。

「お届け物です」

 インターホンにはいつもの量販店スタッフが映っていた。顔認証にパスしたのを確かめてロックを解除すると五、六分もしてからようやくドアのベルが鳴った。

「グリーラ様からお届け物です」

 ドアを開けると彼の他に同じ店の制服を着た三人が、台車に乗った巨大なダンボールと一緒に立っていた。

「中味は?」

「冷蔵庫です。上がってよろしいですか?」

 もちろんだ。私が脇にのくと彼らは床の上に毛布を敷き、クローゼットほどのサイズのダンボールを運び込み、手際よく開梱かいこんを済ませると置き場所を聞いてきた。

「そこでいい。まだ場所を作ってないんだ。台車を貸しておいてくれるか」

「台車はまずいんで。毛布なら」

 受け取り伝票にサインをして返すとスタッフは私が首に巻いたコルセットを見て気の毒そうな声で聞いた。

「事故ですか?」

「ああ。もう起きない予定だが。君たちも気をつけて」

 彼らが帰ってしまうと、私は改めて毛布に乗ったままの冷蔵庫を見た。シェフのちゆうぼうといった感じのステンレスき出しのやつだ。新品は初めて見た。ドアを開けて納得した。これなら立ったままでも入れる。

 本職だから当然とはいえ、やはり人が喜ぶものを選ぶセンスはさすがだ。この仕事を初めて以来、これほどの窮地きゆうちに立たされたことはなかった。二〇十七年に戻った時の姿勢たるや、危うく首の骨が折れるかと思うような格好だった。次に運転したら背中で真っ二つになるかもしれない。

 だが仕事をしなければ修理代金がない。修理しなければ仕事ができない。パーフェクトな矛盾むじゆんに頭を悩ませていたところだった。私はステンレス製の巨大な冷蔵庫を眺めながら、そういえば一九八〇年代に設計された自動車型のタイムマシンもステンレス製だったことを思い出した。


 洗濯機の脇に置いたサーバラックを見た。このサイズなら機材も一緒に入りそうだ。少々手間だがこの際だから改造するか。


 いや、今回は腕の良いメカニックを探そう。洗濯機でからまったんだ。冷蔵庫だったら凍ってしまうかもしれない。


(了)

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ジャック・ザ・ポストマン 玖万辺サキ @KumabeSaki

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