もう一通の手紙
私が治療を終えて事務所に戻ると机の上に洋型封筒が置いてあった。つい先日配達し終えたものと良く似ていた。一瞬、時代を間違えたかと思った。一種の職業病だ。少なくともこの時系列で、私が医者に行く支度をしている時には机の上に手紙は置いていなかった。
こんな稼業をしていると贈り物の類には少々敏感になる。だがこの手紙には心当たりがある。恐らく問題無いだろう。私は椅子に座って赤と金のリボンを外し、緑色の封筒を開けた。中に入った
『親愛なるジャック
この度の事ではいろいろと世話になった。なんと礼を言っていいか分からんから何度も書くことにしよう。ありがとう。
最終的な請求額は分からんがそれでも良いか、と言われた時には正直不安だったが、弁護士が来たんで理解した。あんたが
だがこうまで至れり尽くせりだと私の職業意識が
私は首を動かさないように椅子ごと身体を回して事務所の中を見回した。いったいどこから入ったんだ? セキュリティにはかなり気を使っているつもりだったが。もっとも彼が相手じゃ何をしても無駄か。
『あんたが首を傷めた原因は洗濯機じゃないかね。何やら機械がたくさんつながってたし、水気がまるでなかったんでそう見当をつけた。
あんたアレん中に入っとるだろう? その背丈であんな狭い所に入ったら、そりゃ体を痛めるさ。私は狭い場所から出入りするからよく分かる。
住宅事情のせいだと思うがこの国の電化製品は小さい。電源と人間用の空間を確保できるといえば洗濯機なんだろうが、あんたはプロなんだから機材もちゃんとしたものにした方がいい。私が良さそうな品を見繕っといた。もう少し片付ければ今洗濯機を置いてある場所にピッタリ収まるはずだ。
だいぶ遅くなってしまったが(これが仕事なら
本当はもう一度会ってゆっくり話したいが、それで話が変わって元に戻されたらかなわん。しばらくは誰とも会わずにゆっくり過ごすことにするよ。人生の最後に面白い経験をさせてもらったことを改めて感謝する。本当にありがとう。名も無き配達人に神の祝福のあらんことを。
プレゼントのプロより配達のプロへ 感謝と尊敬を込めて
メリー・クリスマス』
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