異形は死なず、ただ去勢するのみ。

「そりゃ、先生のおっしゃることもわかりますがね。相手は異世界から来やがったんですよ?」


「だったら尚更です。彼のいた世界がどのような場所かは知りませんがここには法と正義がある。それを踏まえた上でどうやって罪を償うべきか、共に寄り添い考えるのが弁護士の役割です」


「いやいや先生、そりゃ若すぎますって。あっしみたいに長年刑事なんぞやってるとわかるんです。こいつは人どころか化け物の部類ですって」


「そのような差別発言はやめて下さい」


「言いたくもなりますよ。あいつの被害者どれだけだかご存知で? 自供を信じるなら一晩で一グロス、つまりは十二ダース、百四十四人、あっしがこの職についてからの最多記録ぶっちぎりで更新です。繰り返しますが一晩ですよ? それも単独で、素手で、化け物ですって」


「ですが殺意は否定されてるんですよね?」


「あぁそこははっきりと、実際に同じ手口での他殺体も上がってませんしね」


「だったら」


「勘違いしちゃいけませんよ。こいつはそれ自体が目的なんだ。怨恨なら恨みが晴れればスッキリするし、金目的なら金が手に入れば大人しくなる。だがこいつは、キリがないんで」


「それは……ですがそれなら尚更人権問題になります。少なくとも精神鑑定は絶対です」


「そりゃ同感ですな。トーナメントの優勝賞品も自分分裂させて各次元に送り込みたいとか、ありゃ幼少期のトラウマが心を壊したってことなんでしょうね」


「ですから、そう言った差別発言はやめて下さい」


「事実でしょう。あいつは一連の犯行を救いだってのたまわってんです。相手のためを思ってやったんだって。ひょっとして、先生は前任者のこと聞いてないんで?」


「……体調不良としか」


「食らったんですよ。手錠してあるからって油断して接近して、つま先蹴り一発で片方破裂ですよ。まぁ、先生みたいなべっぴんさんなら別かもしれませんがね。白線を引いてあるんで、そこから中には……あぁそっちじゃないです。こっちです」


「え? 取り調べ室ではないんですか?」


「いやね、玉を蹴り潰したとはいえ、トーナメントで敗退、負傷した身体、化け物とはいえ気を失っちまいまして。そんなのを化け物とはいえ独房に放り込んどくわけにもいかないんで今は治療室で寝かせてますよ」


「待って下さい。確かあのトーナメントは勝ち負けに関係無しに全回復させていると聞いてますが?」


「……いやでも、あの傷は、それにちゃんと手錠もしてありますし、見張りだって完全武装のを三人も」


 ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!


「……今のは」


「黙って! あっしの後ろから離れないで、いいですね?」


「わかりました。ですが刑事さん」


「今は、人権やら弁護士やら抜きにしてください。相手は化け物、殺す気でやらなきゃこっちがやられる」


「刑事さん!」


「ですから!」


「違う! 上!」


 ギュパン!


「あ、あぁ……あぁ。俺の、手がぁ」


「…………ふむ。やはり銃を相手にすると手加減ができん。ここで救い続けるには銃相手にも慣れればな」


「あ、あの、私、私は……あなたの」


「聞いてるよ。私を救いに来たんだろ? だが先にあなたを救わせてもらおう。何、痛いのは最初だけで、すぐに快感、残るは永遠のすっきり感だ。悪い話じゃ、む?」


「逃げ、ろぉ」


「刑事さん!」


「ほうほう、これはこれは、なかなかいいイチモツをお持ちのようで。片手を失くしてこれほどの握力とは、あなたは素晴らしい。時間をかけて救うに値する。が、しかし、あの若い人は逃げてしまった。彼女も救いたい。さて、どちらを優先すべきか」


「ふざ、けんな。お前は、行かせない」


「まぁそうでしょう。あなたをゆっくりと救ってから、彼女をゆっくりと救うとしましょう」


 ぬちゃり


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」


「そんな声を出さないで。まだもう一方の手がとれただけですよ? 本番は、これからです」


「来るな! 来るなぁあああああああ!」



 ▼



 ……あぁ、異世界を救う旅はまだ、始まったばかりだぁ。

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もとめるのはただ一つ、去勢のみ。 負け犬アベンジャー @myoumu

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