中古のDVDレコーダー

山内綾

第1話

仕事から帰ってくると、真っ暗な部屋に赤いランプが見えた。すこし不安だったが昨日届いた中古のDVDレコーダーはちゃんと作動しているようだった。帰りしなにコンビニに寄って買ってきた缶ビールとつまみで一杯やりながら、レコーダーを再生すると、起動音がしてすぐ画面が切り替わった。安い割に性能はいいじゃないかと思ったのは最初の5秒くらい。すぐ音がなくなり映像が途切れ途切れになった。

何度再生し直しても同じで、1時間番組を録ったはずなのに10分ぐらいで終わっていた。

「なんだよこれ」

その日はテレビを消して静かな部屋で晩酌をしてすぐ寝た。


翌日いつものようにコンビニで、缶ビールとつまみを買ってから帰ると赤いランプが見えた。あれからレコーダーには触っていない。テレビを付け缶ビールを飲もうとしたところで手が止まった。録画リストにずらりと並んだNEWは100を超えていた。

「どうなってんだよ」

リモコンで闇雲に設定メニューをいじっているとおまかせ録画というのを見つけ、キーワードの所に名前が入っていた。斎藤拓也。これのせいでかと思ってキーワードから斎藤拓也を消そうとするがどうやっても消えなかった。前の持ち主はなぜこんな設定にしたんだろう。そもそもこんな芸能人は聞いたことがなかった。試しに番組を再生してみる。映像は昨日と同じで途切れ途切れだが音声が少し聞こえる。ボリュームを上げてみると断片的に音が入った。それ以外にも幾つか見てみたがみんな同じような感じでただ、音声だけ番組を遡るに従ってクリアになっていった。

「い、と、う、た」

何個目かの番組でそう聞こえたような気がした。なにか意味のあることに聞こえる。

「く、や、さ、い、と、う、た、く、や」

間違いなくそう言っていた。斎藤拓也。色んな人間の音声をつぎはぎしてそう繰り返している。それがサブリミナルのように頭に入り込んで一生忘れられなくなりそうで気持ち悪い。すべてを消すためにメニュー画面を開いて初期化する設定を探す。アルバム、せわしなく移動していたカーソルはそこを指して止まった。前の持ち主は本当に使ったままの状態でこれを出したようで画像が一枚残っていた。迷ったのはほんの一瞬でリモコンを持つ右手をまっすぐテレビに向けた。画面に映し出されたのは若い男性だった。座ってただこちらを見ている。虚ろな目で、どういう感情の顔なんだろう、悲しそうでもあり、苦しいようにもみえる、哀愁みたいなものも感じる、ただこのタイミングで写真を撮られるとは思ってなかったようで少しカメラ目線からずれていた。これが斎藤拓也という男なんだろうか。結局いくら操作しても初期化できなかったので、返品することにした。

「おねがいします」

業者に電話して振り返ると、違和感を覚えた。画面の男の顔が微かに変わっているような気がする。それは表情とかではなく顔の位置が。もしかしたらと思い試しにリモコンのボタンを押してみた。⏩が表示された。早送りされた画面の男がゆっくりこちらに倒れてくる。再生ボタンを押す。男に表情なんかあるはずがなかった。ばたりと倒れた男は画面からいなくなり代わりにあるものが後ろから現れた。ハイヒールを履いた女の足だ。位置的にすぐ後ろに立っていたようだ。

そのままいくら経っても女は突っ立ったままでいた。ただ同じ映像が流れ続ける。さすがにもう消そうと思ったところでなんともなしに音量のボリュームを上げてみた。女は自分の名前を繰り返し狂ったように叫んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中古のDVDレコーダー 山内綾 @yamauchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ