13章 万霊節



 夜遊びする娘はいけない娘


 舞踏会の古びたドレス

 そんなの着ちゃってどこいくの?



 はやくおかえり

 はやくおかえり


 いてはいけない



 かわいい女の子は


 あま~いあま~い

 ケーキで出来てる


 こわ~いお化けにつかまって

 むしゃむしゃたべられちゃうぞ



 おててがなくなる

 あんよがなくなる

 おつむがなくなる


 いたくていたくて

 おもらししちゃうぞ







 切り役人がやって来る

 首を切ろうとやって来る


 女王様のご命令

 女王様のご命令




 小さな娘が泣いている

 夜がこわいと泣いている


 ばあや抱いても泣き止まない

 首切り役人がこわいから



 首切り役人がやって来る

 首を切ろうとやって来る


 女王様のご命令

 女王様のご命令




 かあさん城からかえらない

 足首切られてかえれない


 とうさんお家でふさぎこむ

 手首切られてはたらけない



 首切り役人がやって来る

 首を切ろうとやって来る


 女王様のご命令

 女王様のご命令




 お城の庭に咲く

 バラの花は赤いよ


 根っこんとこには

 首のない娘の死体



 首切り役人がやって来る

 首を切ろうとやって来る


 女王様のご命令

 女王様のご命令




 首切り役人がやって来る

 首を切ろうとやって来る


 女王様のご命令

 女王様のご命令






   鏡の中の蜘蛛の巣、永生の揺籃ゆりかご



 それはタロットのカードである。捲られた絵札が運命を暗示する。


 XVIII 月 天には変化する月があり、地上では犬と狼が見上げ、

 水からザリガニが這い出している。


 


 夜中に鏡をみると

 魔物に魅入られる



 少女?

「こんばんわ、あたし。


 あたし、きれい?

 あたし、かわいい?」



 鏡のお化けに

 取りかれて


 須臾しゅゆの隙間にひきこまれ

 その魂、永劫えいごうを落ちゆき



 その身、、、、


 蜘蛛の巣はびこる

 館に囚われるのよ



 グキッ

 う~ん



 少女は寝台の上に落ち

 首を痛めただけで済む



「イッターーッ

 モー、ナンナノヨ」



 少女、アリス・ヒルコ 13歳

 裕福な家庭の娘


 我が侭でみがって

 うぬぼれやで無思慮



 寝台は蜘蛛の巣を象ったような

 繊細優美な装飾で囲われている




 それはおりなの?

 それとも揺籃ゆりかご




 部屋の壁には3つの肖像画が飾られているが

 血色の眼が動いて囁く声に少女は気づかない



 貴婦人?「そうじゃ、そなたはかごの鳥

 蜘蛛の巣にかった蝶」



 ヒルコ「わー、おかしがいっぱい」




 貴族?「愚かしく愛らしく

 さえずるがいい」



 ヒルコ「ここではお勉強しなくてもいい」




 姫君?「足音をさせぬ猫に狙われているとも知らず

 姿なき蛇に這い寄られているとも気づかず」




 XV 悪魔 悪魔の左右に男女がつながれる。




 魔女の大釜おおがま


 右のかまに入る者は不老となる

 左のかまに入る者は不死となる


 だが、両方に入ることはならぬ


 禁を破らばそは死して生き

 生者の生命をすする者となる




 奥方、クラリモンド、“万象の館”


 蜘蛛の巣の館シェブロの奥方

 あるいは館そのもの


「我らに幾たび

 血を吸われ」





 貴族、ルースウェン卿、“百眼千手の黒翼”


「干涸らびた木乃伊ミイラとなり果てようと」




 姫君、モジーラ、“万化の蛇”、または“夢を操る蛇”


 卿が子供をかどわかし

 奥方が捕らえ込む


 姫の愛玩あいがんのために


「死なぬ、死なれぬ

 死ねはせぬ」



 奥方「この館に囚われて生きよ

 永遠に、、、」




 ヒルコ、愛玩用、使用回数 ∞


「タスケテ、、タスケテ

 、、ダレカ、タスケテ


 アタシヲタスケテ

 、、、、、



 貴族「永生の苦痛と快楽

 骨のずいまで味わうがよい」


 ヒルコ「いや、やめて

 や、そんなのや


 アア、、アアア、、、、

 、、、、、、、ッ」



 姫君「おいで、愛しい娘

 わらわねや



 ヒルコ「死なせて、死なせて

 もう、死なせて


 あたしを死なせて

 、、、、、」




 XIX 太陽 太陽の放射の下、裸の子供がいる。



 少女?

「あ、あたしが

 お嬢様のお世話を

 いたひ、、、、

 、、、ます」



 ドアのノック

 メイド服の娘



 ジル、12歳

 世話係、兼 生き餌


 使用回数8回、使い捨て


「どうぞ、あたしの血を

 お吸いになってくだひゃ

 、、、い」


 はにかみやでドジッ娘

 あたまわるくて気だてよし





 少年?

「よっと」


 ドテッ



 狭い明り取りの窓から入って来た

 黒縁の眼鏡とハンチングの男の子



 侵入者 13歳、使用回数12回

 使い捨てたのち放置のこと



「イテテ」



 少年、ジャック


「ネエチャンは

 オレがとりもどす!」



 わんぱく、シスコン

 根拠のない自信



 ジルの「小さな弟」


 鏡の内と外とでは

 時の流れがちがう?


 少年のほうが成長




 ヒルコ「駄目よ、

 無理ムリ」



 貴族「ほう

 ネズミが罠に掛かったか」


 ジル「そんな、、」




 XX 審判 天使が喇叭ラッパを吹き鳴らし、

 棺から裸の男女と子供が立ち上がっている。



 館の鏡からは

 外の世界が覗ける


 身は館にあれど

 虚像は歩む



 ???


「奴らが

 よみがえったとな?」




 大魔女「滅ぼしたいというか?

 容易なことではないぞ


 すべがないわけでもない

 じゃが、そなたに出来るか」




 XIII 死神 骸骨のような人物が大釜でで首を刈っている。或いは、黒いよろいまとい白馬に乗った骸骨がいこつ




数多あまたの霊を従え』


『おのが身を祭壇にささげよ』


『その身その衣

 白き骨のごとく』


『そは不死者を狩る死神』




 ヒルコ「さあ


「あの子達を助ける

 この身この魂にかえて」



 奥方「我らにてると

 お思いかえ?」



 貴族「莫迦ばか


 この我が

 ありえ、、、」



 姫君「わらわを滅ぼすというのか

 それもよかろう


 ならば万化の技

 夢魔の力

 ゆずり渡そう


 そなたが館の主となるがよい

 愛しい娘よ」




 ヒルコ「バイバイ」


 (あの子達はもう大丈夫)




 II 女教皇 冠とヴェールの女性が書物を手にしている。





 神よ、何処いずこましますか?

 終わらぬ夜は明けますか?


 昼が けがれていとわしい

 この身を消してくれたなら




 ほかに願いはありません



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人魚の恋――たぶん、片恋な少女の詩 壺中天 @kotyuuten

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ