覆いかぶさる女

化野生姜

覆いかぶさる女

…長い髪の女が四つん這いで自分の上に覆い被さっている。

そんな夢をわたしは見た。

二段ベッドの上の段。

体が金縛りに遭い、ただただ恐怖におびえていたのを覚えている。

その数日後、当時受験生であったわたしは夜間の勉強をしていた。

すると、ふいに下のベッドにいた弟がむくりと起き上がり部屋を抜け出した。

年のはなれた弟が寝ぼけて部屋をうろつくことは日常茶飯事であり、

そのときのわたしは特に気にもとめていなかった。

そして翌日、両親の布団にもぐりこんでいた弟はこう言った。

「昨日の夜、髪の長い女の人が四つん這いで僕のことを見ていたの。」

それで怖がってぬけだしたのだという。

わたしは数日前のことを弟に話しはしなかった。

弟が恐がりなことは重々承知していたからだ。

…そして、その数年後。

わたしは叔父が帰省したときに戯れに怖い話はないかと聞いてみた。

すると叔父は、

「俺たちの部屋に女の幽霊がたびたび出たんだよ。

 髪の長い女でさ…。」

と冗談めかしながらそう言った。

わたしはつぎに自分の体験談を語ってみた。

とたんに、叔父の顔がみるみる蒼くなっていくのがよくわかった。


…わたしと弟の部屋は父と叔父の部屋を譲り受けたものでもある。

そうして当時わたしたちは二人の使っていた二段ベッドも譲り受けていた。

部屋か、ベッドか…原因はわからない。

ただひとつ確かなことは、家族三人が同じ女を見たという、

その事実だけである…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

覆いかぶさる女 化野生姜 @kano-syouga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ