ドッペルゲンガー

化野生姜

ドッペルゲンガー

子供の頃、ドッペルゲンガーというものを知った。

もう一人の自分、自身の前や他所にあらわれ目撃される同じ人物。

当時、小学生だった私はその話に興味を持った。

同時にそれを利用したイタズラも考案した。

単純な遊び、廊下の一カ所に隠れ潜み友人の前に飛び出す。

そして一言二言交わしたのちに大急ぎで教室に戻り、

戻って来た友人に自身は廊下にいなかったと告げる。

むろん、言われた相手は驚くだろう。

…そして、そんな単純な戯れをわたしはじっさいに実行してみた。

最初こそ、友人はそれを信じた。

でも、それは数日間のこと。

すぐにまわりの話からばれてしまい、

結果としてこのイタズラは不首尾に終わった。

…しかし、話はそれだけで終わらなかった。

後日、わたしは風邪をひいた。

38度超えの高い熱だ。

学校を休み、三日に渡り布団の中で熱にうかされていた。

それから数日後、学校に行くと

なぜかわたしがずる休みをしたという噂が立っていた。

話によると、わたしが休んでいた日に土手を歩いていた姿が目撃されたらしい。

しかも話をしてくれた同級生はわたしとは

ほとんど関わり合いのない人物だった。

嘘をつくようなタイプとも思えない。

そして彼女はわたしの広めた噂を知らなかった…。


その後、わたしは小学校を卒業し中学にあがった。

そして新入生歓迎会に参加したときのこと。

歓迎会が一段落した頃、

わたしは上級生に手を引かれとある人物の前に連れて来られた。

見れば、渦中にいる一人の上級生が不機嫌そうにしている。

それは、見たこともない人物だった。

そして、話を聞いてみて驚いた。

まわりの上級生の話によると彼女とわたしの顔はそっくりだということだ。

わたしはそうは思えなかったが、まわりの話ではそうだという。

良く似た他人、上級生の先輩。

そして彼女には妹がいた。

わたしは生徒だけでなく先生にもたびたび件の姉妹と間違えられた…。


…世界には、ドッペルゲンガーと同じように、似た顔の人間が三人いるという。

兄弟とか、親類とかそういう関係ではない。

赤の他人であるが、自分と似た顔がこの世の中にはいるというのだ。

でも、そう考えれば納得である。

おそらく、土手で見かけられた“わたし”も彼女らのどちらかだったのだろう。

そう結論に至ったわたしは、もはや不思議でもなんでもないその話に

決着がついたような気がした。


…そして、高校時代のこと。

わたしは本屋でふいに声をかけられた。

「◯◯ちゃん?◯◯ちゃんでしょう?ひさしぶりだね!」

それは、他校の制服を着た、見たことの無い女子であった。

「ねえ、このあいだのアニメ見た?あの回の主人公、よかったよね。前から

話をしていたときみたいな展開でさ、ほんとわくわくしたよ!」

わたしは慌てた。そんな話知らない。あなたが誰かも分からない。

「じゃあ、また話しようね!◯◯ちゃん!」

そうして、彼女は去って行く。

わたしの名前を呼び、親しい友人のように去って行く。

わたしはそれに対し、ただただ驚いていた。

これは何か、イタズラか?

…でもなぜ彼女はわたしの下の名前を知っているのか。

わたしは胸につけた名札を見る。

制服に名札はついていたが、名字だけで名前はない。

それにあの親しげな態度、あきらかに知り合い以上の様子だった。

でも彼女は誰だ。わたしの記憶には無い。わたしにはわからない。

なんでわたしが見てもいないアニメの話をするのか。

どうして数日前に話したかのような態度で語ったのか…。


…世界には、自分と同じ姿をした人間が三人いるという。

わたしはすでにその中の二人にあった。

それは名字の違う、顔の良く似た他人だった。

…でもあと一人は、わたしと同じ姿をしていて、

わたしと同じ名前を持っていて、

いくつか、わたしの知らないことを知っているようである…。










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ドッペルゲンガー 化野生姜 @kano-syouga

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