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材木魚類
プロローグ
肌に冷たいものが滑り落ちる感覚が伝い、目が覚めた。身動きを取ろうにも手首に手錠がかけられている上に壁に固定されていて動けない。顔を上に向けると鉄格子付きの窓から入った月光が反射して輝く水滴が見えた。肌に落ちてきたのはあれだろう。周りを見渡すと正面には鉄格子、周りは石造りの壁。もちろん天井も石造りだ。水はあそこから漏れているのだろう。
しかし、ここは一体どこだ。
「ーーーー……」
何処からか歌声が聞こえた。男であろう低い声だ。する事もないので交流を図る。一周まわって冷静になってきた。
「……歌が好きなのか?」
「……ん?あぁ、口ずさんでいただけだ。好きでも嫌いでもない」
「そうか、何の歌なんだ?」
「出会いの歌だ。……そうだな、私とお前が今日ここで出会った記念の歌といったところだな」
「即興で作ったのか?」
「無意味に多才なものでな」
妙にムカつく答えだが……まぁ、悪い奴ではないと思う。直感だが。
「それはそうと、何故俺は牢屋に入っているんだ?」
「知らんなぁ。私は元々客人でな。来たら私も繋がれてしまったのだ。ははは」
「いや、笑い事ではないだろう」
「む?まだ気づかんのか?ここはお前の精神世界だぞ。現実ではないから安心するといい」
「せっ……はぁ!?」
驚いた。精神世界というのはその通り「人の
「ここは俺の精神世界なんだろう」
「そうだな」
「なぜその精神世界で俺は繋がれて……」
「……あぁ!別に私はお前が
初対面の人物にとんでもない誤解をさせるところだった。何が悲しくて自分がドエムだと勘違いされなくちゃならないんだ。しかも残念そうに違うのか、と呟くんじゃない。じゃなきゃ今度は俺がお前を誤解しそうだ。
「……はぁ、なんで勝手に精神の中に入られた上にこんな辱めを受けなくちゃならないんだ」
「ははは、悪かった悪かった。私は普段人に関わるような者ではなくてな、久方振りに人と話せたから、ちと羽目を外してしまった」
「もういい……悪気が無いのはわかったよ」
「しかし精神世界がその者の心象を表す、というのは確かだ。縛られているからドエムというのは私のふざけた冗談だが」
当たり前だ。安直にもほどがあるだろう。
「だが何かに縛られているのは事実だろう?現にお前は牢屋の中。私もお前の心象に囚われて牢屋の中だ」
「俺の精神が何かに縛られている?……普通の家庭環境で育ってるんだけどなあ」
「詳しいことは私にもわからん」
とりあえず俺の心象のことは置いておこう。精神世界のことについては謎が多い。ここで結論を出すことではない。聞きたいことは……
「お前どうやってここに来たんだ?」
「……家に精神世界にまつわる書があってな。興味があって色々してみたんだが、まぁ、うん、来れたな」
「興味で来れるものなのか……。しかし、精神世界に関わらず一般的に伝わる精神魔術も高難度で莫大な魔力を必要とする。……俺は世辞にも魔力は多くない。皆無といってもいい。そんな俺の精神世界を具現化させ続けてるお前は一体……」
くすり、と隣の牢にいる男は笑った。
「答えを急ぐことでもないだろう。また今度、私はここに来よう」
男がそういうと視界がぐにゃりと歪んだ。色彩と色彩が混ぜられる異様な視界に思わず吐き気を催す。
「また今度、って?」
「俺も頻繁にこの魔術が使えるわけではない。……次の月のない夜にまた来よう」
「……名前は、お前の名前は」
「名前……、名前か。……
明らかに今取ってつけたような風だったが、気にしないでおこう。
「こちらからも問おう、夢幻の友よ。お前の名はなんという?」
「俺は……、
「影の月……そうか影の月か」
男は俺の苗字を慈しむように何度も呟いた。その声色はまるで、
「では、要よ。次の月のない夜に、な」
俺の視界はついに色彩が混ざり切り、黒に塗り潰された。
次に目を開けた時に見えたものはは石造りの天井ではなく、見慣れた木目の天井だった。時計を見ると午前3時を指しており、外はまだ夜明け前。……ああ、そういえば。
「今日は新月の夜だったなあ」
Answers 材木魚類 @UNAGI_0919
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