82話最終話 僕らはどこにいても繋がっている!



 VR学習の後に狩りに繰り出すという日々が続き……期末テストも終わり……そして待ちに待った夏休みが明日から始まる。


 終礼も終わり、教室の真ん中で

「やったー! 夏休みが始まるぞ! ゲーム三昧だ!」晃の親友の春日雷太がうれしそうに晃に話しかける


「夏休みの宿題をとっととやっつけるか……それからゲーム三昧だな」山川哲郎がつぶやく


「う! 俺はいつも夏休み残り3日であせってやるパターンだ」雷太が焦りながら答える。


「はははは! 僕は計画的に宿題をするタイプかな」晃が答える……どうやら哲郎は夏休みの宿題をさっさと終わらせてから遊びまくるタイプ、雷太は後者、晃は毎日計画的に宿題をやってから毎日遊ぶタイプと三者三様に別れたようである。


 このタイプ別はその後の人生にも反映されると言われる……。


 などと談笑にふける晃に接近して来た美女、

沙羅が「晃君、ついに夏休みが来たわね、1週間後に待ち合わせよ、よろしくね! それと今日のログインは18時だからね!」と声をかけて踵を返して教室を後にする。


「いいなー晃氏は……毎日姫宮さんとゲーム出来て、うらやましいぞなもし」


「ところで待ち合わせって?」

哲郎の問いに、

「東京の龍ヶ崎家の屋敷に沙羅さんと一緒に招待されてるんだ……」

 

「そうか……ついに龍ヶ崎桜の足のパワーアシスト装置が完成するんだな」


「うん! お披露目会でもあるみたい、それが目的でハンティングワールドにみんなで集まっていたからね」

 感慨深げに答える晃の脳裏には、初めて沙羅に声をかけられてから始まった楽しい日々が走馬灯の様に駆け巡っていた。


 そして夏休みに入りハンティングワールドで沙羅や龍ヶ崎姉妹、エルフ兄妹、エリザベス、コタローと遊び倒す毎日を送り、1週間が経ち10時に待ち合わせ場所に向かう晃であった。


「晃君、おっ待たせー! 結構待たせたかしら!」


 振り返ると白いワンピース姿の姫宮沙羅が……実物の私服姿は初めてだ、赤いキャリーバックを引いている。


「僕も今着いたところだよ」本当は待ち合わせ時間の30分も前に着いて黒のジャケットに茶色のズボンの一張羅に身を包み、ひたすらソワソワしていた晃だった。

 

 晃が「でもなんでこんな町外れで待ち合わせなの? てっきり東京に行くのだから静岡駅で待ち合わせなのかと……」


「今に分かるわ!」と微笑みながら歩き出す沙羅……後ろをついて行く晃、数分歩くと眼前には大きな門や塀に囲まれた豪邸が出現した。


「こ、これは! 噂に名高い、龍ヶ崎家の旧邸では?」


「そうよ!」ベルを鳴らす沙羅。

立派な門が開いて黒いスーツに身を包んだ初老の男性紳士が……。


「姫宮沙羅様と木崎晃様ですね! お待ちしておりました! 私は龍ヶ崎旧邸の管理をしております執事です。事故に遭ってからすっかり落ち込んでしまった桜お嬢様が御二方とゲームで遊ぶ様になってからすっかり明るい性格に戻られたとお聞きしております」


 にこやかに手を差し伸べる執事、握手で答える晃、沙羅であった。


 そして広い中庭に案内され、大きなヘリポートがあり、中央には大きな翼と羽根を二枚持つ飛行機の様な乗り物が……操縦士がドアを開けて手招きしている。


 乗り込む晃と沙羅、「これが噂のジェットティルトローター機か、初めて見た! しかしこんなもんプライベートジェットとして所有するとは……龍ヶ崎家恐るべし!」晃のオタク心が騒ぐ、そして二枚の羽根が回り始め急上昇する機体!


「あっとゆう間に、邸宅が豆粒みたいに小さくなったわね! 富士山が綺麗に見えるわ!」


 そして富士山を後方に置き去りにあっという間に飛行をするジェットティルトローター機でありました。



「東京タワーやスカイツリーが見えて来たよ!」

「あれは都庁? 六本木ヒルズも見えるわ!」


 サービス精神旺盛の操縦士が東京の上空を旋回してくれている。


 そして、屋上に大きなヘリポートのある龍ヶ崎家の麻布にある邸宅に着陸する機体。



 屋上にはやはり執事らしき人物とメイド姿の女性3人が迎えてくれた。うわさの龍ヶ崎メイド7人衆の一部だろう。


 それから晃と沙羅はエレベーターから一階に降り、広大な中庭へと案内された。


 中庭には巨大なプールがあり、プールサイドのテーブル付近に男性紳士1人と女性2人がニッコリと微笑んでいる。


 駆け寄って行く沙羅! 「葵ちゃん……本当に久しぶり!」1人の女性は龍ヶ崎葵である。赤毛のロングヘアーに高級そうなスーツを着ている姿はさすがお嬢様……貫禄がある。


 「沙羅ちゃん本当に久しぶりですわ!」涙を流しながら抱き合う2人……ゲームの中では毎日会っているが、実体同士で会うのは桜が事故に遭って東京に引っ越しした2月以来ぶりなのだ。


「木崎晃君だね! 君には本当に娘達が世話になった!」貫禄ある男性が晃に近づき握手を求めて来た、テレビや雑誌でお馴染みの龍ヶ崎グループCEOの龍ヶ崎壮介だ……緊張しながら握手する晃。



「桜の見舞いに行く度にゲームの話を楽しそうに聞かされたわ、木崎君には本当に感謝してますわ!」龍ヶ崎姉妹の母親である龍ヶ崎恵美、龍ヶ崎フードサービスの社長でもある。


 2人は沙羅にも御礼を述べてから「そろそろわたし達は仕事があるので失礼する。ゲストルームに何泊しても構わないからね、あとは若い者同士で楽しくやってくれ」と言いながら去って行く。


 そして葵が晃に近づき、「晃君お久しぶりですわ! 本当に桜だけじゃなくて、私までも楽しませてもらいましたわ!」


 龍ヶ崎葵と握手を交わす「で……主役の桜さんは?」


「せっかくの桜のお披露目会ですから、スペシャルゲストを呼んでますの、このサングラス端末を沙羅ちゃん、晃君、掛けて下さいですわ」

とサングラス端末を渡されたので掛けてみる晃と沙羅。


 サングラス端末を通じて見ると3人しか居なかったプールサイドの人影が6人に変わった!


「これがお前達が住んでいる世界なのか! すごい豪邸だな!」

 そこに現れたのは……なんとルーク、アリシア、エリザベスではないか、足元見るとコタローが晃の周りをクルクルと回っている。

「ワン!」


「ルーク達をAR化させたの? でも一体どうやって?」


 葵が澄まし顔で答える「まあ龍ヶ崎グループはハンティングワールドオンラインと提携しておりますから、ほほほほ!」

 お金の力とは恐ろしい……と思わずにはいられない晃だった!


「ワフ!」コタローが晃に飛びついてきたがすり抜けた……不思議そうに首を傾けるコタロー。


「残念ながらわたし達はそちらの世界を見る事はできても、触れ合う事は出来ないようじゃな!」

「残念!」

アリシアとエリザベスが残念そうな表情をする。


「いつか僕がゲームプログラマーになった暁には解決してあげよう!」


「お? 頼りにしてるぜ晃!」

「キャハハ!」

「おほほほほ!」

「ワン!」


 邸宅の中庭側の扉が開いた、「いつまで主役を放置するでござるか! 待ちくたびれたでござるよ!」


 扉から現れたのはシルバーのショートカットの美少女、龍ヶ崎桜。


 ピンクのタンクトップにジーンズという出で立ちである。



 そしてゆっくりだが、50メートルは離れている晃達のいるプールサイドに向かって歩き始めた。

興奮したコタローが桜の足元に走って行きクルクル周りを回る。


 一歩一歩確実に足を踏みしめながら前に進む桜、だんだん速歩きに変わり……そして走り出し……沙羅と晃に抱きついた!


「沙羅姉! 会いたかった! やっと本当に会えた!」


「私も桜ちゃんに会いたくて……会いたくて! どんなにこの日を待ちわびた事か!」


「晃お師匠のおかげで今の私があるでござるよ、

歩いたり、走ったりするだけでなく将来的には子供も産める体になったでござる」


 涙ぐみながら話す桜につられるように、晃も熱いものがこみ上げてきた。


「おめでとう……よ、良かったな桜! ちくしょう僕の目の中でリヴァイアサンが暴れまわってやがる」


 こうしてコンタクト端末からのVR操作で腰にリング状に取り付けたパワーアシスト装置の効果により、下半身付随であった龍ヶ崎桜は大地を再び踏みしめることができる様になったのである。誤動作による事故を無くす為にハンティングワールドオンラインで過ごした1カ月越えの日々が身を結んだ訳である。


「さあ、桜の全快祝いとして恒例のパーティーですわ、龍ヶ崎専属シェフによる豪華料理を堪能あれ!」


「おー!」

「ワン!」


「今俺たちがいる湖畔の屋敷のテーブルにも、龍ヶ崎専属シェフの1人がVR接続してビールや料理を並べてくれているぞ!」

「すごいのじゃ!」

「すごい!」


 晃のいるプールサイドのテーブルにも脱皮したての伊勢海老、キャビア、フォアグラ、黒トリュフのパスタなどの高級料理がメイド7人衆達に所狭しと並べらていく。

 

 ルーク、アリシア、エリザベスはビール、晃達はコーラを片手に、コタローの目の前にはミルク入りの器、

「カンパーイ」

「乾杯ですわ!」

「ワン!」

 いつ終わりを告げるとも知れぬ長くて楽しいパーティーが始まったのである。


 それと共に晃の心の中には一抹の寂しさが生じていた……晃に突如として現れたこの楽しい生活、片想いだった沙羅や高校のヒロインお嬢様の双子姉妹との楽しい毎日のゲーム生活やルーク、アリシア、エリザベス、コタローとの出会いはすべて桜のリハビリ目的で始まった事である。


 桜が普通の生活に戻るという事は全て終わりを告げて、みんな本来の生活に戻って行ってしまうのでは……という不安が晃の心に畳み掛けるのであった。


 それから3日間、晃と沙羅は龍ヶ崎豪邸のゲストルームに泊めてもらい……残念ながら別室ではあるが……ゲームや東京観光を沙羅、葵、桜とARのルーク達と楽しんでから、沙羅と静岡へ帰ったのであった。





 ——それから4年の歳月が流れた——


 



 7時に起床した晃は6畳の狭いアパートを見渡し

「ふぅー」と溜息をつきながら起き上がる、ベッドが大部分を占める部屋の隅に小さなキッチンがあり、トースターにトーストを入れてフライパンで玉子焼きを作り始める。


 出来上がったトーストと玉子焼きをベッド横にある小さなテーブルに置いて食べ始める。

 

 そこは東京の多摩市にある、学生専門アパートであった。決意どうりにコンピュータプロミングの学科のある私立大学の工学部に進学が出来た晃は上京し、一人暮らしを始めていた。23区内のアパートの家賃は高いため、少し大学に遠いが多摩市に住んでいた。自然も残っており、新興都市のため非常にマンション群の風景が綺麗で晃は気に入っていた。


 自炊生活は相変わらずの晃である。毎月の仕送りをやり繰りするには、朝食と夕食は基本的に自炊、昼食はリーズナブルな学食定食が定番であった。たまに大学の友人達と夜にリーズナブルな居酒屋で飲むのが楽しみな贅沢といった普通の学生生活を送っている。


 トーストをコーヒーで流し込みながら、サングラス端末のスクリーンを展開させてニュースをチェックして行く。


 その時、スクリーンがもう一つ展開して、チャット会話が割り込んで来た、それを見た晃の表情は明らかに輝く、

「晃君、おっはっよー! スケジュール表見たわよ、午前なら空いてるのね?」


 沙羅からのチャットメールだ、彼女は通訳の道に進む志しを叶えようと本場の英語を学ぶべくロスアンゼルスに語学留学している。


「そうなんだよ! 今日の授業は午後からなので午前中の5時間くらいなら……」


「ちょうどよかったわ、今ロスアンゼルスは14時過ぎであとひとつ授業受けたら終わりだわ、19時に地元の友達のホームパーティに呼ばれてるのでそれまでの間ならいいわよ!」


 と、その時さらに割り込みチャットが「いいですわね、今こちらは17時で授業が終わったところですわ! 私はいつでもよろしいですわ!」


 葵もグループチャットに参加して来た、彼女は龍ヶ崎グループの発展に貢献するべく、アメリカのケンブリッジにある大学の経済学を履修していて、将来的には院のビジネススクールに進んで、MBA(経営学修士)を取得するべく励んでいる。


 沙羅が「時間的に桜は厳しいかしらね……」


 桜はブルジョワ階級の人脈作りやお嬢様修行の一環としてスイスのジュネーブにある大学に留学している。


「大丈夫でござるよ、今スイスは23時過ぎでござるが、みんなの合同スケジュール表を見て19時から仮眠してたでござる。だから3時間くらいなら大丈夫でござるよ!」


「よし、1時間後の8時30分にログインするよ!」

「いいわよ!」

「了解ですわ!」

「承知でござる!」


 そしてハンティングワールドオンラインにログインした晃は、待ち合わせ場所の大草原に現れた。


 沙羅、葵、桜がすでにログインしていた。挨拶を交わす3人に向かって、ゴゴゴゴと音を立てながら接近する砂煙り。


 アリシアを背中に乗せて走るのはすっかり大きくなったコタローである。そのとなりにはエリザベスが……彼女も大きなウルフの背中に乗っている。


 コタローが背中にアリシアを乗せたまま「ワフ!」と興奮しながら晃の顔を舐めまくる。

「おいおいコタロー! 僕の顔をヨダレまみれにしないでくれよー!」


 エリザベスを背中に乗せたウルフは沙羅に気持ち良さげに撫でられている。

「エリン元気だった?」

「ワフ!」と尻尾を振るウルフ、コタローのつがいの雌だ。


 そして小さかった頃のコタローにそっくりなチビ達5匹を引き連れてルークが現れた。


「みんな久しぶりだな!」

「久しぶりなのじゃ!」

「おひさー!」

 ルーク、アリシア、エリザベスが口を揃える。


「昨日もあったばかりじゃないか?」


「俺達には2日間だ! だから久しぶりなのだ! 今日はどれくらい時間があるのだ?」


「現実時間で3時間……ゲーム内では6時間ってところだよ!」

「それだけあれば充分だ! よし、狩りに繰り出すぞ!」


 全員が「おー!」「ワン!」と叫んだ!



——そう——僕達はどこにいても繋がっているんだ——








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VRからの贈り物 夏物語 武 瞬 @takeshunz

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