着ぐるみパジャマ女子、オッサン騎士団長を愛でる。

もちだもちこ

第1話 着ぐるみパジャマ女子、雄っぱいを愛でる。

 平凡なOLである私の唯一の楽しみは、休日『着ぐるみパジャマ』を着て、ネットしながらダラダラと過ごすこと。

 ところがある日ショックな事が起こる。

 私の一番のお気に入り『トローロ着ぐるみパジャマ』が、数年着続けていたことにより景気良く破れてしまったのだ。

「これはもう着るなということだよね、トローロ」

 よく見ると尻の部分も薄くなていて、裏起毛の起の字も感じられない。

「新しいのを買おう」

 ネット通販で着ぐるみパジャマを検索すると、最近売り出し中のアイドル三人組が着ていた着ぐるみパジャマを見つける。

「あれ、特注かと思ったら市販されていたんだ!」

 某メーカーのキャラクター『モフモフわんころ餅』の着ぐるみパジャマ。

 名前にモフモフが付いてるし、さぞかしモフモフだろうと期待が高まる。

 私が着ぐるみを選ぶ基準は「触り心地」だ。今回はたまたまネットで好みのものを見つけたが、届いて触り心地が悪ければ別のを購入する予定となっている。

 お金はほとんど使わない性格だから、着ぐるみパジャマの一つや二つで懐は痛まない。


 そして、この日の夜に届いた『モフモフわんころ餅』着ぐるみパジャマ。

 早速ワクワクすっぞと封を切り触ってみる。

 表側はモフモフな質感で、裏地は肌に吸い付くような素晴らしい手触り。

「これは素晴らしい逸品だ!!」

 今着ているスエットを脱ぎ、さっそく新品の着ぐるみパジャマを身につける。

「おぅふ、至福……」

 裏地の手触りの良さを堪能すべく、今回はノーブラノーパンな私。

 女子としてどうなのかは気にしない。

 この着ぐるみパジャマの質感に余計なもの(?)は不要なのだ。

「……トイレ」

 流石に着ぐるみパジャマがモフモフしているとはいえ、真冬にこれ一枚では少し寒い。もよおした私はいそいそとトイレに駆け込む。

 ドアを閉めてから着ぐるみを脱いで足元まで下ろし、便座に座ろうとして、なぜか後ろに勢いよくひっくり返った。

「痛冷たい‼︎」

 足に着ぐるみパジャマを絡ませたまま、何故か冷たい床に尻もちをつく私。その勢いのまま後に一回転して、しゃがんだ状態でピタリと決める。

 うん。昔からマット運動は得意だったのだ。

「……って、え? なんで便座が無いの?」

 周りを見回す。

 石造りの重厚な壁の部屋で、床も灰色の石が敷き詰められている。天井は高く電気らしきものはついていない。部屋の真ん中に、高そうな大きい机がデデンと置かれている。

「その格好をどうにかしろ」

 お腹に響くバリトンボイス。

 ここからは見えないが人がいることに驚いて、慌ててしゃがんだまま着ぐるみパジャマを足首から引き上げる。顎まであるチャックは一番上まできっちりと上げておく。

 全裸を見られた恥ずかしさよりも、その声の主が見たくて机に手をかけ、こそりと覗き見る私。


 カッッッコイイッ‼︎‼︎


 危うく声を上げそうになるのを必死に抑える。

 まずは眉間のシワ。整っているその顔は、そのシワで若くはないということが分かるが、若い頃はさぞかしモテただろう。

 そして騎士服のような上着は、肩に軽く羽織るだけ。

 そう! 羽織るだけというのがポイント!

 白いシャツを着ている男にとって、その上着はきっと窮屈なんだろう。なぜなら首から肩にかけての盛り上がり! そしてその筋肉……大胸筋様が大層盛り上がってらっしゃるのだから!

 そうだ。

 何を隠そう、私はガチムチのオッサンフェチであり、オッサンのおっぱいフェチでもある。

 最近よく(?)聞く『雄っぱい好き』というやつだ。

 そんな盛り上がりのお胸様に対し脳内祭りでワッショイしている私を、不機嫌そうに見てくるオッサン。

 それはそうだろう、今の私は視姦する勢いで彼を見ているのだから。流石に申し訳ない気持ちになって視線を外すと、ガチムチなオッサンに似合わぬ書類の山が机にもっさりと置いてあることに気づいた。

「似合わないっすね」

「何がだ」

「ガチムチなお兄さんは、ムキムキ筋トレすべきっす」

 私はオッサンをお兄さんと呼ぶ。

 いくら私が二十代でオッサンが四十代後半の外見とはいえ、オッサンに対しオッサンなんて言ってはいけない。オッサンはデリケートなのだ。

 なぜ私がオッサンに詳しいのかと問われれば、好きだからとしか言えない。

 小さい頃は某クエストゲームの勇者の父に萌え、某大冒険漫画では勇者の師匠に萌えた私だ。例えが古いのは、漫画を貸してくれた親戚のお姉さんの影響である。

 閑話休題。

 そんなわけで書類仕事をするガチムチなオッサンに筋トレを勧めるも、彼は眉間のシワをさらに深める。

「俺しかやる人間がいない。副官は任務で出張中だ」

「そうでしたか」

 ふむふむと私は頷く。書類の中を見ると言語は分からないけど数字は見て分かる。どうやら収支の計算をしていたようだ。

「これ、縦に足していけば良いですか?」

 そう言うと、オッサンはこの部屋に来て初めてこちらを向いて、私の目を真正面から見てきた。

 プラチナブロンドに青い目、睫毛は長く彫りの深い顔立ち、鍛え抜かれた体は如何にも『騎士』といった感じで……思わず笑ってしまう。

 だって、これで本当に騎士だったら「そのまま」じゃないか。

「何がおかしい」

「いえ、特に何も。騎士隊長殿」

「俺は騎士だが隊長ではない。昇進してしまったからな」

「ほうほう。苦労されてますなぁ」

「まぁな」

 再び書類に視線を戻すオッサン。

 ところで彼は侵入者や暗殺者だとか思わないのだろうか。そう問いかけると「そんな緊張感のない暗殺者が居てたまるか」と笑われたので、私は大いに不貞腐れたのである。


 こうして私は平日にOLとして勤務し、土日は自宅のトイレから繋がっている『謎の執務室』で団長の書類を計算する仕事をしている。

 驚くことに衝動買いした「モフモフわんころ餅」の着ぐるみパジャマを着ている時にだけ、自宅のトイレからあの場所に繋がるようなのだ。

 計算が苦手な私は家から電卓を持ち込んでいる。ちなみにキーを打つのは早い。検算機能も付いているゴツイ電卓なので、スタタンスタタンと景気良く叩いている。

 仕分けは団長、計算は着ぐるみパジャマの私、仕事は流れるように進む進む。

 団長は土日(と言っていいのかこっちの世界では分からないけど)まで書類を溜めて、私が来てから書類仕事をしているちゃっかり屋さんになっていた。

 お茶もお菓子も持ち込む私。ティーパックだけど団長は「美味い!」と叫んだほどこの世界ではお茶が不味いようだ。今度製法をネットで調べてあげようと思う。

 で。

 私がなぜここまでオッサン団長に心を砕いているのか。

 それは仕事終わりのご褒美があるからだ。

「よし終わった。いいぞ」

「いやっっったぁぁぁ‼︎」

 最近、眉間のシワが取れてきた団長は、目を細めて両手を広げて私に合図をしてくれる。そして私はその厚い胸板に向かって狂喜乱舞しつつ飛び込んでいくのだ。

「はぁ……いいおっぱいですなぁ……」

「お前は黙ってればそこそこだが、本当に残念だな。嫁の貰い手はあるのか?」

「いいんです諦めているので! 私は団長のご褒美さえあれば、生きてて良かったと思えるのです!」

 むふーっと満足げにため息を吐くと、鼻の穴を広げてオッサンの匂いを堪能する私。至福。至福ですぞ。

 団長の胸筋に顔をスリスリさせていると、耳元で何やら囁かれた。

「なら、俺が貰ってやろう」

「ふぁっ⁉︎」





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