五話 一人目

 ゴブリン殲滅の翌日。僕とエリーは再びギルドに来ていた。

 と、いっても今回は依頼をこなすのが目的じゃ無い。昨日のゴブリン殲滅の依頼は報酬が良かったため、今日は働かなくても大丈夫なのだ。


 では何故ギルドにいるのか。


 そう、パーティーメンバーを募集するためだ。

 基本的にギルドの依頼はパーティーを組んでこなすのが当たり前らしい。

 そりゃそうだ。昨日のゴブリンで嫌ほどわかった。あんなの一人で勝てるわけがない。


 そんなわけで僕とエリーはパーティー募集のボードに募集内容を書いた紙を貼り付けて酒場エリアで待機中なのだ。


「おっ! パーティー募集ですかー??」

「ひぁあ! ……いきなり後ろから声掛けるのやめてもらえないかな。心臓に悪いんだけど」

「あはははは! ごめんなさいねー! あなたの驚気が随分と美味しいもんだからつい、ね?」


 ついつい脅かすとかやめて頂きたい。本当に心臓に悪い。おかげで変な声が出たわ。


「まあお詫びと言っちゃなんだけど、このアタシが予言をしてあげましょう!」


 リサーナがでかい胸を張りながら何かいいだした。

 ……すごい。おっぱいデカ過ぎてボタン吹き飛びそうになってた。


「あなたのパーティーは君を含め五人になるみたいですね! しかも一癖も二癖もありそうなメンバーが揃います!」

「はいはい、そうですか」

「あー! 信じてないでしょ!! あー! あー!! ひっどーい!!」


 なんか面倒なので軽ーく聞き流すことにした。


「アキトよ。此奴は見た目はこれでも三人しかおらん悪魔王の一人じゃ。そして此奴らの予言はほぼ当たる。聞いといて損はないぞ?」

「え、そうなの?」


 後ろで騒ぐリサーナを無視し、まだ見ぬパーティーメンバーを待とうとしていると、エリーが聞き捨てならない事を言った。


 マジかよ、と思いリサーナの顔を見るとイラッとするようなドヤ顔をしていた。何だその顔は。


「というかあなたはパーティー募集するまでも無いんじゃないですかー?? だってその子いますしー!」

「いや、吸血鬼とはいっても無敵って訳じゃないだろうし限界はあるでしょ」

「いやいや! だってその子は——」

「儂は吸血鬼。昼間は思うように力が出んからの。かといって夜に活動するにもアキトが危険じゃ。じゃからこうして仲間を集っとるんじゃ」

「ふーん! ……ま、そういうことなら良いですけどねー!」


 それだけ言い残してリサーナは去って行った。

 まるで嵐のような奴だ……。


 それからしばらく酒場エリアのテーブルにてぬぼーっとしていると声を掛けられた。


「アキト殿とお見受けする!」

「へぁ? あ、そうですが」


 ぬぼーっとしていたので妙な声が出たがまあ気にしない事にした。


 気を取直して声の方を見ると、年は十七、八ぐらいだろうか。白に紫の模様の入った着物の様な服を着て、腰に刀の様な刀剣を差した長身の青髮青眼のイケメンが立っていた。


 その出で立ちは、まるでサムライだった。


それがし、スメラギ=ヨシノと申す!」

「僕はアキト=サクライです。パーティー希望ですか?」

「左様でござる!」


 げ、元気いいな……。


「ま、まあ立ち話も何ですし掛けて下さい」

「失礼する!」


 スメラギ=ヨシノと名乗った男はテーブルを挟んで僕とエリーと対面する様に座った。


「先程も申したが、拙者、スメラギ=ヨシノと申す。家名はスメラギ、名がヨシノ。ヨシノと呼んで貰えると幸い」

「じゃあ僕もアキトって呼んで下さい」

「承知した!」


 ふと気が付いたんだけれど、この世界ではファミリーネームは後ろに付けて名乗るのが普通らしい。

 けれどこの人はファミリーネームを最初に言っていた。

 ……んん? どういう事だ??


「某、見ての通りヤマト皇国出身のサムライ。ここらの土地勘がない故、共に過ごせればと思い募集に応じた次第」

「ヤマト皇国?」


 歩く百科事典のエリーの方を見る。


「ヤマト皇国は『和』を重んじる国家での。少々鎖国気味なせいか独自の文化が発展しておっての。ファミリーネームを最初に言うのもそういうことじゃ」

「へええ、そうなんだ」


 どうやら昔の日本みたいな国らしい。


「剣の腕には多少覚えがある故、きっとアキト殿の役に立てると思う。拙者をこのパーティーに入れてはもらえんだろうか?」

「此奴らサムライは非常に義理堅く、何より強い。儂はええと思うぞ?」


 エリーがフォローを入れてきた。


 なるほど。まあ人柄も良さそう——ちょっと堅いけど——だしエリーも文句無さそうだ。よし、決まりだ。


「うん、これからよろしくヨシノさん」

「よろしくお願い致す! それと拙者に敬語は不要。対等で在りたいのだ。呼び捨てて頂いて構わん」

「じゃあ僕も呼び捨てで呼んでくれていいよヨシノ」

「承知した、アキト」


 僕とヨシノは握手を交わした。


 こうしてサムライが仲間になった。


「して、そちらの幼子は? アキトの妹か?」

「お、幼子……!!」

「ああ! 違う違う!」


 幼子というワードにショックを受けているエリーを置いておき、ヨシノにエリーの正体を説明した。


 とは言っても本当の正体を明かすわけではなく、死なない呪いを掛けられたせいで歳をとらなくなってしまったのだ、と説明するように予め打ち合わせしておいた。

 なにせこの世界では魔神族に呪われた人が少なくないらしい。珍しいには珍しいが、いないわけじゃないからだ。

 

「まあやや! なんと呪い人であったか……これは申し訳ないエリー殿。拙者、まだまだ未熟者故人を見る目が肥えておらなんだ。不用意な発言、許していただけないだろうか」

「ゆ、許すも何も……べ、別に傷ついとらんわ……」


 エリーがめちゃくちゃ落ち込みながら言った。絶対ショック受けてるよね、これ。


「ま、まあとりあえず一人目が見つかったわけだし早速依頼でも受けよっか」


 未だ立ち直れていないエリーと、謝るヨシノを置いて、手頃な依頼がないかボードへと向かった。

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