花祭りの途中で(小鳥ライダーは都会で暮らしたい、発売記念SS)

応援してくださる皆様のおかげで「小鳥ライダーは都会で暮らしたい」が発売となりました

ありがとうございます!

こちらは発売記念として書いたSSです



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 花祭りの間はずっと警邏の仕事をしていたけれど、少しだけ抜け出す時間はあった。それはサムエルも同じで、僕らは時間を合わせて祭りを楽しんだ。途中でサムエルの友人とも合流した。で、名乗ったあとにコレ。

「カナリアって、本当に男なのか?」

「ちょ、初対面だろ。お前、俺の顔に泥を塗るのか」

 サムエルが半ば本気で怒ると、発言した友人が「ごめんごめん」と僕に謝った。

「だって、すげー可愛いんだもんよ」

「だよな。睫が長いし、唇ちょこんとしてるし。ていうか、マジで可愛いな」

 と、他の友人まで顔を覗き込んでくる。するとニーチェがみゅいんと伸びて威嚇。

「みっ!」

 ガードしてくれるのが可愛い。僕はニーチェを撫でながら「大丈夫だよ、いじめられたわけじゃないから」と答えた。

「あ、ごめん。そうだよな、俺らみたいなのが突然近付いたら怖いか」

「悪い。こんな可愛い子を間近で見たことないから、つい」

「ていうか、その子も可愛いな」

「うん、でしょ!」

 ニーチェを褒められたら許すしかない。ていうか、最初から怒ってないけどさ。だからサムエルに「ありがとう、もういいよ」と言って止めた。

「こいつらに言っておくの忘れてた。本当ごめんな?」

「ううん。それより、何を言っておく気だったの」

「カナリアが可愛くても絡むなよって」

 僕が苦笑すると、友人たちがサムエルの肩を抱いて揺すった。

「お前だって言ってるじゃねーか。俺たちばっかり怒るなよな」

「うるさい。それに俺は顔を近付けてないぞ」

 プリプリ怒るサムエルの剣幕で、友人たちは今度こそちゃんと謝ってくれた。

「いいよ。可愛いものにうっとりする気持ちは分かるし」

 サムエル以外がぽかんとする。サムエルはニヤッと笑った。

「な? 分かったろ。カナリアは『いい奴』なんだよ。あと面白い。見た目より、そっちの方が俺らには大事じゃねぇの?」

「……だな。てか、変わったペットを連れているし、面白い奴なのは分かるよ」

「じゃ、俺たちもそういうところをメインに案内するぜ」

「あ、できれば可愛いものが置いてある出店にも行きたい!」

 僕の言葉で全員が笑った。


 そうしてお店巡りをしている時に、困った様子の女の子グループを見付けた。端布をひとまとめ幾らで売る店の前だった。女の子たちは端布を吟味しようとしたんだろう。ところが店主の嫌がらせを受けた。

「俺と握手ゲームをして、勝てたら売ってあげると言ってるんだ。分かった?」

 という声が聞こえてくる。女の子たちが困惑しているのに構わず、オジサンが握手ゲームの説明を勝手に始めた。ちゃんとは聞こえなかったけど、どう考えても完全にセクハラだ。そもそも勝たせる気がないよね。大人の男に女の子が敵うわけないもの。けど、女の子はどうしても欲しい布があったみたい。迷っているからオジサンの誘いを振り払えないんだ。

 通りすがりに気になって聞き耳を立て、腹が立ったので舞い戻る。

「それ、僕が挑戦してもいい?」

「え、ああ、君が? まあいいけど」

 僕を女の子だと勘違いしたらしい。ニヤニヤ笑う男にイラッとしつつ、僕は笑顔で相手した。もちろん勝った。身体強化の魔法を使わなくても勝てます。僕は木登り選手権があったら優勝できる自信がある。

 種族特性や魔力が多いせいで、寝ると体を自然に治しちゃうから筋肉モリモリとはいかないけれどね。そのせいで舐められやすい。今回はそれが役に立った。

 女の子相手に勝てると思ったオジサンに、僕はドヤ顔を向けた。

「はい。三回やって三回とも僕の勝ち。ね、君たちはどれが欲しかったの?」

「え、あの、これを……」

「わぁ、確かに可愛いね。でもお値段もなかなかのカワイサだぁ」

 後半は嫌みたらしく大声で。

 負けたことに困惑中だったオジサンが、僕の表情を見てハッとする。思いっきり、非難の目で見てるもんね。そのまま、にやぁって笑った。

「オジサン、これ、ぼったくってない? 僕、元の値段を知ってるよ」

「いや」

「さっきから女の子にだけ愛想良く声掛けしてたよね。何度か通ったから覚えてるんだ」

「そ、それがどうかした――」

「女の子たちの手を握るために変なゲームを持ちかけてたのも見ていたよ? いいのかな。僕、今は休憩中なんだけど、あともう少しで仕事に戻るんだ」

 そう言って腕章を見せる。警邏の腕章には「傭兵ギルド」の所属を明かすマークが付いていた。オジサンの顔が強張る。

「売り上げ、ちゃんとあるの? 登録番号はー、おっと、ここか。商人ギルドに問い合わせてみようかな」

「ま、待て待て。分かった。売る。売るから」

「もちろん適正価格でだよね?」

「分かった。いや、さっきゲームをしてそっちが勝ったんだ。安くするとも」

「そ。ありがとう」

 というやり取りの末、僕も一緒に端布セットを掘り返して可愛いのをゲットした。

 女の子たちにはとても感謝されたし、サムエルたちには勇者扱いだ。よくやった、偉いと褒められる。しかも。

「良かったら、このあとお茶をしませんか」

 お礼がしたいと、女の子たちに誘われた。

「僕はいいけど、みんなはそれでもいい――」

「いいに決まってる。一緒に見て回ろう!」

 めっちゃ被せてくるじゃん。

 その後、女の子と仲良くなれる切っ掛けを作ったとして僕は男子たちに感謝された。

 僕は僕で、男子の言う「面白い店」より、女の子たちの「可愛いお店」情報が嬉しい。全員がWin-Winで楽しめた花祭りだった。

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短編集 小鳥屋エム @m_kotoriya

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