ラスボスタクシーあるなんて聞いてないよ!

ちびまるフォイ

タクシーには恐れ多くて近づけない

「え!? ラスボスまで行けるタクシーがあるの!?」


その名を『ラスボスタクシー』という。

危険なダンジョンも戦闘せずにすいすい行けるらしい。


「なんてこった。そんな便利なものがあるなら

 道中の敵に体力削られる必要もなかったのか……」


ラスボスの待つダンジョンは非常に危険で、

入口を入ったが最後、戦闘は避けられず奥へ進むほどボロボロになる。


結果、ラスボスの元までたどり着くころには瀕死の状態で

もう最終決戦どころじゃない。


いや、ラスボスと戦ったことないけど。


さっそく利用してみることに。


「お客さん、どちらまで?」

「ラスボスまで」


「シートベルト忘れないでください」


「なんでここで現代の法律が適用されるんだよ……」


ダンジョンの入り口で待っていたラスボスタクシーに乗った。

危険で入り組んだダンジョンを自分の庭のようにすいすい走っていく。


「すごい。道わかるんですか?」


「このダンジョンに勤めてもう20年になりますから」


「敵は襲ってこないんですか?」


「ハハハ。それはないですよ、恐れ多くて誰も襲いません。安全ですよ」


「これいいなぁ。最初から利用しておくんだった」


ぐんぐんタクシーはダンジョンの中を進み、

あっという間に今まで自分が探索した最大深部をも追い抜かした。


それでもまだラスボスまではたどり着かない。


「あの、今どれくらいですか?」


「まだラスボスの部屋までは先ですよ、お客さん」


「え゛……まだですか?」


「ラスボスの部屋は構造上、一番奥になってますからね」


タクシーのメーターはまだ上がっている。

けれど、表示されている数字はすでに俺の貯金残高ぎりぎりだ。


「あ、あの! ここで降ります!!」


「え? もういいんですか?」


「はい、大丈夫です!」


料金を支払ってラスボスタクシーを降りた。

まだラスボスの部屋ではないがだいぶ進んだのもあり、

道中の敵に削られたとしても自力でたどり着けるだろう。


さっそく進むと敵が現れた。



ドラゴンAがあらわれた!

ドラゴンBがあらわれた!

ドラゴンCがあらわれた!

ドラゴンDがあらわれた!

ドラゴンEがあらわれた!

ドラゴンFがあらわれた!

ドラゴンGがあらわれた!

ドラゴンHがあらわれた!

ドラゴンIがあらわれた!

ドラゴンJがあらわれた!

ドラゴンKがあらわれた!

ドラゴンLがあらわれた!


「多い多い!!」


ゆうしゃはしんでしまった。


 ・

 ・

 ・


教会で目を覚ました勇者は深く後悔した。


「なんてこった……こんなにも道中の敵が強いなんて」


もはやラスボスよりも道中の敵を倒し抜いて進むほうが難しい気がする。

道に迷うことを考えれば連戦は避けられない。


「やっぱりラスボスタクシーを使うしかない!!」


いったんダンジョン攻略はお休みして資金調達にあけくれた。

異世界株、異世界マルチ商法、パワーストーン販売、開運のお札の販売…など。


村の人々からはめっぽう嫌われたが、

ラスボスタクシーを最後まで利用できるだけの資金力を手に入れた。


「よし! これでラスボスまでノンストップだ!」


ふたたびダンジョンで待つタクシーに乗り込んだ。


「お客さん、シートベルト」

「いいから先へ」


タクシーが発進する。

メーターの数字は上がっていくが痛くもかゆくもない。


「運転手さん、今までラスボスまでたどり着いた人はいるの?」


「いえ、ひとりもいません」


「それじゃ、俺が一番最初で最後になるのか」


「どうして最後なんですか?」


「そりゃ、今日ラスボスを倒すからだよ」


などと話していると、以前に降りた場所までタクシーは進んだ。

メータの金額を見てもびくともしない。


「ははは、この調子なら余裕だな。運転手さん、近づいたら教えてください」


「わかりました」


メーターがどんなに上がろうが支払いできると踏んで眠ることに。

敵も襲ってこないので安全だ。



「お客さん」




「お客さん」


「……ん? もうすぐラスボスか?」


運転手の声でうたた寝から戻ってきた。

念のため、メーターを確認するもまだまだ大丈夫。


「さて、ラスボスの野郎を万全の状態でぶっ倒してやろうかな」


HPもMPも満タンで武器も最高級をそろえている。

負ける要素がどこにもない。

アイテムだって抜かりはない。


「お客さん。どうして今までラスボスにたどり着いた人がいないと思います?」


「どうした急に」

「いえ別に」


「そりゃあ、金がなかったからだろう。

 俺のように商売勘のないやつはここまでタクシーを走らせる資金力ないからな」


「そうでもないですよ。コツコツお金を貯めた人もいますし

 あなた以上にお金をもってやってきた人もいました」


「そうなのか? じゃあどうしてたどり着かなかったんだよ」


その言葉に運転手はくるりと振り返った。

見覚えのある運転手の顔に体が動かなくなった。




「それはね、運転手がラスボスだからですよ」



タクシーはラスボスまぎわの壁に衝突して大爆発した。

燃えるタクシーから出てきたラスボスは、勇者の灰に向かって告げた。


「だから、シートベルトはしめろといったのに……」




おきのどくですが、あなたのぼうけんはここでおわりです。

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