第1話 #ピーターパン

「昔昔、あるところにウィンディとかウェンディとかそんな感じの名前の女の子がいました」

「ちょっと待って」

思わず僕はほとんど始まってない木島の話の腰を折った。

「なんだよ」

「いやいや雑すぎるでしょ。そんな感じの名前ってなんだよ」

「じゃあさ、典子とかにしようか」

「なんでだよ」

「じゃ、それで」

「いいのかよ」

鳴海の提案により、ウェンディだかウィンディだか、その女の子の名前は典子になってしまった。


「じゃ、改めていくぞ。昔昔、典子という女の子がいました。 典子はとてもとても美しく、大切に育てられました。そんな彼女には大きな秘密がありました。なんと彼女は、月の住人だったのです!」

「なんだってぇ!!」

大人しく聞いていた山内が大声を上げて驚きを顕にしている。いや、どう考えてもおかしいよね?なんでピーターパン外国の話のはずなのに竹取物語なんだよ。呆れて何も言えない僕と肩が震えている鳴海を置いて、話はどんどん進んでいく。


「国の王子が求婚にしに来たりなんかいろいろあって、ある時、典子は月を見上げて泣いていました。典子の両親は心配し、典子にどうかしたのか聞きました。すると典子は言いました。私は月の住人なのです。そろそろ月がいい感じになって奴らが来てしまうのです。!!来た!奴らが来たわ!!するとどうでしょう!空から船が降りて来たのです!そう、ピーターパン海賊団です!」

「典子やべぇよどうしよう!」

楽しそうな木島と山内を見て、僕は完全にツッコむタイミングを失っていた。もう何からツッコめばいいのか。とりあえず言えるのは、空だったら海賊じゃないということだ。


「典子!貴様を迎えにきたぞ!さぁ、我らと一緒に月、ネバーランドに帰るぞ!とピーターパンは言います。嫌だ帰りたくない、いやいや帰るぞ。そんな事を言い合っていると、典子の父親が言いました。出たなピーターパン。今日こそお前をやっつけてやる!まさか俺を忘れたわけではないだろう」

「まさか」

僕は嫌な予感がした。

「そう、俺こそはフック船長だ!」

「フック船長おおおおおお!」

山内と木島がうおおおおおと盛り上がっている。鳴海はだからピーターパン海賊だったのかと納得している。僕は少しだけ結末が気になり始めていた。ピーターパンとフック船長で悪役の立場が逆とは普通考えつかない。

「そこから激アツな戦いが繰り広げられた。そしてフック船長の娘を守るという愛は、ピーターパンの典子を連れて帰るという義務感に負けた」

「義務感に負けたのかぁ」

残念だなぁと鳴海が楽しそうに呟いた。父の愛、義務感に敗れる。これは結末は竹取物語かな?

「ピーターパンがさぁ行くぞと典子の腕を掴んだ時!その手は空を切った。はははは!それは残像だ!」

典子、キャラそんなんだったの。僕は驚きを隠せない。鳴海の肩の震えが笑いを堪える震えからマナーモードの時のバイブみたいにずっと震えているのにも驚きを隠せない。

「典子はピーターパンを倒し、フック船長の死体を桜の木の下に、ピーターパンの死体を山に埋めた。それ以降、その木にはゾンビが出て、そのゾンビに噛まれた者は同じくゾンビになってしまった。こうして、日本中にゾンビが蔓延してしまった中、ピーターパンの子供は月から日本に訪れ、ピーターパンの死体からゾンビを倒す武器を作り、典子を倒す決意をした。国のため、父の敵のため、少年は今悪に立ち向かう!」

「うおおおおお!!いい話だった!ピーターパンってすごい絵本だったんだな!」

山内が少し涙目で手を叩いている。僕も面白いと思った。ピーターパン続編とかないのかな。映画化とかしててもおかしくない話だなと思っていると、鳴海が提案した。

「皆で帰りゲオ寄ってピーターパンの映画とか借りて観る?」

「もちろん!」

そう声を合わせて僕らは賛成した。


僕らがピーターパンの本当の話は木島の話した話とはかけ離れていたと気づくのはこれから数時間後。

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微かな記憶過ぎる童話 灯屋 @to-ya_108

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