微かな記憶過ぎる童話

灯屋

第0話 #おとぎ話を始めよう

「なぁ、お前ら小さい頃絵本とか読んだ?」

そのあいつの一言から僕らはおとぎ話談議を始めることになった。



僕の通う学校には後からつけられた新棟がある。その新棟の階段の4階からさらに階段を登ると屋上へ行くための厚い鉄のドアがある。そのドアの前は少し広い踊り場で、机や椅子なんかも置いてあって、僕らはそこを秘密基地と呼んだ。放課後そこに友達四人と集まっては勉強したりカードゲームをしたりしていた。

今日もいつものようにUNOをしていると、よくつるんでいる友達の一人、山内が突然真面目な顔で聞いてきた。

「は?絵本?」

「おう、絵本。なんかさ、好きな子が絵本作家目指してるらしくてなんか話せたらいいなって思ってんだけど、俺よく考えたら絵本とかあんまり読んだことねぇなって思ったんだけど、お前らはどう?」

お互い顔を見合わせるが、皆首を傾げている。僕も教科書で読んだものくらいしか読んだ記憶がない。

「外で遊んでばっかいたからなぁ。小学生時代だって授業で図書室行っても走り回ってたし」

僕らの中で一番運動ができる馬鹿、木島がUNOと言ってカードを出したあと苦い顔をしながら答えた。

「図書室のな、先生なぁ…、めっちゃ怖いから怒らせない方がいいぜ?」

と馬鹿丸出しでさらに答える。走り回ったから怒られたんだろうが、と小突いてもだってよーと、木島は口をとがらせて反論する。

「ってか鳴海、読書家なのに小さい頃絵本とか読んでないのかよ?」

もう既にUNOで上がって本を読んでいたインテリイケメン、鳴海に木島が話をふる。

「俺図鑑ばっか読んでたから」

絵本じゃ力になれないな、と肩をすくめる。

「お前は?榊。お前文芸部だろ?」

「えっ。いや僕幽霊部員」

山内に質問され、僕は苦笑いで答える。僕の学校の文芸部は幽霊部活だ。そして僕は幽霊部員。だから暇を持て余しているのだ。部活をしていたらきっとここに残ってない。

秘密基地に来る僕達五人の中で部活をしているのは僕と木島と今いない今井だ。

「そうだ!榊文芸部の部室に絵本とかないの?」

「え、ないよ。あるわけないじゃん」

「あるよ?」

「マジで?っおおお!!」

突然ふってきた声に山内が驚いて大きな声をあげる。僕達もびっくりして階段を見ると、笑顔の女子生徒がいた。よく見ると見たことあるような顔だ。確か…

「白石さん?」

「そうだよー榊くん。あのね、先輩達が来ないからもう政権交代しちゃえって先生に言われて、榊くんが部長、うちが副部長になったって言えって言われたの。頑張ってね」

「えー、めんどくさいなぁ。あ、ねえねえ、白石さんって絵本とか読んだことある?」

「おおおおおおい」

「えっ、なに」

小声ですごい勢いで山内が僕を叩く。顔が真っ赤で震えている。純粋に気持ち悪い。

「絵本?すごい読むよー!大好きだし。文芸部入ったのだってね、絵本が好きで書きたいから入ったくらいだしね」

ふふんと胸を張り答えた白石を見てもしかして山内の好きな人はこいつなのではと推測する。

「文芸部の部室行ってみるか?」

と鳴海が僕らに提案した。もちろんとばかりに高速赤べこかとツッコミたくなるほど山内は頷き、面白そうだからと僕と木島も賛成したが、山内のお目当てであろう白石は兼部している美術部があるからと帰ってしまった。




文芸部の部室に入ると、薄汚れた本がたくさん机の上に積み重なっていた。

「なんだこれ」

一つ手に取ってみると、表紙に薄くピーターパンと書いてあった。中は文字がほとんど薄れて読めない。

「ああああ!!白石さんと話しちゃったあああああ!!」

部室に着いてから山内はずっとそう叫んで嬉しそうに小躍りしている。

木島は漫画を見つけて読んでいるし、鳴海は本を物色している。

絵本見つけたよーと言うと、なんとなく机に集合した。

「ピーターパン…?ってどんな話だっけ」

山内がうんうん唸る。俺覚えてるぜと木島が話し始めた。

木島がうろ覚えで話したのはこんな話だった。

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