祝詞とノリと

@GIZEN

第1話 バタフライ・エフェクト

人生の腐敗度から言えば、まずまず悪い。

念のため、自己評価という点で大甘であることを付け加えておく。


高校生時代は、学校にはほとんど通っていなかった。

もしこの一文で脆弱で弱者的な趣きを感じたのであれば、ご容赦願いたい。

その実、遅刻と早退を繰り返し、朝夕の部活動のみに顔を出す不届き者であった。

服装と言えば、当時流行っていたズボンを腰骨まで下す腰パンで、かつ裾を膝下まで捲くり上げ、シャツは第三ボタンまで開け放ち、赤一色の巨大なテニスバッグを背負い、上履きも兼ねたビーチサンダルを引っ掛けていた。

髪の色は量産型汎用性男子学生の誹りを受けぬよう、敢えての黒染めを定期的に敢行し、黄色人種にあるまじき焦げ切った褐色の肌と相まって、その異様さは筆舌し難い。

なお同年代の高校生達の名誉のために弁明するとすれば、流行っていたのは腰パンまでであり、それ以外は全くの個人的美意識の発露である。

今にして思えば、モテたいという当初の方向性を見失い、余りの見当違いから、元より持ち合わせていなかったような出で立ちである。

それでいて、当時はこれでモテるという確信があり、そこに一抹の不安も抱かなかったのであるから、若さとは極刑に値する重罪である。


その後、出願した大学すべての入学試験が結果的に記念の意味を帯び、予定調和的に浪人生活へと突入したことは言うまでもない。

ここでいう浪人とは仮面浪人である。

勉学に勤しむことなどもっての他で、居酒屋における役務の提供に明け暮れ、労働の対価たる賃金は江戸の庶民感覚で天下に回し切っていた。

度重なるお大臣遊びで生活水準は連日ストップ高を記録し、その後に次の給料日まで悠久と続くいざなぎ不景気が訪れる。

御足が駆け足で過ぎ去った後の精神的物理的苦痛は日に日に膨張し、巨大な重力を伴って、ついにブラックホールと化し、本来この時期に良識ある知識人として学ぶべき重要な事柄をすべて飲み込んで、宇宙の彼方に人知れず放出しまったものと考えられる。

あるいは、一経済主体が採る貯蓄という行為が、マクロ経済学において経済の停滞をもたらす要因であることを肌感覚で悟り、我が愛すべき祖国に対するささやかな滅私奉公であったと善意に解釈するのは些か出来すぎた話であろうか。

無論、出来すぎである。

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