第15話 消えない〈におい〉後編

 うちが小さい頃、仲間に入れてもらえなかった遊びがある。

 うちが鬼になったらすぐにみんなを見つけてしまうし、その逆は誰もうちを見つけられないからだ。

 「お兄さん、みーつけた。」

 もうひとりはパースエイダーとカミトキが追っている。あの人が居れば、あのポンコツも壁くらいにはなれるだろう。

 うちは袋小路にお兄さんを追い詰めた。

 「お兄さん、足早いね。うち、もう疲れたから応援呼んじゃった。でも大丈夫。“任意”だから。フツーに黙秘権もあるし、弁護士も呼べるから。」

 パトカーのサイレンの光と音を背中に受けながら、容疑者が取り押さえられるのを眺めていた。

 「あ、さっきバッジケース見せただけでちゃんと名乗ってなかった。うちのコールサインはヘイムダル。」

 連行されていく足音がうちを通り越して行く。

 「かくれんぼ。楽しかったよ、お兄さん。」

 彼らの自宅から証拠品が押収されるのも時間の問題だろう。

 罪の〈におい〉は簡単に消えない。

 《感覚強化》の師匠でもある上司の言葉だ。膨大な量の情報を整理することで、うちらの勘は活きる。どんな些細なヒントでも繋がり合い、最後は答えに結びついている。

 カミトキが垂れ流す嘘の〈におい〉は、いったいどんな罪に繋がっているのか。

 うちは確かめることができないまま。

 この街の夜はいつまでも浅い色に感じる。でもすぐ隣で、深い闇が口を開けている。うちはいつまで気付かないふりをしていればいいのだろう。

 見上げても空は狭く、浅い黒がのっぺりと張り付いているだけだった。

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