第14話 消えない〈におい〉前編
この街の夜は明るい。眠らない街というだけのことはある。
人々の声と酒の臭いをかき分けて、地下鉄の音を靴底から感じていた。
「ああ。今、向かってる。」
この賑わう夜を、ヘイムダルはひとりで歩いていた。
パースエイダーからの呼び出しだ。用件はすぐに察した。
「あの子さ、明らかに未成年だよな。」
「え、どこ?」
「あのヘッドフォンと黒いマスクのこだよ。」
「うわ、家出かな。」
通りすがりの会話と足音。
「お前、声かけてみ。」
「やだよ、お前がかけろ。そして俺が通報する。お巡りさんこいつです。」
「やーめーろー。」
ゲラゲラと笑っている。酒で脳まで融けているのだろうと、ヘイムダルは決めつけた。
「あのさ、お兄さんたち。」
ヘイムダルは高めの声で目を細める。
「もしかして、うちに用ある?」
彼らはとても狼狽えている。まさかヘイムダルから声をかけるとは思っていなかったのだろう。
「あー、ああ。こいつがあるみたいなんだよ。な?」
「やめろって。冗談だって。」
ヘイムダルは目を細めながら、彼らに質問をかぶせる。
「お兄さんたちさー、この夏、花火とかした?」
「いや、してないけど…。」
「じゃあ、お仕事何してるの?」
「目元キラキラしてオシャレだね~。お嬢ちゃんは歳いくつなのかな?」
ひとりが腰を屈めて目線を合わせる。
「うちの質問が先だった。ねえ、お仕事は?」
ヘイムダルは引き下がらない。
「俺は営業、こっちは事務。それで君はいくつ?」
「うちは16歳。ガーデンオーダー。答えて、どうしてお兄さんたちの指先から橋の爆弾と同じ火薬の臭いがするの?」
ヘイムダルはマスクを顎まで下ろした。
金色の歯でにっこりと笑い、ガーデンに所属している証であるバッジケースを見せつけた。
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