第13話 夜空に霹靂

 壊してしまった赤ん坊の親と幸せの責任を、俺は果たせるだろうか。いや、果たさなければならない。

 俺は酒に溺れている場合ではない。

 「きくさん、酔っている場合ではなくなりました。」

 「…なしたんさ。」

 「火薬の臭いが。」

 俺は手の平のアルコールを握り潰した。ほとばしる青。興醒めだ。いつからこの街はこんなに無粋になってしまったのか。

 「みちるは。」

 「近いようなので先にあたってもらっています。」

 いつの間に。こうしてられるか。カウンターに金をおいておやじさんに声をかける。

 「おやじさん、ごめん。俺さ、急ぐんだ。これだけあれば足りるだろ?」

 甲斐くんも俺を追うように店を後にした。

 「きくさんって標準語、話せるんですね。」

 後ろから堪えるように笑う声がする。

 「うるせ。言ってる場合か。」

 俺は空を踏みつける。青白い火花は音をたてまたたき、なにもない空間を階段のように駆けあがる。

 「彼女のソロデビューに調度いいのでは?」

 地上で甲斐くんが俺を見上げていた。

 「馬鹿こくでねえまだ子供だぞ、それに処理なら俺の方が得意だ。」

 火薬の臭いなら、また爆弾の類いなのだろう。みちるひとりは危険だ。俺はさらに上がるため蹴りあげる。

 「処理ではなく、追跡です。彼女の方が適任でしょう?」

 甲斐くんはわざとらしく、大きな声で言う。

 「なら、お前さんもだろが。なあパースエイダー? 」

 俺は物理的に上から目線のままわざとらしく言い返す。

 「全く。あなたは過保護だ。」

 呆れながらも、人をかき分け走る背広。その足取りに迷いはない。俺も空を走る。

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