「神託の勇者」
そう物語では勇者が神託で選出されると綴られる。
魔族と人族に二分され、「魔王」と「勇者」の降臨より次の世界の支配者の決める、そんな殺し合いと一時の安寧を繰り返す決まり切った世界。
「夢幻転移」とは、変革の望みを神が聞き入れた結果なのかもしれない。
理を異とする世界から「勇者」は訪れた。
理を異とする世界で「魔王」は学んだ。
そうして世界は変革された「勇者」の死もって
そう、「勇者」は「魔王」に命を差し出し、自らが世界からの退場もって、世界を救った。
「魔王」は「勇者」に誓った世界の平和を、その約束を違えることは無いだろう。
そう信じる事が出来る英雄譚!
読了後の何とも言えない切なさ。
この世界と、あちらの世界での人生が同時に起きているっていうのが私はぐっときました。
そして、もしあちらの世界で命を落としたら、この世界では一体――?
その部分は、作者様の巧みな表現により、手にとるように感情が伝わってくるはずです。
ネタバレになっていたら大変申し訳ないのですが、「凄く、切ない」ということだけをお伝えしておきますね。
見どころは、登場人物のそれぞれの関係ですね。本当は深くお話したいところなのですが、読む前にこれを読んでくださる方がいらっしゃることを踏まえて、本当に軽く「関係」とだけ、お話しておきます。
是非じっくり、世界観に浸って観察されてみてください。
是非ご一読を!
一部の人間だけが見る夢。それは本当にただの夢なのか、あるいは異世界との繋がりなのか。
異世界とこちらを行き来しながら語られる、主人公や周囲の境遇。
それらがわかるにつれて、気になる伏線や、彼らがどうなってしまうのか。
最初は軽い気持ちで読んでいたのに、一本でも気になる糸を見つけ、それを追っていくうちに、いつのまにか何本もの伏線や気になるその後に巻き取られ……。
気が付けば最後まで読み切ってしまうほどの牽引力がありました。
あちらとこちらを交互に語るというスタンスも焦らされて、つい「もう一話」と読んでしまうニクイ仕様ですが、彼がどういう気持ちでラブレターを書くに至ったか。
ちょっとでも気になった方は是非読んでみてください。
読後に去来するこの思いは、恐らく他の日帰りファンタジーの短編とは一線を画すものであると感じています。
虚しくて、切なくて、それでも未来へ希望を託せずにはいられない、そんな思いでエピローグの行間を希望的想像で埋めようとしている自分がいます。
魔王様へ向けたラブレターから始まるこの物語。
勇者のしたためたこの手紙の中で、彼はなぜまだ見ぬ魔王へ親愛の情を抱いているのか、魔王への切なる願いを綴っているのか。
その答えは、主人公灯和が生きる二つの世界で起きている出来事を紐解くことで見えてきます。
ラブレターにしたためた彼の思いは魔王に届くのか。
彼の願いを魔王はどのように受け止めるのか。
正義を隠れ蓑にして命を軽々しく奪い合うことの虚しさ、それぞれの属する社会に弊害をもたらしてもなお止めることのできない争いへの疑問。
未だ戦争のなくならない現実世界と重なり、彼らの葛藤が胸に迫る良作です。