真夏の冷たい方程式

@kuronekoya

7人いる! 

 試合終了のホイッスルが鳴った。

 0−8。

 僕たちのチームの完敗だった。

 炎天下の屋外で行われた草フットサルチームのトーナメント大会一回戦。


「全然かなわなかったなー」

 僕たちは相手チームの選手と握手してコートを出ようとした。


「いやー、いっそ清々しいくらいに景気よく負けたねー」


 そう言ってコートの外から手を振るのは、学年一の美少女と言われている僕たちのクラスメイトだ。

 よくつるんで遊んでいる仲間のひとりが、この大会の情報を聞きつけてきて、参加してみないか? と言い出したのが3日前のこと。

 公式でもなんでもない大会で、しかもお盆前の平日の日中、それも屋外での大会のせいか、参加を見送るチームが多かったみたいで、3日前でもまだ参加募集をしていたものだから、1勝くらいできるんじゃね? と軽い気持ちでエントリしたのが2日前のこと。

 ミスドで打ち合わせとかしていたら、偶然彼女に会ったのが昨日のこと。


「応援しに行くね」と言ったのは、てっきり社交辞令だとばかり思っていたのだけれど。


 本当に会場に彼女が現れたのにはびっくりした。


「試合開始に間に合わなかったから、差し入れ買ってきたよ」


 キメ顔で彼女がコンビニの袋を広げると、中に見えるのはホームランバー6本。

 僕らのチームは6人。

 きっとみんなで食べようと思って買ってきてくれたんだろうな。


「どうして!? フットサルって5人でやるものじゃなかったの?」


「ルールでは7人までエントリできて交代自由なんだよ」


「でも、昨日はミスドにいたのは5人だったよね?」


「ああ、昨日はあいつ、用事で来れなかったから」


 そして数秒の沈黙。

 ジリジリ照りつける太陽と、地面からの照り返し。

 最初に口を開いたのは彼女だった。


「ほらほら、せっかくのアイスが溶けちゃうよ。

 みんな食べて、食べて!」


「いや、でも、ほら……」


 そう言われても、僕らは学年一の美少女を差し置いてアイスに手は出しかねて、やっぱりみんな動けなくて。

 互いの目線が行き交う中、汗はダラダラ流れるし。


 さらなる数秒が経過した後、業を煮やした彼女が「もうっ!」と言って袋に手を突っ込んだ。


「ハイッ!」


 と、ひとりひとりにホームランバーを配って。

 全員にアイスが行き渡ると、僕が持ってるアイスの包み紙を剥がして、いきなり僕にキスをした。


「ほら、これなら私と一緒にこのアイスを食べてくれるでしょ?」


 上目遣いに僕を見上げて、彼女は僕が持つアイスをひとくち食べたんだ。


 

 fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夏の冷たい方程式 @kuronekoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説