第二話 奇遇

あの不思議な夜があけて、また仕事漬けの1週間が始まった。

ただ、いつもと違うのは、コンビニであった妙な男が頭から離れないということ。


名前も聞かなかったし、気になっても仕方がないか―。


小さくため息をつきながら会社のタイムカードを押す。


私は今、GaLA(ゲイラ)という20~30代女性をターゲットにしたファッション誌を担当している。

ファッション誌といっても、ファッション、ダイエット、恋愛以外にもグルメや経済などのテーマも取り上げる週刊誌で、男性の読者も多い事が売りだ。

出版社としてはあまり大きくない会社なので、編集実務、取材なども出来るだけ自分たちでやることになっている。


「リョーコ!リョーコ!」


騒がしく私の名前を呼びながら近づいてくる女がいる。

彼女の名前は美崎サヤカ。

会社で同期の友人だ。

外見は小柄で髪型はゆる巻きのセミロング。

小動物系の雰囲気で男性陣からは人気が高いようだ。

サバサバした高身長な私と人懐っこい小柄なサヤカは凸凹コンビなんて言われてることがあるらしい。


「ちょっとちょっとリョーコ、聞いてる?」


「あっごめん。聞いてなかった。」


「もうっ!あのね、今度GaLAの連載コラム担当になったんだけど、リョーコも手伝ってくれない?」


「え、なんで私が?」


「正確には編集長からリョーコがチームに参加しないなら駄目だって

言われてるんだよね……。」


「どうして?」


「実は今度の企画なんだけど、私一人じゃ偏見が多いコラムになるから心配なんだって。

とにかく!ちょっと見てよ!」


そういうとサヤカは私のデスクに企画書を置いた。


企画書のタイトルは・・・


『*タイプ別*あなたの王子、探します!』


タイトルを見た時点で編集長の気持ちが良くわかったし、よく連載企画通ったなと半ば呆れたが、隣にいるサヤカの顔に「最後まで見てよね」と書いてあったので、仕方なく目を通すことにした。


*コンセプト*

最近、恋愛シュミレーションにハマる若い女性達が多いが、ヴァーチャルな世界に入り込んで、現実の王子を見逃していないだろうか。

そこで、GaLAの新しい連載企画として、町のイケメン王子を取材する。


*内容*

町の様々な職業のイケメンを徹底取材!

連載はだいたい10回を目安に、読者の反応を見てその後どうするかを決める。


第1回予定

似顔絵作家 服部シュン(26)


第2回予定

カフェ・パルード店長 本間アツシ(31)


第3回予定

藤本書店店長 藤本ソウシ(25)


そこまで読んで、添付されている写真に目が留まる。

その写真の人物は、私が一昨日コンビニで会った、あの男だったからだ。

驚きながらも、彼の略歴に目を通す。


藤本草士・・・老舗古本書店である藤本書店の若店長。

整った今時の顔立ちとは裏腹に普段着は着物という不思議な青年。

彼見たさに書店に通うファンも多い。

あまりメディアに出ない彼の素顔に迫る。


フジモトさんっていうのか。

夢じゃなかったんだと思った瞬間、隣からサヤカが顔を出した。


「なに?リョーコって藤本さんみたいのタイプだっけ?」


「え?ちょっ、違うわよ!ただ、ちょっと面白いなって思って……」


「藤本さん、ちょっと変わった感じだけどさ。顔はすんごいカッコイイよね~。」


「確かに……。」


「少しはリョーコやる気になってくれた?」


「そうね。ちょっとは。もう取材のアポ取りとかは終わってるの?」


「この3人にはとりあえずOKもらってて、服部さんは水曜日に取材に行く予定なの。

だからそれまでにリョーコには一緒にコラムの構成考えほしいんだけど……。

第二回目の本間さんと三回目の藤本さんの取材には来週以降行くことになってるんだ。

取材、リョーコも一緒についてくる?」


「また急だなぁ。とりあえず第一回目は構成だけ一緒に考えるよ。

その後スケジュール調整できたら一緒に取材も行くことにする。」


「本当?ありがと、リョーコ!頼りにしてる!」


そういってサヤカはウィンクをしながら編集長のデスクに走っていった。

なんだか不順な動機でチームに参加するような気がするけど、こんな偶然めったにないと思いながら、サヤカが考えた企画を手伝う事にした。



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コンビニ草紙 杜戸 @yumekai27

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