黄泉送りて異境

ケンコーホーシ

第1話

 昨日、祖父が死んだとの連絡が入った。

 葬儀の場所を聞くに、知らない地名を返された。


「どうすればそちらに向かえますか?」


 明日の朝8時にお迎えに参ります。

 奇妙な話であったが、僕は了承した。


 翌朝、礼服と黒ネクタイ、それから思い出の品をいくつか用意して待つことにした。


 会社には祖父が無くなったことを告げ、仲の良い先輩からは、ご冥福を祈るといったメールと、仕事を肩代わりしておくからといったシンプルな文面が返ってきた。

 ありがたい。


 僕は準備を済ませ、待っていると、チャイムを鳴らす音が聞こえた。

 いそいそと扉を開けると、


 そこには竜の首をした人間が立っていた。


「佐藤雄一様ですね」


 は、はい……と僕が答えると、彼は自分の背中におぶさるように言ってきた。

 疑問は僕の中に渦巻いていたが、とにかく断るのも怖いので言う通りにした。


「葬儀は13時からです。飛ばしますよ」


 どうやって?

 と、僕が言葉を返そうとした時にはもう遅かった。



 竜人は翼を広げて大空へと高速で旅立っていった。



 舌を噛み切りそうな速度で飛ぶ彼の背中に捕まった僕は、気づけばシルフィードと呼ばれる異境の国に到着していたのだった。



 ☆



 天涯孤独の身の上であった僕を育ててくれたのはたった一人の祖父であった。

 名を、佐藤源一郎。

 ゲン爺と僕は呼んでおり、缶蹴りにベーゴマに公園で毎日遅くまで付き合って遊んでくれた。


 ゲン爺は料理に洗濯に、僕の勉強の面倒も見てくれた。

 父も母もおらず、身寄りと呼べるのはたったひとりの僕であったけれど、不思議と寂しさはなかった。


 祖父は高校までの学費を工面してくれて、僕を公立の高校へと送り出してくれた。


 今にして思えば、ゲン爺には不思議なところが沢山あった。


 まず剣の腕が異常に達者だった。

 小学生の頃、僕が時代劇のドラマに憧れて、剣道場に見学に行ったことがある。

 その時、道場を任されていた段位7段だか8段だかの師範を、うちのお爺ちゃんは一撃で倒してしまった。


 あの時は家までその師範と弟子が教えを請いたいとお願いにきて大変だったっけ。


 それと寝言が変だった。

 いつもは嗄れた干し柿みたいな声のゲン爺だったが、寝てる時の声はまるで西洋の美青年みたいな美しい異国の言葉で寝言を喋っていた。

 一度なんて言ってるのか尋ねてみたことはあるが、寝てちゃ分からんと、まともに取り扱ってくれなかった。


 そんなゲン爺であったが、僕が高校を卒業し、働き始めたところで、急にふらりと行方をくらませてしまった。


 あの時の僕はあちこちを探し回ったし、警察にも何度も捜索願いを出した。


 だが、ゲン爺は見つからず、僕に残されたのは達筆の書き置きと、その書き置きをために使われた愛用の羽ペンだけであった。



 雄一よ、儂は世界を救ってくる。



 そして僕は今3年の月日を経て、祖父の葬儀に参列することになる。



 ☆



「遠路はるばるようこそお越しくださいました」


 僕をそう出迎えてくれたのは、美しい金髪のご婦人と、同じく金髪の壮年の男性であった。


「こちらシルフィード王国の宮殿応接間になります。この度は勇者ゲンイチロウ殿のご冥福を心よりお祈り致します……」


「いえ、こちらこそ……勇者?」


 僕は改めて周囲を見回した。


 竜人に連れられて目が回るような状況のままこの場所に立たされていたが、

 目の前に広がるのは絢爛豪華な大広間。

 僕はふかふかの赤絨毯を踏みしめ、気づけば泣き顔の王様、お妃様とご対面していたのであった。


「はい、勇者ゲンイチロウ殿はこの度、魔王との戦いの末にその御心を天に召されてしまいました……」


 勇者。

 勇者……。

 見るからに涙で両目を腫らしたであろうお二方には申し訳ないが、僕には何かの冗談のようにしか聞こえなかった。


「ラスティーン王! 勇者の孫がお見えになったと!」


 僕が何かを言いかける前に、後ろから大声を上げて駆け寄ってくる一人の美青年の姿があった。


「おお来たか。聖騎士ゲオルギヌス。こちらゲンイチロウ殿の孫に当たるサトウ・ユウイチ殿だ」


 と、王様が僕を紹介すると、その美青年は僕目の前に傅き、膝を折って頭を下げた。


「この度は私が不甲斐ないばかりに貴方の大切な方を失わせることになってしまった……」


「え、えっと……」


 そう自分を責めるなゲオルギヌスと、王様は美青年に言う。

 しかし彼は「だが私は……」と一向に頭を上げる気配がなく、僕が何かを言わなきゃいけないのかと口を開くと――。


「あーやっぱりここにいたんですねー!」


 と、光を纏った子供ほどの女の子が空中に浮きながら美青年の元に近づいていった。


「精霊シルフィか。邪魔をしないでくれ」

「邪魔になってるのはゲオルさんの方ですよー! まったくもう、ユウイチさん困ってるじゃないですか。ほら、リっちゃんも何か言ってください」


「わ、私は……だって、ゲンさんが死んじゃったの、ほんと、だし……うっ」


 と、気づけば二人の他にも大きな盾を持ったおとなしめの女の子が立っていた。


「まったくもう、そんなの……、私だって……わかってるんですよ~~~っ……!」


 と、気づけば小さい女の子もわんわんと泣き出してしまった。

 何だろう。

 僕は不思議な気持ちだった。


 王様は三人の様子につられて再び涙が溢れてきたのか、しゃっくりをあげながら、


「ユウイチ殿、彼らはゲンイチロウ殿の……パーティだったのです……」


「パーティ……」


「三年前から苦楽を共にして冒険してきた仲間たち――魔王討伐を夢見て戦ってきた勇者一行なんです……」



 ☆



 悲しさに包まれつつも僕は徐々に状況を理解してきた。

 どうやら、祖父は勇者としてこのシルフィードという王国を救うため、魔王を倒す冒険に出かけたらしい。

 冒険は長く、険しく、幾つもの苦難を乗り越えつつも、魔王を倒す戦いに挑むまでになったらしい。



 そして本当に最後の局面。



 パーティメンバはボロボロの瀕死となり、魔王の仲間である幹部たちも倒れ戦闘不能となり、

 最後は魔王と俺の祖父であるゲン爺との一騎打ちになったらしい。


 そして勝負はお互いの死を持って決することになった。


 結果的に、魔王は倒され、シルフィード王国に平和は訪れたのだが、同時にそれは勇者である祖父――佐藤源一郎の死も意味していた。



「……信じられねーな」



 不思議な話であった。

 行方不明になって音沙汰もなかった祖父がまさか別世界で勇者として世界を救っていただなんて。


 てっきり事故に遭って既に還らぬ人になっていただとか、どこかに誘拐されて知らない国で働かされていたのだろか、そうしたことを想像していたのだが――。


「変わった爺さんだったもんな」


 お茶を飲み、一息つく。

 僕は葬儀が始まるまで、王宮の控室で待つことにした。


 場所はこの王宮から都の街の大通りを渡り、最終的に都で最も大きい聖堂で祈りを捧げることになっているらしい。


 移動する前に、一度顔を見させてもらったが、確かにゲン爺だった。

 死に化粧と言うのだろうか。

 戦いの後だというのに傷ついた様子はなく、今にも生きて起き上がって来そうなくらいだった。


「……はぁ」


 流石に、顔を見た時は泣いてしまった。

 ここ3年会わなかったせいで、もうとっくに諦めていたこともあり、実際に顔を合わせるまでは正直実感が湧かなかった。


 だが、一度顔を見てしまったらダメだった。


 爺ちゃん。

 ゲン爺。

 僕を育ててくれた。たった一人の、子供の頃から。


 どうしてあの人は僕にあんなに優しかったのだろう。

 どうして何も詳しい話はせずにこの世界に来たのだろう。

 何故、どうして。


 理由は分からなかったが、感情の本流がいっぺんに押し寄せて、幾重もの思い出が押し寄せて、僕は瓦解した。


「……はぁ」


 控室にいても息が詰まるばかりであった。

 僕は始まるまで少し、王宮内をぶらつくことにした。


 できればもう少し詳しい話を聞きたい。

 僕は祖父のパーティメンバを探した。


「えっと……ゲオルギヌスさん」

「ユウイチ殿、どうなされました?」


 聖騎士の美青年はすぐに見つかった。

 歳は僕と同じか少し上くらい。

 映画の俳優も顔負けの青年は、目を腫らしていたが、こちらに微笑を返してきた。


「もう少し、祖父のことを聞きたいんです」

「私でよければ」


 それから、僕はもう少しだけ祖父の詳しい話を聞くことにした。


 かつて、今から40年以上前、祖父は一度このシルフィードと呼ばれる国を救ったことがあるとのこと。


 祖父はこの国では英雄であり、数々の伝説を残していること。


 文明を発達させ、農業工業、政治の分野にも多大な影響を与えたこと。

 その業績を讃えられ、伝記や記念館も立てられているとのこと。


「私も幼き頃の寝物語の一つとして、ゲンイチロウの活劇はいくつも聞かされてまいりました。あの方と共に冒険に赴けたのは、私にとって生涯忘れ得ない誇りです」


 そんな祖父であったが、ここ20年ほどは行方不明で消息を絶っていたとのこと。


「僕と過ごした時間だ……」


「ゲンイチロウ殿は子供を育てる、とおっしゃっていました。私は話に聞いた程度ですが、"ダンジョン"と呼ばれる魔王の残した遺跡の最深部で見つけただとか」


 それが僕なのだろうか……?


「チキュウに戻られたゲンイチロウ殿を我々は邪魔立てするつもりはございませんでした。今回の魔王討伐も、本来であれば私が勇者として戦わねばならなかった、なのに……!」


「うん、それは分かるよ」


 どうしても、口出ししたくなっちゃう性質たちの人だからね。ゲン爺は。


 僕は思い出した。どうして、ゲン爺が剣道場の師範と戦うことになったのか。

 体験入学した僕が、その道場の喧嘩っ早い指導方針も相まって、竹刀で床に飛ばされたことがあったんだ。


 それにゲン爺が怒って、竹刀を持ち出して先生をボコボコにしちゃって……。

 その様子を見た道場の師範が面白がって戦いを誘ってきたんだっけ。


 きっとゲン爺にとって"やらなきゃ"って決めたことは絶対なんだ。


 そこには誰の理屈も理論も入り込めない徹底した頑固さがあって、

 そしてその根っこは誰よりも深く優しい思いが眠っているんだ。


(でも、ゲオルギヌスさんの話が本当なら、僕はこの世界の人間なのかな……?)


 だとしたらどうしてこの世界で育てなかったのだろう。

 ぽつりと浮かんだ疑問は波紋を作り、その答えは葬儀にて明かされることとなった。



 ☆



 葬儀は大々的なパレードとして行われることとなった。

 僕は霊柩車と呼ぶにはあまりにも豪奢な乗り物に同席し、王都の人たちの作る列に見守れながら大聖堂へと向かっていった。


「ここでゲンイチロウ殿は永き眠りにつくことになります……」


 王様はそんなことを教えてくれた。

 葬儀はつつがなく進行し、この国の教皇に当たる方による有り難い言葉を賜った。

 そして、一人一人がゲンイチロウの棺桶に花と、思い出の品を携えることになった。


「……それじゃあね、ゲン爺……」


 僕は溢れる言葉を抑えて、それだけ言って花と写真、好きだった本、それと愛用の羽ペンを棺桶の中に入れるべく、教皇の前にある棺桶に近づいた。



 だが、事件はその時起きた。



「…………ま、待たれよっ。お、お主、申し訳ないが"魔の者"ではないか?」



 その声に、聖堂内がざわついた。

 魔の者?

 何だそれは。

 僕は祈る姿をやめて、目の前の教皇様を見ると、彼は顔面蒼白で震えていた。


「や、やはり、間違いない、ここに来る時から違和感は覚えておったが……お主、魔王の、幹部、いや魔王の血統を持つものだな……!」


 魔王の血統。


 何を言うんだこの人は、と思ったが、みるみるうちに周囲の人の様子が一変し、聖道衣を身に纏った兵士が僕の周りを取り囲んだ。


「何をしておる! この方はゲンイチロウ殿の孫! 無礼があってはゲンイチロウ殿に立つ瀬がないぞ!」


 王様が遠くで怒鳴っているが、兵士たちは動く様子を一切見せない。

 一方の教皇は震えて。


「ま、間違いない……鑑定士のスキル保有者を用意してくれ……葬儀は中止だ! 魔王の生き残りがいたぞ! このままでは魔族が復活し、再び戦乱の世が渦巻くことになる!」


 と、叫ぶ教皇に合わせて、兵士たちがジリジリと寄ってくる。

 え、え、え……。

 どうしようもなく、犯罪者みたいにお縄につくことになる?

 そんな。急に。まだお祈りもすんでないのに。


 僕はとても悲しい気持ちになりながら、ゆっくりと両手をあげると、

 僕と兵士の間に割って入る姿があった。


「何をする! 皆の者!」


 それは美青年、ゲオルギヌスさんであった。


「まだ葬儀は終わっておらぬ! 何が"魔の者"だ! 例え魔族であろうとも我らが勇者ゲンイチロウ殿が大切に育てた子ではないか! かの子に離別の言葉も与えぬで、何が人か! 何が聖教団か!」


「そうですよー! 私たちだっていーっぱい悪い人退治してきましたけど、この人はなんにも悪いことしてないですよ」


「あの……せめてお葬式は静かに……」


 そしてゲン爺のパーティとされていた二人も、僕を守るように立ち塞がってくれた。


「だ、だが早く倒さねばまた厄災が……」


「起きぬ、300年の安寧の時を経ても恒久の歴史あるシルフィード王国を甘く見るでない! 仮に起きようともこのゲオルギヌスが対処してくれるわ!」


 そう勇猛果敢に叫ぶと、彼は僕に対して優しい瞳をして。


「すまなかった……薄々は気づいておったのだが確証は持てなかった。安心してくれ。ユウイチ殿が魔王の血統を持つ者であろうとも、私たちは貴方を守る。これはゲンイチロウ殿との約束なのだ」


「え……」


「地球に残した孫がいるからいざという時は守ってくれって言われてるですよー」


「大丈夫、私たち強いから、追われる身になっても……問題、ない……」


「……」


 僕は、僕は今日初めて会ったばかりのこの人達に、十数年の友人にも似た熱い感情を覚えた。


 きっと、ゲン爺は、うちの爺ちゃんは愛されていたのだろう。

 このパーティから。

 そして王様から。皆から。


 僕が祖父にあげられたものなんて何もなかったのかもしれない。

 でも、祖父の築いてきた絆を、思いを、偉大さを、学んで経験していくことが、せめてもの恩返しになるのかもしれない。


「……ありがとう。皆、僕も戦うよ。魔族だっていうなら、少しは戦えるはずだし」


 そう言うと、教皇がヒィッと悲鳴を上げた。

 一方のゲオルギヌスさん達は何だか嬉しそうな様子だ。


「でも、まずは別れの挨拶だ。ユウイチ殿、ゲンイチロウ殿に最期の祈りを……」


「うん、そうだね。ありがとうゲン爺……」


 そう言って、花と思い出の品々を棺桶に入れようとすると。


「……! ゆ、ユウイチさんそれって……」


「えっ……?」


 驚かれる声に僕は思わず手が止まる。

 えっと、シルフィさんだっけか。精霊の女の子が僕の手にしたものに震えている。


「爺ちゃんがよく使っていた羽ペンだけど……」


「それって黄金鳥の羽じゃないですか!」


 ――――黄金鳥の羽?

 何だそれは。


「そうかユウイチ殿の世界にはないのだな……通常、この世界には不死鳥の羽と呼ばれる瀕死状態の人間を救助する道具が存在している。だが、死んだ人間はこれでは生き返らない」


「う、うん……」


「だが、時として不死鳥の羽を超える道具がある。ダンジョン最深部にのみ眠るとされる伝説の――」


 そして、

 僕の手からこぼれ落ちたの羽ペンは。


 黄金の輝きを持ってゲン爺の身体を貫き、


 光を生み、


 その照らされる力に導かれるように老人の体躯が――



「――――よう、3年ぶりじゃな、雄一よ」



「ゲン爺……」


 起き上がりて事象を書き換えた。




 ☆



 それからというもの、僕らは日本で暮らすことになった。


 大聖堂で生き返ったゲン爺はあの後、聖堂内で大暴れ。


 孫を虐めるとは何事だと、教皇を含めた兵士たちをこれでもかと攻撃して蹴散らしてしまった。



「でも、僕。魔族だったんだね……」


「すまんかったな。秘密にしてて。余計な心配をかけたくなかったんじゃ」


「いいよもう気にしてないし」


 忌引き休暇を終えた僕は、その後も普通に会社に出勤して、普通に働いて給与をもらう毎日を繰り返している。


 変わったことと言えば、ゲン爺が帰ってきたことと、


「ユウイチさーん、お茶淹れましたよー」


「ありがとシルフィ」


「ゲンイチロウ殿、盆栽の水やり完了致しました」


「おう、助かるの」


「み、みんな……お夕飯何が食べたいかな……?」


 ゲン爺の勇者パーティのメンバーがそのまま家に住み着いたことくらいだろうか。

 精霊のシルフィに、聖騎士のゲオルギヌス、それに守護者のリップバーン。

 それぞれ家事手伝いとしてせわしなく働いてくれている。


「助かるのう」


「そうだね」


 と、僕らが話していると、家のチャイムが鳴らされる。

 いそいそと扉を開けると、


 そこには竜の首をした人間が立っていた。


「佐藤雄一様ですね」


 は、はい……と僕が答えると、竜人は重たい荷物をこちらに渡してきた。


「郵便です。こちらにサインをお願いします」


「ありがとうございます」


 毎度ありーっと、竜人が荷物を背負って空に飛んでいった。

 他にも空には、魔法で飛んでまわる子供たちの姿や、ドラゴンに乗って移動する営業マンの姿が見える。


「この国も変わったよなー」


「そうですか?」


 そう言えばもう一つ変わったこととして、異境であるシルフィードと、チキュウが今回の一件で完全にくっついてしまったらしい。

 おそらくドラゴンが空を飛ぶ風景が当たり前になったように、あちらの王国でもIT革命が起こったり、きっと文化的な革新がいっぱい発生するのだろう。



「そう言えば一周忌の知らせが来てたが、行くか? ユウイチ」


「……うーん、どうしようかな」


 そう言えば、今になって悩みのタネが一つ発生している。

 このゲン爺の言った一周忌。


 行くか行くまいか、悩んでいるのだ。


「行ったらいいじゃないですか、ご家族なんですし」

「そうです。我らは参列できかねますが、ユウイチ殿は関係ありませぬ」

「怖いけど……逃げない方がいい」


 皆もそう言ってくる。


 ……うん。


 ここは腹を括って参加することするか!


「ただし、日帰り! 泊まりはなしね! 旧・魔王城に泊まりなんてしたらそのまま魔王にされちゃうかもしれないし」


「ふん、その時は儂が退治してやるわい」


 ゲン爺がそう息巻いて笑う。


 明日は魔王が滅亡してちょうど一年。



 僕の父さんである魔王の一周忌なのだ。




(おわり)

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