恋か愛か、あるいは
親戚のおじさんに憧れていた。
おじさんと呼んではいたもののあの人は年齢が分かりにくい顔をしていて、おじさんだったのかお兄さんだったのかは定かではない。
周りの人からは瘋癲と呼ばれていたが、背が高くて、手足が長くて、そして色硝子の眼鏡の奥のこがね色の瞳と、ふわふわした長い髪が綺麗だった。盆と正月におじさんに会うことばかりが楽しみで日々を過ごしていたくらいだ。
「良いなあ、僕もおじさんみたく格好良くなりたいなあ」
あれは何歳の頃だろうか。盆の夕暮れ、縁側に座って、おじさんが持ってきた異国の菓子を二人で内緒で食べながら話していた。
「お前はやたら顔が良いからな。俺みたいにならずとも良い男になるんじゃねえか」
言って、おじさんは笑う。笑うとますます年齢が分からなくなる。
「おじさんみたいなのが良い」
「じゃあ泣き虫は直さねえとな」
「うん」
「せいぜい頑張れよ、
「どこに?」
「仕事」
もう会うこともねえだろうな。
そう言っておじさんはまた笑った。
それが最後に見たおじさんの姿。それっきり、おじさんは盆にも正月にも帰ってこなくなった。行方は誰も知らない。
当時幼くて頭の悪かった俺は、おじさんの代わりになろうとした。
一人称を変え、言葉遣いを変え、髪を伸ばし始めて。
しかし泣き虫だけは、思うように直らなかった。
甲斐燕中学校に入学が決まったとき、親戚一同はひどく喜んだ。それはもう、気持ちが悪いほどに。
金持ちの子息が通う優秀で清潔な学校。
そんな場所に、ただの義肢屋の息子である俺がどうして入学できたか。単純な話だ。裏口入学である。たまたま顧客に
しかし隠し事などそう長くは続かない。すぐに「
別に、友達ができるとは思っていなかった。ああいう人達と俺では、頭の出来も人間としての出来も違うから。
それでも居心地は悪くなる。学校が嫌になる。
そして頭が悪くて人間として未熟な俺は逃げ出した。学校に行くふりをしてそこらをほっつき歩いて時間を潰して、暗くなる頃に家に帰る。
そんな日々が続いて、気がつけば十六歳の春が来た。
おじさんに似せようと伸ばした髪は腰にまで届いて、あの人はどうしてこんな面倒な髪型をしていたのだろうと思う。一人称や言葉遣いはすっかり身に馴染んだ。泣き虫は、まだ何とも言えない。
そんなときである。「落武者」の噂を耳に挟んだのは。
いわく、軍人の息子にも関わらず体が弱くて軍学校に行けずここに来たそうだ、と。
落武者の名は、
だから何だという話ではあるが、俺はほんの少し期待をした。
友達に、なれるのではないかと。
そんな期待を胸に、夕方に朝ヶ原が学校から出てくるのを待ち伏せしたある日のことである。
青白くて細くて何かを睨むような目付きの少年。子供のくせに眉間に皺を寄せて、小難しい顔をしている。
「朝ヶ原」
川沿いの道。背後から呼びかける。
少年は機嫌が悪そうにこちらを見た。
「朝ヶ原だろ。間違ってねえよな」
朝ヶ原は何とも答えずこちらを睨んでいる。
「俺だよ。帰木」
「……見れば分かる」
一言。それだけ言って歩き出す。
低い声だ。劣等感が膨らむ。俺は何故だか声変わりが遅く、いつまで経っても女のような甲高い声をしている。おじさんの声とは程遠い。それがひどく嫌だった。
朝ヶ原の背を追う。
「お前落武者って呼ばれてるんだって?」
「だったら何だ」
「いや、随分な名前だと思って」
「わざわざ嫌味を言うために待ち伏せをしていたのか。無意義な時間の使い方だな」
朝ヶ原はやはり機嫌が悪そうだ。怒っているのだろうか。それでもまともに話してくれることが嬉しくて、俺はさらに話しかけた。
「そう言うなよ。なあ、落武者はなんでいつもそんなそそくさと帰るんだ?」
「お前に落武者と呼ばれる筋合いはない」
「他の奴には呼ばれる筋合いあるのかよ」
「うるさい」
「あ、言い返せないんだろ」
思わず笑ってしまった。難しい言葉を使っているくせに言っている内容は俺と大して変わらない。
同じだ。こいつも子供なのだ。
頭の悪い、人間として未熟な子供。
朝ヶ原は腹立たしげに立ち止まる。
「僕もお前も人間の屑だ。ヒエラルキーのどん底だ。なんの役にも立たん、無益で無力な子供だ」
「だから何だよ」
「屑同士で話すだけ無駄だ」
そう言って、俺を睨む。
風が吹いて。
唐突に、朝ヶ原が信じられないほど綺麗に見えた。いや、綺麗というより……どう表現したら良いのだろう。
他の誰にも見せたくないと、そう思った。
朝ヶ原は少し目を丸くしてじっとこちらを見ている。
「何だよ」
かろうじてそんな声をかける。自分は今どんな顔をしているのだろう。
はっと我に返ったような顔をして、朝ヶ原は足早に歩き出した。もう二度と俺を視界に入れまいとしているかのように。
「おい、朝ヶ原。なんだってんだよ」
そう呼びかけるが返事はない。こちらを見もしない。結局朝ヶ原はそのまま行ってしまった。
「……何だよ」
呟いて、仕方なく自宅の方向へ歩き出す。
朝ヶ原。朝ヶ原時宗。青白くて、細くて、何かを睨むような目付きの、子供。俺と同じ子供。
他の誰にも見せたくない。誰にも触れさせたくない。どうして、そんなことを思うのか。
分からない。小さな頃は分からないことはいつもおじさんに訊いていたのだが、あの人はここには居ない。
家に帰って、着替えもせず畳に寝転んだ。
「これは俺が勝手に考えてるだけなんだが」
おじさんが言っていた言葉が頭に浮かぶ。
あれは何歳のときだろう。覚えていない。思い出せない。それでも確かにおじさんは言っていた。
「一生ひとつの恋愛に縛られるやつは、不幸だな」
どうして? ひとりの人をずっと好きで居られる方が素敵だと思うんだけどなあ。
「そりゃ客観的には綺麗だろうがよ。好きな相手が自分を好きで居てくれるとは限らないだろ。そうなったらもう、地獄だ」
地獄?
「そう、地獄。自分を好いてくれない相手を好きで居続けるってのは死ぬほどつらいぜ」
おじさんはどうなの?
「俺? 俺は平気だ。誰のことも好きじゃねえからな」
じゃあ、僕のことも嫌い?
「いいや、好きだぜ。愛してる」
今、誰も好きじゃないって言ったのに。
「好きにもいろいろあんだよ。……そうだな。自分を好かない相手を好きで居続けるより、お互い好きなのに向けている『好き』と向けられている『好き』が別物だって方が苦しいだろうな」
お前もいずれそんな失恋をするぜ。
おじさんはそう言った。そのあと、俺は何と返したのだったか。あの会話はどういうふうに終わったのか。面白いほど思い出せない。
玄関の方で物音がする。母が買い物から帰ってきたようだ。
制服のままだらけていたと知れたら叱られる。そそくさと自室へ入って着替えをした。
部屋の小さな本棚には、ほとんど開いてすらいない教科書が並んでいる。
それをぼんやりと眺めながら、俺は朝ヶ原のことを考えた。
明日、学校に行きさえすれば会えるのだろうか。会えるのだろう。簡単なことだ。朝ヶ原は同じ学級に居るのだから。
しかし学校に行けば、俺はまた見せ物になる。
「……」
それでも良いと、思った。
朝ヶ原が俺の知らないところに居るくらいなら、好奇の目に晒された方がずっと気分が良い。
翌日、いつもどおり朝食を食い、制服に着替えて、髪をひとつにまとめ、鞄を持って家を出た。
学校に近づくほど登校中の同窓生の姿が多くなる。皆一様に俺を見てひそひそと何かを言っている。
そのひそひそ声は、教室に入った途端ざわめきに変わった。それを無視して朝ヶ原の姿を探す。朝ヶ原はすでに席に座って帳面に何かを書いていた。勉強か何かだろう。
俺は久しく座っていなかった自分の席に腰をおろした。ざわめきは止まない。
やがて教師が教室に入ってきて、俺を見て変な顔をし、動きを止める。何かを言おうとしているが、何から言えば良いのか分からないと言いたげな顔だった。
そのまま丸一日授業を聞いてみたが、退屈で何度も眠りそうになった。まぶたが重くなって閉じかけたとき、朝ヶ原の顔が頭を過って目を覚ます。その繰り返し。気がつけば放課後になっていた。
誰にも何も言わず、教室を出る。
どうにも自分はおかしくなってしまったらしい。こういうときはどうすべきか。きっと一番落ち着く場所で過ごすのが最善だろう。
ふと、後ろから足音が近づいてきた。
何の根拠もないが、何故か俺は朝ヶ原だと思った。妙に確信していた。
足を止め、振り向く。
案の定、青白い顔がそこにある。
「よお、落武者」
朝ヶ原は呆けた顔でこちらを見ている。
「お前も来るか」
「……どこへ」
「廃兵院」
「何故そのような場所に……」
「俺の親父の職業知らねえのかよ」
朝ヶ原は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、ああそうか、と呟いた。
その仕草で心が乱れる。頭にもやがかかったかのように思考が鈍る。
熱に浮かされたようなふわふわした気分で歩き出すと、後ろから朝ヶ原が着いてきた。
秘密の近道を通って大きな門を開く。ちらりと後ろを盗み見ると、朝ヶ原はじっとこちらを見ていた。
ついて来いと声をかける。
建物に入ると、体に馴染んだ空気が肺を満たした。
赤ん坊の頃から父親に連れてこられていた場所だ。どんなに嫌なことがあっても、ここに来れば冷静になれる。
片足の爺や盲目の兄さんと挨拶を交わす。ふと後ろを見ると、朝ヶ原がもともと青白い顔をさらに真っ青にして突っ立っていた。
「おい、朝ヶ原。顔真っ青だぞ。大丈夫か」
外行くか。
そう言って俺は朝ヶ原の手を引いた。朝ヶ原の手は冷たくて乾いている。またぐしゃぐしゃといろんな感情が沸き立ってくる。
ひたすらに、この手を握るのが俺だけであることを祈った。
庭園に出て、二人で壁に寄りかかる。
朝ヶ原は大きく深呼吸をした。
俺はどうにももじもじとしてしまって、それを顔に出さないように気をつけながら口を開く。
「学校ってつまんねえよな」
朝ヶ原は何とも答えない。
「あんな場所に軟禁されて、何が楽しいんだかな」
「……楽しい楽しくないの話ではないのだ」
「ふうん」
やっとまともな会話ができた。朝ヶ原の声を、何度も何度も頭の中で反芻する。
俺の声とは大違いな低い声を。
「……ここは」
「ん?」
「ここは、お前に相応しい場所ではない」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。目を見開いて隣を見る。朝ヶ原は、ひどく切羽詰まった顔をしていた。
「お前は神聖だ。あのような虫と接するべきではない。お前は……」
朝ヶ原の言葉を最後まで聞かないで。
ほとんど反射的に、俺は朝ヶ原を殴った。
朝ヶ原が体勢を崩す。鞄がすっ飛んで中身が散らばる。
「虫って何だよ!」
お前は、お前はそんなことを言うやつじゃない。これは何かの間違いだ。朝ヶ原はそんなこと言わない。そんなやつじゃない。
頭が真っ白になった。
「お前なんか友達じゃねえ。どこにでも行っちまえ」
どうしてそんなことを口走ったのか、自分でも分からない。混乱しているのだ。頭のどこかがおかしくなってしまっているのだ。
朝ヶ原は殴られた頬を押さえて、こちらを見上げた。母親にこっぴどく叱られた幼児のような顔だった。悲しそうな顔だった。
やがて朝ヶ原は俺から視線を逸らし、地面に落ちた鞄の中身を拾い始める。
俺はそれを手伝うことはおろか殴ってしまったことを謝る余裕もなく、呆けたようにその様子を眺めていた。
「……あ」
教科書と帳面に混じって、異様な物が落ちている。あれは……絵本、か。
どこかで見たような表紙だ。
題名は、『Alice's Adventures……』
俺が題名を読みきる前に、朝ヶ原は大きな秘密が露呈してしまったときのように慌ててその絵本を隠した。
「あ……朝ヶ原」
呼びかける。彼は答えもせずに走り去ってしまった。
残った俺は痺れた頭で考える。
見覚えのある異国の絵本。果たしてどこで見たのだったか。しばらくそのまま突っ立って考えて、暗くなった頃に家に帰った。
親に挨拶もせず自室に向かって、鞄を畳に叩きつけるようにして放る。
ふと、読んですらいない教科書の並ぶ小さな本棚が目に入った。
「……あ」
本棚の隅っこに、一冊だけ異質な本がある。
「ああ……そうか。これだ」
おじさんがくれたのだ。異国の言葉が読めなくてほとんど開かずに本棚に押し込んでしまったが、確かにあの人から貰ったものだ。
これも何歳のときだったか思い出せない。それでも記憶としてここにある声。
「知ってるか? この物語の作者はな、少女愛者だったんじゃねえかって言われてんだ。面白いだろ」
よく分かんない。
「分かんねえかなあ。作品と作者本人の性癖は密接な関係があるんだ。興味深いだろうがよ。つってもルイス・キャロルの場合は諸説あるけどな」
よく分かんないってば。
「そっか、分かんねえか。分かんねえんじゃしゃあねえな」
そう言うおじさんは、笑っては居たものの少し寂しそうだった。
絵本を引っ張り出して、ぱらぱらとページをめくる。文字はやはり読めないが、絵から推察するに少女がここではない世界で冒険をする物語のようだ。
少女の物語。少女愛者。
朝ヶ原が言いかけた言葉。
お前は神聖だ。あのような虫と接するべきではない。お前は……。
「……そうか」
俺は少女なんだ。
妙に納得した。朝ヶ原の中でだけ俺は少女なのだ。少女である以上、俺は神聖で居られるのだ。神聖だから、朝ヶ原の傍に居られるのだ。
それならば、俺はずっと少女で居たい。
しかしこの考えは矛盾している。
少女で居ることは、おじさんの代わりになれないということだ。俺はどちらを選べば良いのだろう。どちらが正しいのだろう。
ようやく気づく。俺はおじさんのことは好きだったが、朝ヶ原のことも好きなのだ。
そしておじさんが言っていたように『好き』にも種類があって、おじさんへのそれと朝ヶ原へのそれは別物なのだろう。
無性に、おじさんに会いたくなった。
部屋を出て、台所で夕食の用意をしている母に声をかける。
「母さん」
「なに、友佳」
「おじさんってどこ行っちゃったんだろうな」
母は振り向いてこちらを見た。可哀想なものでも見るような目付きで。
「……友佳。寂しいのは分かるけど、あの人はもう居ないんだから、忘れなさい」
忘れなさいとはどういうことだろう。腑に落ちない。しかし何故だかさらに問い詰めることが怖くて、俺は何とも言わずその場から離れた。
茶の間へ行って、物心ついたときから部屋の隅に突っ立っている姿鏡を見る。
どんなに髪の長さや口調を真似ても、ちっとも似ていない。
おじさんの髪はふわふわしていたのに、俺の髪は真っ直ぐだ。おじさんはこがね色の瞳をしていたのに、俺の瞳は真っ黒だ。
結局は別人なのだ。俺はおじさんにはなれない。
今まで見て見ぬふりをしていたのに、いきなり胸の中にすとんと落ちてきた。
でも、これではっきりした。
おじさんにはなれないが、少女ならばなれる。それで朝ヶ原の中に居られるなら、そうでありたい。
「……現金なやつだな、俺って」
鏡に向かって笑う。自分がひどく滑稽に見えた。
あんなに必死になっていたのに。あんなに大好きだったのに。
繰り返すように、俺は朝ヶ原のことも好きなのだ。それはもう、他の誰にも渡したくないほどに。
おじさんに対するそれとはまるで違うこの『好き』は恋か愛か、あるいはもっと下劣なものなのか。どうにせよ崇高なものではあるまい。
朝ヶ原、朝ヶ原。今の俺はそればかりで、本当に、気が狂いそうだ。
「俺が、少女でさえ居れば……」
少女でさえあれば。きっと朝ヶ原は、俺に傍に居る権利をくれるはずだ。ずっと少女でさえ居られたなら。
明日学校に行こう。殴ってしまったことを謝って、何でも良いから何か話題を見つけて話をして、隣を歩いて、それでほんの少し触れることができたら、きっと幸せだ。
母が夕食を運んできた。鏡から離れて卓袱台に向かって座る。
しかし食欲がわかなくて、早々に部屋に戻って眠った。俺は小さな頃から、考えや気持ちが溢れて自分ではどうしようもなくなったとき、糸が切れるように眠ることを常としていた。
そして気がつけば朝になっていて、痺れた頭でぼんやりと窓から射し込む光を眺めるのだ。
体を起こして、すぐに異変に気づく。
……喉の調子がおかしい。
少し考えて、不安が首を出した。
「……駄目だ」
これが声変わりの前兆だとしたら。俺は男になってしまう。少女では居られなくなる。それは駄目だ。嫌だ。
ただの風邪だ。そうだ。そうに決まっている。
その日は外に出ることをやめた。親には具合が悪いと言って誤魔化した。部屋にこもってうずくまって、飯もほとんど食わずにじっとしていた。
明日には治る、明日には治る、明日には治る。何度も自分にそう言い聞かせたが、日が経つごとに喉はおかしくなっていく。
やがて夏が来る頃には、俺の声は完全に低く太くなってしまった。
情けなくも涙が溢れる。
俺はもう少女ではない。神聖でも何でもない。朝ヶ原が好いてくれる俺ではない。
毎日朝が来るたびに泣いた。親に医者を呼ばれるほど泣き暮れた。やがて精神不安定として学校を退学になった。
朝ヶ原にはもう二度と会わない。少女でない俺など、見てほしくない。
そう思ったのに朝ヶ原はかえり屋にやって来た。目的は知らない。
神が居るとするならば、そこまでして俺をみじめにしたいのか。性悪野郎が、と胸の内で毒づく。
客間。向かい合って座る。白状すれば、今すぐにでも逃げ出したかった。
「……帰木、その」
言いにくそうに朝ヶ原は口を開く。
「……悪かった。僕が浅はかだった」
ああ。謝りに来たのか。
俺は自嘲を込めて微笑んだ。
「お別れだ」
醜い声で朝ヶ原にそう告げたのと、十一歳の夏の終わりにおじさんが死んでしまったことを思い出したのは、同時だった。
これで終わり。俺はおじさんにも少女にもなれずに帰木友佳として生きるのだ。
「やはり……僕はお前の友達には相応しくないか」
朝ヶ原は悲しそうに言う。
……友達。そうか、友達だ。最初の目的はそれだったのだ。
ああ、お前は、神聖でなくなった俺にも傍に居る許しをくれるんだな。
そうなってしまえば、諦めきれないではないか。いつか報われる日まで、ずっとこのまま、変わらずに居よう。
変わらずに、変わらずに。
恋か愛か、あるいは 九良川文蔵 @bunzou
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