水と魚

「私にできることはありますか。どんなことでも致します。役に立ちます。ですからどうか、お側に置いてくださいませんか」

「そうか。ではひとつだけ頼みがあるんだ」

 あの人は水のような人。

 一瞬だって同じ形では居てくれない。確かにそこにあって触れることもできるのに、何を以ってしても縛ることはできない。理不尽で身勝手でどうしようもない。しかし水がなければ、魚は生きていけないのだ。



「出掛けるよ」

 景白龍之介かげしろりゅうのすけは唐突にそう言った。清澄透きよすみとおるはどこへともどうしてとも訊かず、「はい」と答えた。

「あいつ失恋したんだな」

 龍之介は変声期を終えたばかりのような声でそう言い、学生のような顔でやや意地悪く微笑んでいる。もう三十路を過ぎているというのに、まるで青少年のごとき出で立ちだ。

 外に出て扉の鍵を閉める。階段を下る。帝都の隅っこにぽつんと佇んでいるビルディングの一角を、寝泊まりしたり仕事をしたりする場所として借りたのはもう何年前のことだろう。

 龍之介はそこそこ大きな声で流行歌を歌いながら透の前を歩いている。この歌い癖は子供の頃から周囲に叱られ続けているが、一向に改善されない。そもそも、直そうとしても直らないから癖と言うのだろうが。

 川沿いを歩いて橋を渡って、龍之介は「かえり屋」と書かれた古い看板を掲げている建物の前で止まった。

 ああ、と透は納得する。この店の二代目店主である帰木友佳かえりぎともかは、龍之介の古馴染みである。先刻言っていたあいつとはつまり、彼のことだろう。

 龍之介は歌いながら店の中に入っていく。そのあとを透は追った。

「いらっしゃ、い……」

 店で退屈そうに座っていた友佳がこちらを見る。そして顔を引きつらせる。

 友佳は言葉を失うほど眉目秀麗な青年で、可愛らしい名前も相まって女と間違われることが多いのだが、不釣り合いに声は太く低く、友佳を女と勘違いして懸想して話しかけては撃沈する男があとを絶たない。

 そして彼が女と間違えられることの大きな要因のひとつに、髪があった。豊かで真っ黒な長い髪。腰の辺りまであったように思う。どうしてかは知らないが、友佳はずっと長髪であった。

 長髪であったはず、なのだが。

 短くなっている。

 これはこれで似合ってはいるのだが、なんだか別人を見ているような気分になった。

「失恋だな」

 友佳の顔を見て、挨拶もせず龍之介は言う。友佳はあからさまに嫌そうな顔をした。

「そんな気がしてな。心配になって来てみたら髪が短くなってら」

「……まだそんな気がするだの勘だの言ってんのかよ」

 相変わらず外見も中身もガキ臭いな、と友佳は吐き捨てる。龍之介は笑った。

 と、ここで店の奥から見知らぬ男が出てきた。体が大きいために年上かと思ったが、顔を見ると二十歳そこそこの青年である。友佳の代わりだとでも言いたげに長い髪をしていて、右腕が肘の辺りからぽっかり欠損している。

「あ」

 ええと、と青年は言った。そのまま動きを止め、三秒ほど考えてから、

「こんにちは」

 と言葉を続けた。

 魯鈍そうな青年だ。頭が悪いというより、頭が弱いという印象を受ける。

 透は眉をひそめて片目を細め、彼を見た。それは人を見下すときの透の癖であった。よく「お前は喋らないがすぐ顔に出るな」と言われるから直そうと思っているのだが、繰り返すように直そうとしても直らないから癖と言うのである。

「その子は?」

 そう訊ねる龍之介の顔は、背後に居る透からは見えない。それでも分かる。人と関わることが好きな龍之介は、初めて会う人間の前ならばきっと機嫌が良さそうな顔をしているはずだ。

水浦鐇みずうらたつきです」

 鐇と名乗った魯鈍な青年はのろのろと微笑んだ。

「たつき、鐇か。良い名前だ。お父様とお母様、どちらが付けてくれたんだい?」

「ええと、分かんねえっす。親はずっとずっと昔に死んじまったもんですから」

「それは悪いことを訊いてしまったな」

「いや気にしないんで、大丈夫です」

 顔も思い出せねえ人達なんで、と鐇は言った。

 その言葉に違和感を覚える。

 思い出せない、だから気にしない、か。親に対する気持ちなど、そんなものなのだろうか。透には分からない。

「出掛けてくる」

 友佳が唐突にそう言った。

「鐇、こいつらの相手しとけ」

 逃げたな、と透は思った。友佳は昔から龍之介に苦手意識を持っているようなのだ。恐らく透のことも苦手なのだろう。

 透の方も友佳のことは大して好きではない。

「え。えっと、はい」

 こちらへどうぞ、と鐇は左手で店の奥の客間を指し示す。

「じゃあ遠慮なく。友佳、出掛けるんなら気をつけて行くんだよ。野良犬とかに近づいたら駄目だよ」

「うるせえ」

 龍之介の言葉に不機嫌そうに返して、友佳は店を出ていった。

 残った鐇は「この次は何て言えば良いのだろう」と言いたげに先程まで友佳が居た場所とこちらを交互に見ている。

「友佳さんどこ行っちゃったんだろうなあ」

「たぶん散歩みたいなもんだよ。さあ行こう鐇くん。僕は喉が渇いた」

「あ、じゃあ、貰い物の紅茶があるんすよ。飲んでってください」

 靴を脱いで座敷に上がる。この家に来るのは久方ぶりだが、家具の位置もにおいも何も変わっていない。一瞬、時間が巻き戻ったかのような感覚を覚えた。

 客間に通されて、鐇は「ちょっと待っててくださいね」と言い台所へ消える。

「いやはや懐かしい。ここに来ると父上を思い出すな」

 父。龍之介の父。景白財閥のかつての総帥。ただの義肢屋であるかえり屋とこの国の三大財閥に数えられる景白に縁ができたのは、龍之介の父がこの店に自らの義足を作らせていたからである。

 優しい人であった。大きくて温かな手のひらを持っていた。その手のひらで、よく頭を撫でてもらった。

 嫌いではなかった。むしろ好意と感謝を抱いていた。しかし……。

 透が龍之介の父親について深く考えを巡らせる前に、鐇が盆に湯飲みを乗せて戻ってきた。

「湯飲みに紅茶か。斬新だな」

「あ、それはどうも、ありがとうございます」

 へへへと鐇は笑った。やはり頭が弱いようだ。透はまた、例の眉をひそめて片目を細める嫌な顔つきをした。

「それで、ええと……ご用件は」

「友佳、失恋したろ」

「え? いや、知らねえすけど、あの人綺麗だし女の人に振られることはあんまりないんじゃねえかな」

「君が知らないだけで絶対失恋してるよ」

「はあ。友佳さんから何か聞いたんすか?」

「いや、勘」

 かん、と言葉をおうむ返しにする鐇。こればかりは面食らうのも無理はない。

 しかし、龍之介の勘は本当によく当たる。透の記憶の中では外れたことがない。だからなのか、龍之介はいつでも自分の発言に根拠のない自信を持っている。

「缶があると分かるんすか? 缶ならうちにもありますけど、そういうの全然分かんねえすよ。俺が馬鹿なだけかなあ」

「君は何か誤解をしているな」

 龍之介は愉快そうに笑う。鐇も笑った。

 透は笑わなかった。

「鐇くん、君は非常によろしい。僕は面白い人が好きだよ」

「俺も面白いのは好きです」

「うん、結構結構。ところで鐇くん、訊いても良いかな」

「何でしょ」

「その腕はどうしたんだい? ご家族が関わっているのだろうけど」

「ああこれすか」

 言って、鐇は肘から下の欠けた右腕をぷらぷらと振った。

「いやあ、缶すごいなあ。たぶんその通りだと思うんすよ。なんか昔、兄に切られた、のかなあ」

「随分曖昧だな」

「いやあ、兄が居たってことは覚えてるんすけど、顔も声も名前も思い出せなくて。そもそもホントに兄さんなんか居たのかって訊かれたらそれも自信なくなってくるし」

 また「思い出せない」か。水浦鐇の言動にはどうにも違和感がある。普通なら忘れないはずのことを忘れている、というのもあるのだろうが、何と言うか、言い様のない不気味さがあるのだ。

 それは、まるで。

 まるで本当に何もかもどうでも良いかのようで。

「透」

 急に龍之介に名を呼ばれ、透は体を強張らせる。

「早く飲め、冷めるぞ。冷めた紅茶なんて飲めたもんじゃないぞ」

 はい、と返事をして紅茶を啜る。心臓が早鐘を打っている。突然話しかけられると驚いてしまうのだ。

 紅茶はすでにぬるかった。

「そんで、えっと、お二人のお名前聞いてなかったですね」

「おっと、こいつは失敬。僕は景白龍之介だ。景色の景に白い、龍之介のリュウは画数が多いやつだ。こっちは清澄透。清いに澄みわたるに透明の透と書く」

「かげしろ? かげしろ……どっかで聞いたことあるなあ……」

 何だったかなあと鐇は左手を顎にあてる。

「……あ、思い出した! 確かすげえ金持ちの家ですよね。じゃあ龍之介さん金持ちなんすか。すごいなあ」

「今は違うよ」

 笑いながら龍之介は否定する。

 そう、今は違うのだ。

 龍之介は元来、景白の跡継ぎのはずであった。しかし小説か何かに影響され探偵になりたいと言い出し、召し使いの透を連れて家出をした。その一件で景白家からは縁を切られて現在は金持ちでも何でもない。家は龍之介の弟が継いだらしい。

 透は追憶を終えて思う。大変なことであった、と。しかしどうであれ龍之介は自分を連れていってくれた。それだけで充分すぎるほどに幸福だ。

 へええ、と何故か感心したように鐇は頷いた。

「つうか清澄透って綺麗な名前ですねえ。清くて澄んでて透明なんでしょ?」

 こんなやつに褒められてもちっとも嬉しくない。透は視線を落とし、湯飲みの中の紅茶を見た。

「友佳さんはだいぶ綺麗だけどあなたの顔もけっこう綺麗すね。こういうの何て言うんだっけ。体と名前が云々かんぬん」

 名は体を表すと言いたいのだろう。

 黙ってうつむいていると、鐇は無口なお方なんすねと言って、どうしてかは知らないが声をあげて笑った。

「俺おしゃべりだから、すぐうるせえって言われちまうんすよ」

「それは可哀想に。たくさん話をした方が楽しいに決まっているのにな」

「そうなんすけど、俺馬鹿だからあんまり面白い話もできねえし、仕方ないかなって」

「じゃあ僕のところに来るかい? 透が無口で寂しいんだ」

 龍之介の一言で、心臓を他人に掴まれて冷や水の中に放られたような気分になる。

 龍之介は自分と居ると退屈なのだろうか。龍之介は自分に飽きてしまったのだろうか。鐇に居場所を奪われるのではないか。

 そんな被害妄想じみた不安が頭を駆け巡る。

 鐇はううん、と唸ってもっともらしく顔をしかめてみせた。

「分かんねえっす。ちょっと考えさせてください」

「うん、ゆっくり考えたまえ。そうだな、鐇くんが考えてる間に友佳に意地悪をしに行こうかな」

「意地悪は駄目すよ。友佳さん怒ります」

「なに、大したことはしないさ。友佳は僕の顔見ただけで怒るから。川の向こうの喫茶店だな。友佳はそこに居る」

「また缶ですか?」

「そう、勘」

 龍之介は残った紅茶を一気に飲み干し、立ち上がった。透も立ち上がろうとしたが、龍之介に制止される。

「透はここに居なさい。お前は人見知りが過ぎるから、鐇くんみたいな子と交流した方が良い」

 嫌だ。

 率直にそう思う。しかし透は、それを口に出すことはしなかった。反抗することもしなかった。ただ、はい、と言って座り直し、部屋から出ていく龍之介の背中にお気をつけて、と声をかけた。

「ああ、龍之介さん、行っちゃった。ええっと、透さん、お茶のおかわりどうですか」

「……いえ、結構です」

 そもそもまだ一口しか飲んでいない。

「お気遣い感謝致します」

 そう言うと、鐇はいやいやいやと大袈裟に返事をした。

「そんで、透さんって龍之介さんとどういう繋がりなんですか? 友達?」

「……私は、龍之介様の従者です」

「じゅうしゃ」

 言葉をおうむ返しにする鐇。意味が分かっていないらしい。透はどう説明すれば馬鹿にも分かるだろうか、と少し考えた。

「端的に申し上げますと……龍之介様のおっしゃることを聞く者です」

「へええ、じゅうしゃってそういう意味なんすね。またひとつ賢くなりました。で、何で言うこと聞いてあげてるんすか?」

「いえ、聞いてあげているのではなく、聞かせていただいているのです」

 鐇は数回まばたきをして首をかしげる。

 理解できていないのだろう。理解などされたくもないが。

「透さんは苗字が景白じゃないから、金持ち……じゃなくてえっと、元金持ち? ってわけじゃないんすよね」

「はい。左様にございます。それがどうかなさいましたか」

「いやあ、どこに接点があったのかなって」

 従者は知らないが接点という言葉は知っているのか。変なふうに傾いた語彙力だ。

 無視をしてそっぽを向きたいが、龍之介に交流した方が良いと言われてしまった。

 話すしかあるまい。別に聞かれて困る話ではないのだから、と自分に言い聞かせる。

「……私は幼い頃、親に捨てられ路頭に迷っていたところを、旦那様……龍之介様のお父上に拾われました。それから龍之介の身の回りの世話をさせていただく召し使いとして雇っていただいたのです。龍之介様はもちろんのこと、奥様と旦那様にもたいへん良くしていただきました」

 へええ、と鐇はまた言った。やはり、何故か感心するような口ぶりで。

「俺も、子供んときに友佳さんの親父さんに拾ってもらったんです。何歳のときかとか、何で家がなかったのかとか、その辺は覚えてないんすけどね。へへ、なんか似てますね、俺と透さん」

「……左様にございますね」

 似ているものか、と胸中で毒づく。

 確かに境遇に一致している点はあるかもしれないが、鐇と透では決定的に違う。

 透はどうでも良くなんかない。忘れられないことが山程ある。もう過ぎたことなのに、馬鹿のように大切に抱え込んでいる。

 例えば親。例えば家。

 例えば。

 初恋。

「でも家出てきちゃったんでしょ? その、おくさまとだんなさま、悲しまなかったんすか?」

「……家を出る少し前に、お二人とも亡くなってしまわれたものですから」

「死んじゃったんすか。悲しいなあ。ご病気とかで?」

「その時分は様々な事柄が重なり、ばたばたしていたものですから……」

 曖昧に言葉を濁し、透は再び視線を湯飲みに落とす。

 もう何年前のことだろう。

「そうか。ではひとつだけ頼みがあるんだ」

 龍之介の言葉を思い出す。

 家を出たかった龍之介と、それに連れていってもらいたかった透。

 家出をするには、それより大きな事件を起こしてどさくさに紛れるしかない。

 透はただ、龍之介が行く場所に行きたかった。龍之介が居る場所に居たかった。その一心であった。

「ここに居るのなんか嫌なんだよ。大変だろうけど、やってくれるな、透」

 どうしようもなかったのだ。あの笑顔で、あの声で、あの姿で言われてしまえば、どうしようもないのだ。

 あのときも、今も、これからも。

「……大変でした、事故に見せかけるのは」

 小さな声で呟く。視線を上げると、鐇はぽかんとしてこちらを見ている。状況と言葉が繋がらないのだろう、この可哀想な頭では。

 そもそも透の方も、鐇には分かるまいと高をくくって発言したのだ。

「どうにせよ、人が死ぬのは悲しいすね」

 そう言って鐇は黙った。しばらく沈黙が続く。

 透はすっかり冷めた紅茶をすすった。龍之介の言うとおり、冷めた紅茶は飲めたものではない。いっそきんきんに冷えていたら、それはそれで美味かろうに。

 五分ほど黙りこくったあと、鐇はええと、と言った。

「さっきの話なんすけど、俺、やっぱり龍之介さんのとこには行けないです。友佳さんとか、友佳さんのお袋さんとか、もう死んじゃったけど友佳さんの親父さんには、恩があるので」

 形ばかりの言葉だ。透はそう感じた。この青年にそんな概念があるとは思えない。ただ、こういうときはこう言うものだとどこかで習ったのだろう。そして、たまたまそれを忘れていなかっただけなのだろう。

 恩。恩か。それは透も、龍之介の両親に似たようなものを感じていた。

 感じていたが、仕方なかったのだ。

 仕方がなかった。

 龍之介を愛してしまったのだから。

 恋をしてしまったのだから。

 理由は自分でもよく分からない。そんなものはないのかもしれない。ただ初めてあの笑顔を見たときに、自分の人生はこの人のためにあるのだと確信した。

 龍之介は透の恋にとっくに気づいているのだろう。気づいた上で良いように利用しているのだろう。

 それで良い。龍之介にとって利用価値のある存在であれるなら、それ以上望むことなどない。

 あの人は水のような人。

 一瞬だって同じ形では居てくれない。確かにそこにあって触れることもできるのに、何を以ってしても縛ることはできない。理不尽で身勝手でどうしようもない。

 それでも、透は魚だ。透の命は龍之介が握っている。逃げられはしない。

「水?」

 鐇が呟く。心の内で思っているだけのつもりが、声に出ていたのか。つまらない漫画じゃあるまいし、こんな間抜けなことを仕出かすとは恥ずかしくて仕方ない。

「男の人が男の人を好きになることもあるんだなあ」

 鐇がそう言ったのと同時にガタガタと襖が開いて、友佳の首根っこを掴んだ龍之介が入ってきた。

「友佳捕獲作戦、成功なり」

 笑っているのは龍之介ばかりで、友佳は地獄を見てきたかのような仏頂面をしている。

「満足した。帰るぞ透」

 はい、と返事をして立ち上がる。

「あ、お帰りになられますか」

 鐇も立ち上がった。外まで見送るつもりなのだろう。

 客間を出て廊下を歩きながら、鐇は口を開く。

「龍之介さん」

「何だい?」

「透さんのこと、大事にしてあげてくださいね」

 何だいそりゃ、と、何も知らぬふりをして龍之介は笑った。

 外に出ると龍之介はまたそこそこ大きな声で歌いながらすたすた歩いて行ってしまう。

 透は立ち止まり、鐇の方を見た。

「水浦さん、たいへん失礼ながら申し上げます」

「え? ああ、どうぞどうぞ」

「先程のお言葉、真に申し訳ございませんが、余計なお世話です」

「はあ、すんません。良かれと思ったんすけど」

 それから、と言葉を続ける。

「先程男性が男性を好きになることもあるのかとおっしゃいましたが、私は女です」

 当たり前のことを告げられた鐇は、目を丸くして「えええ」と声をあげた。

「このうすら馬鹿が」

 ここに来て初めて微かな笑顔を浮かべて、愚かな魚は水の背を追った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る