第4話 彼女からのメール

彼女からメールが来たのは一月三日の夜だった。突然と言えば突然だったけれど、その予感はあった。というのも、僕が彼女に宛てた年賀状に、ケータイのアドレスを書いたからだ。


普段着のような彼女の文章を読んだのは初めてだった。


僕たちは一九九一年に出会って、一九九五年に会わなくなった。二人とも二十代だった。僕は結婚していたけれど、彼女は独身だった。ケータイのメールどころか、パソコンすらほとんど使われていない時代だ。電子メールと言えば、コンピュータを理解できる人だけが使える新しい何か、という感じだった。


一九九五年の冬、彼女は以前から付き合っていたキョウちゃんという男と結婚をして、東京へと引っ越していった。それから二、三年は年賀状のやりとりをしていたけれど、彼女が大阪へ引っ越したのを潮に僕たちは交信を絶った。


僕が彼女に年賀状を出そうと思ったのは、特別な意味はなかった。なんとなく。ケータイメールのように。何してる?そんな感じだった。


それでも、彼女に年賀状を出すにはそれなりに苦労をした。彼女の大阪の住所を僕は知らなかったのだ。


彼女と仲が良かった同僚何人かに訊いたり、もう会社を辞めてしまった元同僚たちにもメールを送った。そのうちの何人かは彼女のことを懐かしんだし、何人かは忘れてしまっていた。彼女の現在を知っている人は、誰もいなかった。僕はそのことに少なからずショックをうけた。ここにいるときの彼女は僕の中心だったし、皆の中心も彼女なのだと思い込んでいたのだ。


やっとのことで彼女の住所を突き止めることができたのは、鋤柄すきがら真知子という元同僚が糸口となった。真知子は彼女の住所を知らなかったけれど、五年前に辞めてしまった小暮 唐子とうこという四年先輩のメールアドレスを教えてくれた。


小暮さんにメールをすると、勅使河原てしがはら洋子なら知っているかもしれないという内容と、自分は現在ケーキ屋で修行中なのだという近況と勅使河原洋子のアドレスが、三ヵ月後にケータイに届いた。


勅使河原洋子からは、石村さんなら彼女の仲人をやったから知っているかもしれないと、すぐに返信があった。石村さんというのは、現在僕が所属する部署の部長だ。僕は部長にパソコンからメールを送った。


彼女からのメールは、敬体と常体とが入り混じった絵文字だらけの文章で、とても読みにくかったけれど、つまりこういうことだった。


「年賀状遅れてゴメン」

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1000文字 桜本町俊 @sakurahonmachi

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