第3話 鼻をほじるな

私にはわからなかった。


いつの間にか私たち仲良し三人組の間で、それは固い約束になっていた。馬鹿げているとは思ったが、二人から見放されたら仲良くしてくれる女の子が他にいなかった私は、卒業式で第二ボタンをもらう先輩を決めなければならなかった。


私には二人のように憧れの先輩はいなかったし、憧れたい欲求も沸いてこなかった。盛り上がる二人を前に、くだらない、と何度も本音が出そうになったが、そんな勇気があるはずもなく、つい「がんばろうね」などと調子を合わせていた。残りの一年間を、一人で過ごさなければならなくなるのは怖かった。


無理して憧れの先輩を選び、三人で先輩の名前を明かし合い、卒業式で背中を押されながら第二ボタンをもらうという面倒くさいことの何が楽しいのか、私にはわからなかった。


できるだけ後腐れがなさそうで、女の子になんか興味がなさそうで、できれば第二ボタンの意味なんか知らなさそうな先輩を探し回った。


意外と適当な男子生徒はいなかった。


結局私が選んだのは、何をするにも面倒くさがりそうな、中学生なのに既に人生を捨てているような畑中という先輩だった。


三人でキャーキャーと喜び合いながら、その日のことは忘れるはずだった。


私たちは校門の前で卒業生を待った。


畑中先輩は、こんなときにもアホ面をして、そんなことで高校生になれるのかと心配にさせるほどだらしが無かった。


そんなアホ面の前で可愛い子ぶれた自分に驚いた。一刻も早くその場を立ち去りたかった。けれどその気持ちとは裏腹に、私はアホ面と握手をし、何故だか目からは涙まで流すという女優顔負けの演出までこなした。


どこで間違ったのか畑中先輩は今、私の隣で寝転んでテレビを見ている。大学生になった今も惰性で付き合っている。あの時と変らないアホ面で、屁をこきながら、ポテトチップスの油を付けた指で鼻をほじり、私の隣にいる。


自分自身が一番わからなかった。

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