青空

道半駒子

青空

 快晴の空の下、屋上で大きく伸びをする。温度と空気と風と。何一つ申し分なく、気持ちがいい。


 下ろした両手を、二人の手に掴まれた。

 その体温が僕をひどく落ち着かなくさせる。ため息を一つつき、この状態から逃れるために僕は口を開いた。

「……そろそろ戻らない? 予鈴鳴るし」

思ったより小さな声で、自分でも情けなくなる。

「何だって? アキ」

 左手が引かれ、視界いっぱいに顔がのぞく。にっ、と無邪気な笑顔は、篠原だ。

「戻ろうかって言ったの。お前耳悪すぎ。アキ、ほっといて行こうか」

 今度は右手の方。柔らかな笑顔に、意外と強い瞳を持つ、立花。

「お前は一言多いっての」

「うわ」

篠原に強く引っ張られ、歩き出そうとした足がもつれ、転んだ。

「あ、アキごめん!」

「馬鹿しのはら。何やってんだよ」


 この二人と過ごすようになって一ヶ月。どうしてこんなことになったのか、未だにわからない。

 朝の登校も、昼ご飯も一緒。学校が終われば一緒に帰ることとなる。

 ……そして、必ず手をつなぐのだ。二人とも楽しそうに笑って。


 僕は二人のおもちゃなのかもしれない。


 なんだ、突然僕の日常に入ってきて。

 お陰で朝は三十分も早く起きなくてはいけなくなって、昼は学食派だったのに弁当を買うはめになって、クラスメイトからは半分笑いながら同情される始末だ。女子からもよく話しかけられるようになった……のはまあ、不満ではないけれど。

 とにかく、めまぐるしいことこの上ない。


 二つの手を振り払い、ごろりと仰向けになる。青い青い空は、訳のわからないこの高鳴る鼓動を鎮めてくれる……はずだ。


「よっと」

 黙って空を見上げる僕をどう思ったのか、篠原が隣に寝転んで、唐突に僕の身体に腕を回す。

「な、」

すると反対側の立花も無言で同じように寝転んで僕を抱きしめる。ちょうど二人に挟まれる形になって身動きが取れなくなった。

「何してんだよ二人とも」

「え、サボりかなって」

「眠くなったのか」

離せ、と言おうとしたけれど、二人の表情を見て諦めた。どちらもなんとも楽しそうに目を輝かせていたからだ。面白がって僕の頭を撫で、篠原は足まで絡ませてくる。


 何なんだよ、まったく。

 これでは高鳴る鼓動に拍車がかかるばかりだ。こんな風に簡単に抱きしめたり触ったり……本当にモノ扱いだ。


「……本当にもう勘弁してよ……俺何かした?」

熱くなる頬を感じながら、思わずもれる言葉。


「いや、俺がアキを好きなだけ」

「うん、アキは俺を惚れさせた」

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青空 道半駒子 @comma05

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