【テスターリンク – Tester Rink世界に二つだけの花 —】

セオミズノ

第1話■RINK_001_クライマックス□

◇USA_New York◆

REタイム・・・2020/7/18 AM2:22


ここは世界有数の観光地、「タイムズスクエア」。

深夜のニューヨークは、酔っ払いやハメを外す観光客でごった返している。

だが今夜は閑散(かんさん)と静まりかえり 大通りには人 一人いない・・・


何十台も設置されている広告のネオンや大型ビジョンは鳴りを潜め、

普段は誰も気づかない、幾つかの街灯が灯っている・・・


-コツ・・・コツ・・・コツ・・・-

向かい合うビルが反響しエコーがかった 2つの足音が静かに響く。


-コツン- -コツン-


2つの足音は同じタイミングで消え 再び静まりかえるタイムズスクエア・・・。

そこには、ひっそりと灯る街灯の下に佇(たたず)む 少年と少女。


少年の右手には<M16>アサルトライフル・・・。

少女の右手には名刀<正宗>・・・・・・。


少年は自分の頬についた 他人の血を手の甲で拭き、

少年は真横に立つ少女を見つめる・・・。


「アオイさん・・・今も死にたいですか?」


少女アオイは少しうつむき、自分の体を見つめる・・・。


アオイの体をまとうのは、

まるで特殊部隊やSWATなどが着用するような戦闘服と装備品。

そして全身を覆う(おおう)のは 伸縮性のある全身黒のボディースーツ。


アオイは生きているのを確かめるように、胸元を触り・・・


「ジンギ君・・・ごめん・・・わからない」


少年ジンギも同じく自分が着用する黒のボディースーツを見つめる

「・・・わからない・・・か」


ジンギはうつむきながら 無理やり作り笑いを浮かべる。

ジンギのその表情を見つめるアオイは


「ごめんね・・・微妙な事言って」


ジンギはアオイに気を使わせないように食い気味に答える

「いや いいんです!」


「確かに1年前の僕には どうする事も出来なかった」

「でも・・・」


ミシ・・・ミシ・・・

手に装着するグローブをゆっくり握りしめる音が・・・小さく響く。

ジンギは自分を見つめるアオイの目に視線を移し。


「アオイさんは今も生きてる それだけで十分・・・」

「その事実だけが 僕にとっての生き甲斐です!」


アオイはその言葉を聞いて 口元が少し微笑む。

アオイの微笑みを ジンギは物欲しそうな表情で見つめる。

「・・・」

アオイはジンギのその表情には見向きもせず、

閑散とするタイムズスクエアを 警戒するように右・・・左・・・とゆっくりと見渡す。


「ジンギ君・・・」

「この世界が事実になってしまった この状況下で・・・」

「私は確信したの・・・・・・」


-カシャン・・・-

アオイは右手に持つ名刀<正宗>を強く握りしめ。


「私は人に殺されるのは ものすごくイヤ・・・」

「だから自分の死に場所は 自分で選ぶ!」


その言葉を聞いたジンギは

アオイが強く握りしめる<正宗>を見つめる。


-ガシャ・・・-

ジンギも手に持つ<M16>アサルトライフルを強く握りしめる。


「僕はアオイさんを死なせない・・・」

「僕はアオイさんには幸せになってほしい・・・」

「その為なら・・・僕は」


ジンギは<M16>の引鉄(ひきがね)に右手の人差し指を当て・・・


「自分のHPを使い切る!」


アオイはジンギの真剣なガチな表情をまじまじを見つめる

そしてアオイは思わず「ぷ・・・」っと吹き出してしまう。


吹き出したアオイの表情を不思議そうに見つめるジンギ

「・・・」

そのジンギの表情に アオイは再び笑いがこみ上げてくる


「ジンギ君・・・」


「私に告ってる?」


ジンギは顔を赤らめ 必死に否定する

「ええ!?」


「違います!ぼっ僕が言いたいのは」

「アオイさんは僕にとって生きる希望なんです!」

「ゆっ」


「夢にもアオイさんが出てくるくらい 大切にっ」


「!」

ジンギは突如真顔になった アオイの冷たい視線を感じる


「は?」「私が夢に出てくる?」


言葉に詰まるジンギ

「あ・・・」「えっあっ えっと・・・」


アオイは軽蔑するような目で ジンギを下から上へとゆっくりと見渡し・・・


「あいかわず キモい」


ジンギは呆然とした表情を浮かべ

「はっ・・・」「すいません」


二人の間に気まずい空気が流れる・・・。

ジンギは気まずい空気たられず、痒(かゆ)くも無いこめかみをカリカリとかく・・・


うつむくジンギの視線に、アオイの影が動くのが見える。

影が動くと同時に、アオイの黒のロングヘアーからアオイの香りがジンギの鼻をよぎる。


シャンプーでもリンスでもない、アオイの香り・・・。

その匂いに本能が反応し、思わずアオイに視線を送るジンギ。

そこにはジンギに背を向けるアオイの後ろ姿・・・。


「ほんと・・ジンギ君って・・・キモい」

「ほんとキモい・・・」


後ろを振り向くアオイはジンギに視線を送る。

再びジンギの鼻に アオイの香りが届く・・・。

そして、アオイはニコっと優しく微笑みかけ・・・


「だけど・・・」

「プレイヤーのジンギ君は魅力的かも?」


ジンギはアオイの微笑みを見つめた瞬間・・・瞳孔が開いてしまう。

そして口角が上がったアオイの頬にうっすらと浮かぶ・・・エクボ。

エクボがジンギの心の理性を崩壊し、心の中で叫ぶ・・・。


「やっぱ かわいい!!」


・・・。


だが、1ミリも余韻を残す事なく アオイはすぐにいつもの真顔に戻る。


「でも誤解しないで・・・」

「魅力的なのは プレイヤーのジンギ君(・・・・・・・)だから!」


まだアオイの微笑みの残像が残るジンギは・・・かすれた声で。


「は・・・はい」


その時、

ピピッ ザザ!


乾いた音がタイムズスクエアに響く

-!?-


ジンギとアオイが装着するインカムの受信音。

ジンギは受信音が鳴り止むと同時に 右耳のワイヤレスイヤフォンを抑える。


-バババババババッ!-

インカムの向こうから 激しい銃声が鳴り響く。


銃声を聞いたジンギとアオイは思わず 表情を歪(ゆが)める。

銃声が鳴り響くインカムから 銃声を割(さ)くほどの太くでかい声が聞こえる。


「ダメだ!CF兵が多すぎる!」

「このままじゃ エリア13は占領される!」

「俺も地上クルーと合流するぞ!」


ジンギは必死に叫ぶ

「ビッドさん!ダメです!僕の指示に従って!」


ビッドとは・・・ジンギとアオイと同(どう)クルーのスナイパー。

ジンギはアオイに見とれている場合じゃないと我に返る。

なぜなら・・・ほんの1時間程前にジンギ達は・・・


敵軍WCF!

世界征服軍との最終決戦へと 突入した!


「地上戦は僕達 GC(グラウンドクルー)に任せてください!」

「・・・」


無線に1秒程度の間が空く、ビッドからの返答はない。


「ビットさん!仲間を信じてください!」


-バババババ-

再び銃声が無線に響く。ジンギは呼びかける。

「ビッドさん!?」


-ザザッ-

「わかった!H(ヘッドショット)は狙わなねぇ!」

「腕!足!奴らの稼働を止めて 殺(とどめ)めはGCの奴らに任せる!」

「・・・」

「ぼっちゃんとお嬢ちゃんを信じてやる!」


ほっとする表情を浮かべるジンギとアオイ・・・。

ジンギ達の作戦にはビッドが必要不可欠!。


-ザザッ-

「だが時間はねぇぞ!」

「俺たち全員のリミットは後2日だ・・・」


ジンギはビッドの言葉を聞いて、アオイに視線を送る。

「はい・・・わかってます!


「僕達は全員」


「45時間後に死にます!」


ジンギはゆっくりと・・・視線を

アメリカ同時多発テロ9.11の跡地・・・

グランドゼロにそびえ立つ フリーダムタワーに目を向ける。


アオイもジンギに視線を移し、そしてジンギの背景に映る摩天楼・・・

フリーダムタワーを見上げる。


「ジンギ君 もう後には引けないわ」


-コツ・・・-

ジンギは自分の背後に立つアオイに、殺意に満ちた 死んだ魚の眼に似た

冷たい視線を送る。


「最初から僕は引く気なんてない・・・」


-ザ・・・-

アオイは無意識に一歩後ろに下がってしまうほどの

鋭い眼光・・・。


ジンギは右腕に装着する小型のスマートフォンタイプの電子端末に目を向ける・・・。

そこには「RE TIME:00:44:59:09」。

無機質な電子数字が時をカウントしている。


アオイも同じく端末を見つめる・・・。

「残り45時間・・・後2日しかないわ」


小さく頷くジンギ

「これが僕達に残された時間です」


RE TIMEが0(ゼロ)になると・・・

僕達テスターは全員死ぬ。


ジンギとアオイはアイコンコンタクト、視線を合わせ同時に

「僕は」「私は」


「必ずCEOを殺す!」


RF.war(リアルフィールド ドットウォー)を生き抜き

僕達は必ずリアル世界に帰還する!


生きるか死ぬか・・・淡白なたった二つだけの思考が

最優先される世界・・・。


今この瞬間を生きているこの仮想空間は

「RE TIME 8759時間前に始まった」


-ピピッ。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◻︎

 

◆A.D 2017/7/21◇


◇Japan_Tokyo◆

TIME:AM6:51


1300万人以上が住む大都会とは思えないほど静かな朝・・・。

ベッドタウンとして有名な閑静(かんせい)な住宅地に、僕の家はある。

中流家庭が住むごく普通の2階建の一軒家。

父親が35年のローンを組み10年前に購入した。

父親は電子機器メーカーのサラリーマン。

母親は専業主婦。

僕は一人っ子で時代のニーズに がっちりハマった一般家庭だ。


僕の部屋は2階の角部屋、両親の寝室は1階。


-ポーポーポッポー・・・-

部屋のベランダからハトの鳴き声が聞こえる。


僕の部屋は普通だ、ベッドにテーブルに勉強机。

本棚には、普遍的な漫画とポピュラーな文庫本の小説。

だが、

6畳程の部屋には一つ違和感のある物が存在する・・・。


50インチの液晶テレビだ・・・。

僕は中学生の時からお年玉を貯めて、50インチの液晶テレビを買った。

一人っ子なので、お年玉は未成年にしてはそこそこの額をもらえる。


6畳の部屋には似ても似つかない大きなテレビ・・・。

そして、モデルガンとVR用のスコープ。

全ては・・・

戦場オンラインゲーム「リアルフィールド」の為に揃えた、

僕の大切な生きがいだ。


ベッドで眠るジンギの手元にはゲーム端末のコントローラー。

-ピクッ-

ジンギの人差し指が動く・・・。


パッと目を開けるジンギは

家電量販店で大量生産されている電子時計の時間を見る・・・。

<6:59:57>

<6:59:58>

<6:59:59>

<7:00:00>

0.3秒の間が空き

-ピピピピピピ-

部屋中にアラームの音が鳴り響く。


僕は必ずアラームがなる3秒前に目が覚める・・・完璧な体内時計だ。

たまに無意味な目覚まし時計を捨てようか迷う。

だが、それでは友達と言う人間が家に遊びに来た時に 普通じゃなくなる。

普通を演じる事をモットーとしている僕にとっては無意味な目覚まし時計も

普通を演じる上で重要なツールの一つだ。

ちなみに僕はたまにわざと遅刻をする・・・

普通の高校生は皆遅刻をするからだ。


ジンギはゆっくりと起き上がる

-ギギ・・・-

きしむベッドのバネ。

そして小学生の時から使っている黒のカーテンを窓面積の30%程開ける・・・。

黒にした理由は汚れが目立たなく、朝日を遮(さえぎ)るのに徹しているからだ。


-シャ・・・-

僕は差し込む朝日に目を背ける。

すぐに太陽の光に目が慣れた僕の視線には

いつものハトがベランダの手すりいる・・・。


見慣れたその光景に僕は見向きもせず

僕ははハンガーにかかっている制服と、

母親が洗濯したワイシャツと靴下を見つめる。

そして一言ポツリとつぶやく・・・。


「現実世界は・・・面倒くさい」


今日は 今学期最後の登校日だ。

今日も何も変わる事なく生きる・・・普通に・・・普通に。


だが、この普通に生きる今日が

僕の人生で一生体感する事のない・・・


「1年間の夏休み」の始まりだった・・・!。

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