静かな物語だ。人々の青ざめた表情が目に浮かびそうな、病んだ空気が流れている。そのあわいを白い蝶が飛ぶ。空気に抵抗してひらひらと上下して、視界をふと横切っていく。
これは蝶が繋いだ呪いの物語、とも言える。いなくなった存在に、縛られる兄弟の鎖。先祖から遺伝してきた「蝶吐き病」の形で、あるいは介護の末もたらされた変化によって、呪いはその輪郭を象られる。
疲れた男の語り口で聞かされる事のあらましは、まるで死人が語っているようで、それなのに、ひどく心を揺さぶってくる。
読み始めたら止まらなくなる。人知を超えた運命にも似たなにかに振り回されるながら、男は蝶と向き合う。抗う男から目が離せなくなる。そして彼が飛ぶ蝶を見つけるとき、不思議なことに、その言葉が急に息づいたように思えるはずだ。
この世のあわいを飛ぶ蝶に、僕は、生の諸相を見た気がした。
昔読んだホラー漫画を思い出しました。黒い蝶が舞っていると思ったら実は自分の血だったとかそんな話だったように思いますが、この話は本当に蝶(の形の皮膚)が出てきます。
蝶は寝るとき葉っぱの裏で休んでいると聞きますが、さしずめ声帯が葉っぱなのでしょうか。話を読んでいるとそれも違う気がしますが。
まあそれはともかく、私は個人的にこういう兄弟関係がとても好きです。依存とは少し違うような気もしますし説明しろって言われたら表現力が音を上げるので無理ですが、読んでもらえたら同類の方には共感していただけると思います。読んでください。食い気味に言います。読んでください。