あらゆる文章
猿の退化系
カス
近頃の研究により我々の星に残された物資だけではもう直ぐ深刻な食糧難が訪れ、この星の住人全員が不自由なく生活できなくなるということがわかってきた。
ただ、このような事態は今に始まったわけではない。私たちは何年かに一度の周期でこのような食料不足に襲われる。幸い我々は宇宙でも類を見ないほど小型なので、他の星から少しばかり食料を調達するだけで数万年もの期間を生き延びることができる。
今回我々が食料調達の目標に選んだ星であるこの『地球』も、そして『地球』で最も普及している人間という生物も、我々の星とは比べ物にならないほど大きいため、私たちが生きていくのに必要な分だけを頂戴したところで彼らは特に何も思わないだろう。また『地球』は大気中の酸素濃度が我々の星のそれと極めて近いため潜伏にも都合が良かった。
私たちが他の星に潜入する際は、皆で合体してその星で最も流通している無機物の形を模倣することにしている。そうすればその星の生物にバレない上にあらゆる地域を観察することが出来るからだ。
調査によると、この星では『
一人の人間を見つけたので空から眺めているとたくさんの『金』が入った袋のようなものを取り出した。どうやら人間達は皆そこに『金』を集めて持ち運んでいるらしい。隙を見て私たちはその中に侵入した。
今日道を歩いているとタバコの吸い殻が落ちていた。道にゴミが落ちているのは良くないなと思ったので拾い上げ近くのゴミ箱に捨てた。するとまだ少しタバコの火が燃え残っていたのか、ゴミ箱の中の紙くずか何かに燃え移り、みるみるうちに炎は大きくなりやがてゴミ箱は灰になってしまった。
どうしたものかと立ち尽くしていると、ほんの数分前にはゴミ箱があった場所あたりに灰に埋もれてかすかに光るものを見つけた。ちょっとした興味からそれを拾い上げてみると、どうやらそれはコインのようだ。書かれている文字や記号から判断したところ少なくとも僕の知っている国のものではなさそうだった。
拾ったはいいが一体どうしたものか。交番に届けるべきか。しかしここから近くの交番まで行くには、家と反対の方向に30分以上かけて歩く必要がある。交番でも色々質問をされることなど考えると少々面倒だ。かといって捨ててしまうのももったいない気がする。なので僕は多少の罪悪感を抱えながらもその謎のコインをポケットに入れて家まで持ち帰ることにした。
家に向かってしばらく歩いた時ポケットに小さな穴が空いており、さらにその穴から崩れたコインのカスがこぼれ落ちていることに気づいた。どうやらコインは意外と脆く、ここに来るまでの間に少しだけ金色の粉となって地面に落ちてしまっていたようだ。僕はコインを大事に両手で持ち、急いで家へと走った。その間にもぽろぽろとコインは崩れていき家に着く頃には見つけた時の半分弱くらいの大きさになっていた。
僕はとりあえずかつてコインであった欠片を丁寧にポリ袋に密閉し保存した。
あとはいつも通り飯を食い風呂に入って眠った。
夜中、家の前に落ちていたコインのカスのうちの一つが一度だけピクりと動いた。
あらゆる文章 猿の退化系 @horkio118
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