新しい大地

 下界を飛び回っていた艦長だが、ちょうどその時間は船に戻っていたようだった。翔馬は事態を把握するため、F-70へ乗り込み、外へ出て見ると仰天した。日本船の何倍もある宇宙船が馬乗りになり、三本のロボットの指のようなものでしっかりと固定され、日本船が宙に浮いているではないか!


 キッズルームへ戻る。大画面のモニターに、ほぼ人間と思われる宇宙人が写し出されている。


「惑星αからの救難信号がこちらに届くのに、一週間もかかってしまった。空間変位し、救助をする。まず私の名は天の川銀河パトロール隊のホーミックという。急ぎ他の船も捕まえて、裁判をここエンクレットで執り行う」


 最初に空間変位機から運転室へ上がってきたのはフランス船の艦長だった。二人の異星人に手錠をかけられ、うなだれてキッズルームの端に立たされる。次は我が日本船の艦長である。あれほど頑張っていたのが腑抜けのように成り果てている。ドイツ、イギリスと続いてアメリカが捕まりそうなものだが、どうやら逃亡しているようで、捜査は手間取っているらしい。その間にもF-70を駆り、敵戦闘機らを壊滅に追い込んだアメリカ、フランス、ドイツの各パイロットが捕まっていく。雪菜が泣き出す。翔馬は自ら手を挙げこれから行われるであろう軍事裁判に身を委ねる。


 画面が切り替わると捜査用スカイ・ビーグルに追いかけられている一人の男が写し出される。暗闇の中スポットライトをあび、逃げ回っている姿は間違う事なき、アメリカ船の艦長である。


 暫く追いかけあいが続くと、原住民に姿を目撃され、山狩りにあう。最後はすきやくわなどの武器を持った十数人の原住民に包囲され行き場を失う。武器で激しく殴打された後、ライフルの音がする。右手を差し出し、虚空を掴む。どたりという音とともに、永遠の別れとなってしまった。


 モニターを見ている者は皆息を飲む。


 尋問はパイロットからである。F-70という銀河の中でもトップクラスの戦闘機を操り大量の原住民を殺戮した罪を問われている。


 先ずはアメリカ機のパイロットが矢面に立つ。

「戦争とは、日常を越えた特殊な場面の連続である。殺し殺され任務を全うしていく。現にこちらもイギリス機が打ち落とされてしまった。ルールは平等のパワーゲームだ。私達が悪なら、強い戦闘機の開発を怠った敵国の設計者どもも、罪に問われて然るべきではないのか?」


 ホーミックがメモの様なものを書き留めていく。


 次はドイツ機のパイロットである。

「我々は一切戦争犯罪を犯してはいない。我々が犯罪者なら、そこらの肉食動物全てが犯罪者となろう」

 アメリカ機のパイロットが言いたい事を全て言ってくれたので、皮肉混じりのジョークをひとこと言って終わりである。


 次、フランス機、もう泣き出している。先程のアメリカ船の艦長の死を見て相当ショックだったらしい。

「敵はもう百年以上も国家間戦争をやってなかったというではないか!そのため新兵器の開発が大幅に遅れ、カーバインの存在すら知らなかったのではないか。大量殺戮と言ってはいるが、その責任は平和ボケし、兵器の開発を怠った時々の大統領にこそ有るのではないか!」


 最後に翔馬である。

「こうなった以上はしかたがない。判断はそちらに委ねる。ただひとこと言わせてくれ。戦ったのは俺たち四人だけだ。それ以上の者の罪を問うのは野暮な詮索だってね」

 聴衆から拍手が沸き上がる。


 エンクレットの大統領が姿を見せた。くちばしの端をにやけさせながら、こちらを侮蔑するような表情で見下している。土壇場で勝利したのだ。戦争で負けても、銀河パトロール隊の存在を知っていた情報戦で勝ったのだ。これほど痛快なことはない。


 ホーミックがまたメモをとる。主に戦争犯罪を犯しているかどうかのチェックであろう。



 次に各母船の艦長達の尋問である。その国の王を目指した男達の成れの果てである。

「とーちゃん、頑張れー!」

 二人の幼い兄弟が、日本船の艦長を応援している。その言葉を聞いて艦長も気力を振り絞る。


 イギリス船の艦長から尋問は始まる。

 エンクレットの軍人が質問する。

「こちらの惑星の情報はどこで得たのです?」

「まだ地球にいた頃からだ。知的生命体の存在も把握していた。しかしこちらにはF-70というモンスターがあった。それで戦争を前提に船を設計し、核戦争が始まったのを合図に五カ国の船は旅立ったのだ。しかしこちらは核装備はしていない。さらに化学兵器や生物兵器なども所持していなく、戦争犯罪を犯した意識はさらさらない。あくまで通常兵力だけで戦闘をしている。その技術に百年以上の差があっただけだ」

「この銀河パトロール隊のような存在を知らなかったのですか」

「全く想定していなかった。甘く見積もっていた」

「他国…あえて他国と言いましょう。他国を攻撃すればそのしっぺ返しは必ずくると、歴史から教訓は何も学んでいなかったのですか」

「F-70を開発してからこれまでの歴史の螺旋から抜け出したように感じた。現にパトロール隊がくるまでは想定通りに事が運んでいたのだからな」

「質問を終わります」


「次、日本船の艦長」

 艦長の顔からは完全に血の気が引いている。やっと立っている状態のようだ。

「私はどこで間違ったのか…おそらく征服可能な惑星を見つけた時点から過ちを犯していたのかもしれません。事ここに至っては覚悟を決め、判決を静かに待ちたいと思います」


次はドイツ船の艦長だ。ホーミックが質問する。

「分割統治案を打ち出したのは誰でしょう?」

「もうこの世からおさらばしたアメリカ船の艦長だよ」

「皆、乗り気だったと聞き及んでいますが?」

「まあね。あくまで善政を敷こうと思ってたんだがね、俺は」


最後は肥ったフランス船の艦長だ。同じくホーミックが尋ねる。

「陸軍の戦車を全て潰した時にはどう思いましたか?」

「単に任務完了と思っただけだ」

「これで征服出来ると喜んだのでは?」

「まだ分割統治案が出される前の話しだ。事務的に処理しただけだ」


ここまでで、各船の艦長への質問は終わりとなった。


 ホーミックが冷静に語り始める。

「ここまでの話をまとめますと、戦争犯罪を犯した者は誰もいないようです。また地球が人口爆発で核戦争まで秒読みだということも我々は把握していました。適切なアドバイスを地球側にしてあげられなかったのは、こちらの落ち度でしょう。しかし、事態がこうももつれ込むと、共存共栄はありえない」


 ホーミックはメモをしていた紙の束をトントンと揃え、判決を言い渡す。

「主文、被告人らとその仲間たちおよそ五万人をβ星へ移住させる。食料の生産が全員に届くまでには二年はかかると思うので、各国の船はそのまま使用してもいいこととする。またどこをどの国が受け持つかについては混乱が生じる事と思うので、それについてはこちらが責任を持って対処、指導していく」


 判決が下された。日本船他、全ての国の船が、空間変位し、β星へ到着する。大陸は東の大陸と西の大陸が有る。日本船は迷わず一番東に陣どる。日いずる国だからだ。隣はドイツに決まった。力を合わせてまた工業力で凌ぎを削らなければなるまい。


 翔馬と雪菜、それに達彦はタラップの上に立つ。そして新しい大地に足を一歩踏み出した。



 完

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遥かなる旅路 村岡真介 @gacelous

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