第5話 草薙の名を継ぎし者

 野良魔族の襲来で混乱を来たしていたはずの宗家管轄総合病院。だが退避を進めていた医師や患者が立ち止まり、同じ目標を目で追っていた。その者達の表情にもう恐れなど微塵も感じられない。


「はっ・・っ!やあああっっ・・!」


 今眼前まで迫っていたはずの恐ろしき存在が次々と宙を舞い、業火の中浄化されていく。 ――あたかも炎の軍神が舞い降りたかの如く――しかしそれは紛れもなく少女、炎の破壊神を纏い悪鬼を屠る、草薙宗家裏門当主となった草薙桜花と言う小さな少女であった。


「・・・・負けるな・・・、頑張れっ・・!」

「行け!そこだ!・・草薙の力思い知らせてやれっっ!」


 我らを守りし小さな軍神を、いつしか皆は声を上げ鼓舞し始めた。その声を受け更に攻撃の勢いを増す少女。その背丈長に変化した炎に煌く霊導器【アメノムラクモ】。舞い躍るその姿は言うなれば剣の舞――美しさを覚える程である。


 「これは・・・いったい・・・!?」


 騒ぎの中、完全に出遅れた宗家援軍の戦闘部隊は、目の当たりにした光景に息を呑む。


 ――これが、あの少女の真の実力かと――


「ぐぎゃあおおおーー!!」


 と、残された三体の野良魔族が体勢を整え同時に襲い掛かろうと踏み込んだ。――刹那舞い躍る剣が音も無く鞘に納められた。その直後その場にいる全ての物を飲み込む膨大な霊力が【アメノムラクモ】に注がれる。


 襲い来る魔族を前に激しい動の動きから、一転静の構え――居合いの体勢を整える少女桜花。・・・・・そして・・・・・。


「草薙流閃舞闘術・・・・。霊式――討滅奥義――ヒノカグツチィィィーー!!!」


ズドオォォォォーーーー!!!




 巻き上がる粉塵、多くの者が見守る中――草薙宗家、裏門当主の少女は抜き放った【アメノムラクモ】を胸前で静かに納めた。討滅完了を知らせるの如く。

 キンッ・・と響く納刀の音。その瞬間歓声が沸き起こる。魔装撫子となり、同時に草薙の当主となった少女を包む賛美。と、桜花の足が力なく崩れ落ち歓声が一瞬途絶えた。


 神霊の霊力が一時的に途切れ、補完された神経パルスが途絶えたのだろう。だが勇ましき小さな少女は、崩れ落ちる前に親愛なる叔父の腕に優しく抱きとめられた。


「お疲れ様・・・。本当によくやったな・・。」


 緊張の糸が途切れたのか、返事も返せぬまま一時の眠りに落ちる少女桜花。

 しかしその表情はとても晴れやかな笑顔であった――



                   *



 穏やかな陽気の中、私はまだ車椅子で病院通いです。でも、体が焼ける様に苦しい事はもうありません。きょうは叔父様の所へ御用があって、電車を乗り継ぎお出かけです。


「うわああぁなんだっ・・これ!」


 あれからカグツチ君は、私と魔導器の霊力制御で低位の人間レベルまで力のコントロールが出来る様になりました。なので、一緒にお出かけと思ったのですが・・・。


「桜花・・あれはなんだ・・・!いや、私は神霊!驚いてなどいないからな!?少しあれが気になってだな・・・!」


 予想以上にお登りさんで困ってます(汗)・・・。


「カグツチく~ん・・落ち着いて~(汗)・・。」


 そんなこんなで目的地へ到着です。さあ、叔父様は私のわがままを認めてくれるでしょうか?ちょっと心配です・・・。


 「・・・おいっ桜花!・・・・あれはっ、いやまてそっちは・・・!?」


 カグツチ君こっちも心配です・・・(涙)




 連日の騒動、当主継承の儀より魔族襲来と桜花の覚醒。一度に事が起こり過ぎてさすがの文官系当主も事後処理に憂鬱になっていた。

 何よりも問題であったのは、宗家戦闘部隊の到着が間に合わず襲撃を受けた事実。対魔族討滅機関としてあるまじき失態だった。しかし、桜花の当主覚醒が間に合った事で、最悪の被害は免れ、一部のお堅い幹部に対する軽度の処罰に留める事が出来た。(魔族襲撃に焦り、指示系統を乱した事が原因との報告である)まさに新裏門当主様々と言える。


 そして、その可愛らしい新裏門当主様がなんでも用事があると言う。自分で外出し、ここ草薙宗家の拠点施設へ向かっている。そこで文官系当主炎羅も、そうそうに事務処理を済ませて、待合室へと足を運んだ。


「あっ・・、叔父様・・ご無沙汰です!」


 可愛らしい当主桜花は待ちくたびれた叔父の入室に胸を躍らせた。


「いらっしゃい。どうだい、あれ以来体の調子は問題ないかい?」

「はい!とっても順調です!」

「それにヒノカグツチ殿も・・・」


と、炎羅が変にかしこまろうとすると、流石にくすぐったかったのか神霊の少年が制す。


「待てっ・・・、私は桜花を主と認めた。・・それは人と同等になったと言う事だ。故に桜花と同等の扱いで構わぬ。」

「そうか、ではこれからカグツチと呼称しよう。よろしくたのむ。」


 相手の意思を汲み、素早く柔軟に対応、その上如何なる相手にも敬意を表するこの男。かの破壊神も一目置いていた。


「それで桜花の頼み・・、いやわがままだったか?・・用件はなんだい・・?」


 少女は少し顔を引き締め、たっての願いであるとの想いを込める。


「あの・・・私、ずっとでなくても構わないから・・・、あの・・・学校に行ってみたい・・!」


 思わぬ言葉に流石の炎羅も疑問が沸いた。いささか唐突すぎるその願いに。


「・・何か理由があるんだな・・。」

「うん、病院で宗家の人にお話を聞いたの。師導学園て言う学校の事。」


  【師導学園し どうがくえん】三神守護宗家出資のお嬢様学校。一環教育制度でお金持ちのお嬢様学校と世間で知られる。だがそこは、魔族に何らかの形で関わった子供たちを保護・教育する事を目的とし、その面は公には知らされていない事案である。

 だが、少女の言葉に炎羅は悟っていた。その話を聞かせたであろう人物の事を。


「・・守りたい子がいるの・・・。今はとても穏やかに暮らせているけれど、きっとこの先苦難に巻き込まれるから・・。」


守りたい子――その人物もすでに炎羅には見当がついている。だが少女の、裏門当主となった草薙の名を継ぐ者が、自ら出す言葉に耳を傾け、そして最後に問うた。


「その子の名前は?」


 裏門当主桜花は、決意と共にその守りたい者の名を告げた――


八汰薙・・若菜やたなぎ わかな・・。」



                    *



 宗家の問題もひと段落したある日、自ら【師導学園し どうがくえん】へ行くと告げた少女は編入手続きを済ませ、学園へ通う事となった。

 お嬢様学校故お登りさんである――もとい男性容姿のカグツチには、普段は表に出ぬ様と釘を刺し同行させている。


 彼女を見送った表門当主炎羅は胸中で呟いた。

 遠く36万キロ離れた義弟おとうととそのパートナーへ届く様に


「界吏、シエラ・・・。君たちの愛娘は自らで道を選び進み始めたぞ・・。そう、君たちと同じ掛け替えのない者を守る道を・・・。」





 地球に壊滅的な被害を与えた人造魔生命災害【バイオデビルハザード】――

 その後、地球は災害復興もままならぬまま宇宙そらに住まう宇宙人そらびとを巻き込む宇宙大戦への道を進む。【ロスト・エイジ・テクノロジーL・E・T】をこれ以上血の抗争に使わせぬためと、二人の悲劇の英雄が自ら敵となる事で地球を一つにし、やがて彼らは人類への反逆罪によって太陽系外へ追放された。


 ――そして地球にはその二人の居た証となる少女が取り残された・・・。

          その少女の名は【アイシャ・エラ・アーレッド】

                もう一つの名を八汰薙若菜やたなぎ わかなと言う――

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魔法少女戦録ブレイズ 討滅の桜花 鋼鉄の羽蛍 @3869927

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