貯金箱
龍宮真一
貯金箱
大学時代、僕は1人暮らしをしていた。
実家から離れ、初めての1人暮らし。
掃除と洗濯が大変だと思い知らされた4年間だった。
僕は大学でTRPGサークルに入りたかったが、出来て3年目の大学には、思っていたサークルは無かった。
それでも諦めきれなかった僕は、結局そのサークルを自分で立ち上げることにした。
応募用のポスターを描いて、コピーして掲示板に張り、4月が終わる頃には自分を含めた8人のサークルになっていた。
大学の講義が終われば、自然と自分の部屋に集まってTRPGをすることが多かった。
TRPGというのは、テーブルトークロールプレイングゲームの略称だ。
マスターと呼ばれるストーリーテラーが1人。
そして複数人のプレイヤーが必要だ。
ストーリーテラーはプレイヤーたちが活躍する世界を用意し、プレイヤーはその世界に住むキャラクターに扮して物語にかかわっていく。
ゲーム中はみんなが1つの世界観を共有して、その世界の住民になったつもりで話を進めていく。そうやって1つのシナリオを複数人で進めていくことで、思いもよらないような話になっていくことも多い。
僕はそれが楽しくて、かなりの数のお話を経験していく中で、いつのまにか小説を書くようになっていった。
話を戻そう。
僕の部屋に集まってゲームをするといっても、毎日全員が参加したわけじゃない。
でも、深夜まで楽しんで翌朝みんなが自分の部屋から大学に行くことも少なくなかった。
そんな自分の部屋には、ひとつの貯金箱があった。
見た目は、虎のぬいぐるみ。
背中からコインを入れるやつだ。
それから、コインを入れる時に、ガオ~って鳴くんだ。
2年目くらいからだったろうか。
変化があった。
ゲーム中、マスターの問いかけに、プレイヤー全員が返答に困っていた時。
『がお~。がお~。がお~』
虎の貯金箱が鳴いた。
全員が顔を見合わせて、それから、笑った。
「返事したぞw」
「おいおいおいおい、ヤバい感じなんちゃうの!w』
「これは、居るぞ!w」
「コイン入れる時しか鳴かないはずなんやけどなぁ…」
初めはそんな感じで、笑い話になっていた。
でも、それから頻繁に、虎の貯金箱は鳴くようになった。
ある時、メンバーの終電が無くなってからゲームが終了した日。
残ったメンバーはみんな、僕の部屋で雑魚寝をしていた。
深夜だった。
突然、虎の貯金箱が鳴きだした。
メンバーの一人が、うるさいなぁと言いたげにのっそりと立ち上がり、虎の貯金箱を棚の中に片づけたのだ。
そしたら。
そこからはもう、ふざけるな!とでも言いたげに、鳴くわ鳴くわ、ぜんぜん鳴き止まずに逆にうるさいくらいになってしまった。
しょうがないなぁ。と言う感じでまたそのメンバーが棚から出すと、ピタッと鳴き止んだ。
その日から、メンバー全員が、その虎の貯金箱に霊が憑りついてるという意味の分からない確信めいたものを持つようになった。
その後は、僕が卒業するちょっと前まで、虎の貯金箱は元気に(?)鳴き続けてました。
最後は電池の入れる場所が壊れてしまって、鳴かなくなってしまったんですけどね。
貯金箱 龍宮真一 @Ryuuguu
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