第8話

今日はヤツが来る日。家を綺麗にしなくちゃ。でも、あまり汚くしていない気がする。でも、キッチンだけは綺麗にしておこう。私は、キッチンにこだわりがある。なんでかはまだ分からないけど、何故かキッチンだけは、誰にも使わせたくない。私のもう一つの部屋みたいなもの。いつもご飯は自分で作っている。ご飯を作るより、お菓子を作ってる方が多いと思う。読書やスケッチの時のために作る。後は、ヤツが来る時があるから、その時のお茶と一緒に出すぐらいかな。もうすぐヤツが到着するはず。お湯を沸かしてコップを2つ出す。今日はカモミールティーにしよう。お皿も出して昨日焼いたクッキーを盛る。お湯が湧いたからティーポットにいれて、待つ。今は夏だから、アイスにしよう。コップを冷やす。待っている間に読みかけの本を読む。読書のお供にヤツに出すクッキーとは違う味のクッキー。それと、元々作っていたお気に入りの紅茶をコップに継ぐ。クッキーを齧りながら、紅茶を啜る。素敵な時間。気が付くと紅茶もコップもいい具合で、慌ててコップに紅茶を継ぐ。準備は完了。ヤツ、まだかな?待つの嫌なんだけどな。いい加減待つのが飽きて来た頃、

「ゴンゴンゴン」

ドアノッカーの音がした。急いでドアを開ける。目の前には、暑い中歩いてきたため、少しだけ汗をかいたヤツがいた。急いで中に入れる。

「どうぞ、座って」

「ん」

ヤツが私の席じゃない方に座った事を確認して、キッチンから紅茶とクッキーを取りに行く。テーブルに運んで、ティータイムの始まり。

「病院行こ」

「ん。次はちゃんと病室に入れよ」

「うん。今日は入れる気がする。後、帰りに本屋さん行きたい」

「いいけど」

「今日はいつ帰るの?」

「いつでもいいと思う。家帰っても誰もいないから」

「ふーん。なら好きな部屋使っていいよ」

「じゃあ、行くか」

コップとお皿を片付けて、家を出る。日差しが強い。溶けそうだ。森を抜け電車に乗る。久しぶりに見る電車の車窓からの景色は、夏らしくなっていた。緑と青色か綺麗に映えている。この景色を絵に写したいな。病院の最寄り駅で降り、病院行きのバスに乗る。よし、ここまでは順調。この勢いで、病室まで行くぞ。そう言えば、森の中でヤツが私を見ていたことを思い出す。多分その時私考え事してたと思う。“過去の私になにか言えたなら”って。

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