霊異見聞録

日徒

第11話 幽(友)人


私の友人に缶ジュースをよく買うやつがいる。


持ち運ぶのもペットボトルの方が便利だし飲みきらなくても蓋が出来る。


缶ジュースでは開けたら飲みきらなくはいけない。


まったく変な友人である。


私がまだ高校生の時の話。


携帯の代金や本の購入代金欲しさにコンビニでバイトをしていた。


学校が終わり夕方5時から9時がバイトの時間である。


私のバイト先は二人体制が基本で一人はレジと品出し、発注、もう一人は混んだ時にレジと雑誌返品、床掃除、ドリンク補充という感じで仕事を分けてしている。


私は雑誌返品のアダルトなコーナーが苦手だったので一緒に仕事に入る方が気を遣って、いつも雑誌返品を引き受けてくれていました。


その日も同じように品出しと発注をして、人が来たらレジに行く。


その繰返しでした。


8時を少し過ぎたくらいだったと思います。


レジに人が来たので「お待たせしました!」そう言い、商品のバーコードを打ち、金額を読みあげていく…「あ!」


そこには学校の友達である律子の姿が。


律子はにっこりと微笑むと「よっ!来ちゃった」そう言いました。


ほんの少しだけ他愛のない世間話。


「じゃあ、そろそろ行くね!」


そう言うと律子は店を出て行こうとしました。


何故だか分かりませんが凄く嫌な予感がしたのです。


律子の手を掴み「待って!」と呼び止めていました。


「何?ナニ?仕事中でしょ!サボるつもり?」


いつものように律子は笑っていました。


ただ何かが違うような…そんな不思議な感覚。


でも、その違和感を説明出来ませんでした。


「あ…そういえば、さっき買ったのお菓子ばっかだったでしょ?私からの奢り!」


そう言って缶ジュースを投げた。


律子が取り損ねて缶が凹んでしまったがジュースの美味しさは変わるまい。


「また明日、学校でね」


私が、そう言うと律子は何も言わずに手を振って帰っていきました。


「ねぇ…さっきの子、知り合い?」


ドリンク補充から戻った仕事の相棒が話を掛けてきた。


「学校の友達なんです…あれ…でも、バイト先を教えたかな?」


私が少し不思議がっていると…


「さっきの友達さ、足が…足が無かったよ」


そう言ったのです。


私は…呆然と立ち尽くしてしまいました。


仕事中にも関わらず律子にメールをしましたが返事は返って来ませんでした。


その後の仕事1時間はあまり覚えていません。


仕事が終わり携帯のワンセグテレビをつけると近場で大きな交通事故があったというニュースが…。


私は涙が止まりませんでした。


「律子…そうか…逢いに来てくれたんだ…」


あれは精一杯の強がり…そういう笑顔だったんだ。


私は友達なのに気づけなかった。


何もしてやれなかった。


それが悔しかった。


顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。




数日後


「よっ!来ちゃった」


私は病室のドアを開き、そう言った。


「もう少しさぁ…何かあるでしょー」


律子は笑顔で返した。


「とりあえずお見舞いにはフルーツ盛合せが定番かと殿!」


「うむ、献上品しかと受け取った」


「「はははっ」」


またこうやって二人で笑い合えた事が奇跡のようで…でも


それは必然だったのかも知れない。


病室に飾ってある凹んだ缶ジュースを見て私はそう思うのだ。


缶ジュースを見ていると律子が「その缶ジュースが私の命を救ったらしいよ…なかったら心臓に車の鉄片が刺さってただろうって…」


「へぇ…缶ジュースさまさまだね、足向けて寝れないじゃん」


「そうだねぇ…買った覚えはないんだけどね」


「神さまが救ってくれたんじゃない?まだ死ぬなーってね」


「そうかもね」


大事故だったのに奇跡的に重傷者は出なかった。


きっと神さまが救ってくれたのだろう。


律子は今も元気に生きている。


律儀にジュースを買う時はペットボトルではなく缶ジュースを買うのが癖だ。


まったく変な友人である。


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