夜明けはいらない。

神城 黎

第1話 そして僕は 空を飛ぶ。

夏――。




セミの不協和音で歌われる大合唱がウルサい。


しかし、空は 雲ひとつ無い 綺麗な青空で


海からくる 涼しい潮風は


僕にとっては 嫌味なほど 美しかった。


最期にこんな素敵な景色を見られて


僕は幸せ者じゃないか。



さあ――。


飛ぼう―――。



この誰も来ない海の端っこ。


崖は20メートルはあるだろうか。


今日 僕は僕でいることをやめる。


そう、僕は死ぬ。


こんな退屈な世界。


なんと表せば分かってもらえるだろうか。


猛暑の中コンクリートの上で 1日中


正座をさせられているのと 同じくらい。


要約すると ノイローゼになりそうな世界。




僕の人生はこの世に生まれた時から


くすんでいた。


人見知りが災いして


友達と呼べる友達もおらず


彼女なんてものはできたことすらない。


部活にも入ったことは無い。



そして1番僕をどん底に突き落としたのは


ここ最近の話。



まず 親の離婚。


更に、追い打ちをかけるように


バイト先の店が潰れた。




親の離婚後 僕は母親について行ったが


肉親である彼女ですら


こんな僕を嫌ったのか無視するようになった。




もう生きている理由などひとつもなかった。




この頃の世界はひたすらに退屈で



テレビのニュースでは


芸能人の誰かが不倫した


政治家の誰かが国民の税金を使って旅行した


交通事故でどっかの知らない人が亡くなった



というニュースだらけで


耳にたこができそうだった。



こんな話はどうでもいいことで



僕は 'そこ'から飛び降りている間


何も考えずゆっくり目を閉じた。


サヨウナラ。












しかし、その瞬間「何か」が僕の


着ていた ワイシャツの襟元をつかんだ。


僕はびっくりして


生まれて初めてくらいの大声で


「え?」と呟く。



閉じていた目を開け、


人の気配がある方に目をやると



「こんなとこで死なないでくれる? グズ男!」


僕を優しく包み込む雲のそばに


立っていた女の子が


僕に強く言い放った。


「僕は死ねなかったのか。」


僕は意外と冷静に女の子に質問した。



この女の子は手入れが大変そうな


長い 栗色の髪の毛を 二つに結び


いかにも気が強いと思われるような


綺麗な顔立ちの子だった。



その女の子は 体のサイズにぴったりな


小さい手の 細くて白い指で


こちらを指して


「そうよ。グズ男のあなたは、この世界とはおさらばできなかったってわけ。」


僕はこの反抗期のような女の子の態度と


死ねなかったことへの絶望感から


少しずつ苛立ち始めた。


「あんたは、羽賀 明(ハガ アカル)でしょ?」


なんでも知ってますと言いたげに


その女の子は嘲笑しながら言う。


少し苛立つ僕を見てその女の子は


用を忘れていたとばかりに


「死ぬくらいならさ 私を手伝いなさい。」


急に真剣な顔で


でも 腕組みしながら 僕に命令する。


高いアルバイト代が出ることを条件に


僕は 渋々この命令を承る。


それに、1番楽な方法で死なせてあげる。


という条件もついてきた。


どうせ死ぬのだから 最後の夏の思い出としよう。



「それで、何を手伝うの?」




「まず私の行きたいところに連れてって!!」


少女は 嬉しそうで初めて 子供らしい1面を見せた。


























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