32話 『新国の鼓動 2』
【クロイス国エルント区】
エルント区はクロイス国の最西地であって、中でも自然が豊かな地である。
街路は樹木によって並木道となっており、クロイス国全土には未だに渡っていない水路が、景観水路として細く水を流している。
水流や木々の葉が風によって撫でられて擦れる環境音がほのかに響くのだ。
その為に景観や静環境とても良く、西部以外は人々やエルフにとっては正に憩いの地であり、住宅街としてはこれ以上に環境が揃っている場所はないのではないかという程である。
エルント区の中で、より自然豊かなのが西部だ。
自然が豊かというよりは、まるで何かを隠そうとしてい具合に木々が柵のように立ち並んで重なって一帯を囲んでいた。
樹木の柵に囲まれているのは、クロイス国最大にして最も堅牢とされる監獄『イクスリプ』である。
その事を知っていて恐れる者達は、エルント区の西部へは近づかない。
イクスリプの敷地隣に中背の建物がある。
元々イクスリプの管理をする為の機関館であったが、今その機能はない。
代わりに今では、元リーゼル隊員の会合場所の一つとなっている
【エルント区 元イクスリプ管理館】
さわやかな風を部屋に通す窓からは、背の低い監獄イクリプスの地上建築物が覗き見える。
開け放たれた白い窓の枠に、一羽の中型鳥が甲高い鳴き声を一つ上げてとまった。
鳥は背に小型の箱を背負っており、野生の鳥ではない事は一目で分る。
「オーラルドさん、リティスさんの伝書鳥ですよ」
そう言った男は痩せた中年の男である。
呼ばれたオーラルドと呼ばれた男は部下に書類を渡して指示を与えると、返事をして窓に近づいた。
「リティスか、相変わらず仕事が早いな」
オーラルドは伝書鳥が背負う箱を開け、中の書類を取り出して目を通した。
「おぉ、リティスとヘレン殿の方はもう殆ど完了だそうだ。……流石だな」
「早いですね。だいたい五日間であの計画が完了まじかだなんて、リーゼル隊は健在らしい」
「それもそうだろうバッカス。サリバン様の隊だからな。それに、サリバン様が忠誠を誓う主には明日会える。メス、お前も楽しみだろう? 」
話を振られたメスと呼ばれる女性は、一人椅子に座って本を読んでいた。
オーラルドへは三秒ほど経ってから本にしおりを挟んで閉じ、机に本を置くと一つ吐息をついて返事をした。
「フン、私は自分の眼で確認をするまで主とは認めん。サリバン様がそれほどまでに認めているのだから、余程なのだろうがな」
メスのいつも通りの返答に二人の男は一つ頷いた。
「まぁそうだな。何をどうしても、全ては明日だ」
この部屋にいる三人は元リーゼル隊の生き残りで、クロイス国に招集された者達だ。
この中で一番の年長者は『オーラルド・ノルマン』で、歳はサリバンに近い。
まじめで誠実、サリバンに確実ではないと死んでしまう病を持っていると称される程にしっかりとし過ぎた忠実なサリバンの部下である。
戦争時代には『炎の双剣』という称号を背負い、ずんぐりとした大男なのだがやはり双剣を装備してサリバンやべドサイモンと共に戦場の最前線を突貫していた。
隊の中ではオーラルドが得意とする得物は『斧』という事は知られているので、過去の戦場では殆ど双剣ではなく双斧を扱っていた。
老け顔だがリティスより若いのが『バッカス・ウーフー』という男になる。
バッカスは戦場の最前線を駆けるリーゼル隊の中でも、隊員の後援を主としていた者だ。
魔法やサポート力を言えば主力兼サポート役でもあるべド・サイモンには及ばないが、両力は他の魔法後援員の物とは比較にならない程だ。
リーゼル隊として長い時を戦場の中で生き続けているのがその証拠だろう。
もう一人、騎士の風格を漂わせる女性、メス・ビデッチはティーカップを持って口に付けた。
生き残っているリーゼル隊員の中では最も歳若く、年齢で言えばカミラより少しだけ年上というところだ。
リーゼル隊の隊長であるサリバンから始まって、オーラルド、べド、リティスに次いで精霊双剣の称号を与えられているのだ。
彼女の称号は『雷の双剣』であり、属性魔法や能力を駆使した中での機動力は隊の中でもずば抜けている。
騎士である為か彼女の真意心情の為かやはり忠誠心は高い。
しかし彼女が忠誠を誓った相手は今まででサリバンだけであり、それ以外は全くにないのだ。
彼女の真意とは強者愛であり、忠誠心もそれに比例する。
コレは騎士としての考えの一部でもあるだろう。
そんなメス・ビデッチは一息ついてティーカップをテーブルに置き、替わって本をテーブルからとると再び読み始めた。
そして部屋にいる戦友達に、もう一人この部屋に集まる予定の戦友の事を聞いた。
「ライラはそろそろシス区から戻ってくるだろうな」
「あぁ、ユーラス区長は問題なかったがな。まぁ念押しだよ。メスも、よくやってくれたな」
「当然だ、反対派はもうこの土地にはいない」
「ギブ区長にシスマ区長だな。シスマ区長は放っておいても消えていただろうが、ギブ区長、あの男はなかなかに巧妙だったな。今までサリバン様はどうやってあしらっていたのやら」
「なんとなく察せるがな、ギブ区長は元々クロイス二世や大臣達との繋がりが強かったらしい。建国前に処理できてよかった」
サリバンが報告会議を開いた日、提案という形の決定事項報告に反対したのはオーラルドの言うサバス区の『ギブ・ライヒ区長』、イール区の『シスマ・デヴィッチ区長』の二人だ。
シスマの方はクロイス国の現状段階でも混乱状態にあり、状況理解ができない為とりあえず反対という無能ぶりであるから、大して問題では無かった。
しかしもう一方のギブ区長は放っておいて問題がないような人物ではなかった。
もっとも、メスにギブ区長の処理を任せたのはサリバン本人であるのだが、放っておけない理由としてギブ区長は、元大臣達や国家上層部と共に、事業や外交ルートとなる人物に対して魔法を以て操作型の洗脳をかけていたという事だ。
ルートとなる人物というのは、国が壊れ始めた日に殆どが大臣と大臣の操る魔物の手によって殺された。
今生き残っている人物は上層部外、つまりは国家中間管理である各区役所の人物の一部である。
未だに操作洗脳魔法がかかっている者達は、何もしなければ普通の者達と何ら変わりがない。
ただ、ギブが密かにやっていたように再度魔法をかけなおして操作をすれば、その人物は術者の操り人形になる。
サリバンが見たところギブの部下は殆ど操り人形になりうる者達であり、他にもシスマの部下達も手籠めにしていたという事だ。
結局サバス区の区長、ギブ・ライヒがやろうとしたことはサリバンと似たようなことである。
サリバンと比べてしまえば、戦力と情報力、人員に地位……、挙げればきりがない程にギブには圧倒的な差があった。
根本として二人の違う点を挙げれば、サリバンはビンセント達という新国の王に仕えるが、ギブの場合、昔の魔法や力を自らが王になる為に駆使していたという事だ。
今は大した事の無い人員に戦力を持っていたギブであったが、時が経つにつれて洗脳の範囲を拡げられてはサリバンとしても見過ごすわけにはいかなくなったのだ。
昨夜、メスはサリバンから命令を受けた。
命令の内容はリスト化された人物の暗殺――、無論ギブをはじめとする反論者の掃討だ。
メスは三十分程前に任務を遂行させてこの部屋に帰還してきた。
現在時刻十六時五十七分、季節柄空はまだ明るい。
三人がそれぞれの報告書をリティスの伝書鳥の背負う箱に納め終えたそんな時だ、部屋の扉がノックされて開いた。
「オッス皆! ただいまー」
サリバンとリティスが招集したリーゼル隊の生き残り、最後の一人『ライラ・ミナ』が食べ物で溢れそうな二つの紙袋を持って現れた。
「お疲れ様ライラ……。また沢山の食べ物ね」
扉を肘で閉めつつ、メス達の挨拶を返して机に紙袋をどっさりと置いた。
リーゼル隊にとっては見慣れた登場ではあるが、紙袋に入った食料の量が一週間分程の量なのだ。
それが週一ではなく毎日続くのだから、小さい見かけによらない大食い女である。
「メス、この前で来たお店のドーナツ食べました?! 美味しいですよ! 」
「いや、私はあまり甘いものは――、」
幸せな顔のライラが手に持っているのは、食べかけのチョコレートドーナツだ。
メスはそれを見てから袋の中身に視線をチラッと向けると、パンとパンの間に沢山のドーナツが埋もれているのが確認できた。
「……私も貰っていいかしら」
いったんは躊躇したものの、甘いものが大好きなメスはそれなりに欲望に対しては忠実だった。
「はい! いっぱいありますよ?どれがいいですか? 」
パンとパンを左右に拡げどかすと、埋もれていたドーナツに沢山の種類がある事を確認できた。
メスが珍しく迷っていると、ライラは敷き紙にどっさりとドーナツを置いてそれをメスにあげた。
「全種類二個づつですよ! どうぞ召し上がれ! 」
「――あ、ありがとう」
目の前に大量のドーナツを盛られたメスは、目を輝かせてそれを見ていた。
そして一つ、クリームがサンドしてあるドーナツを手に取ってかぶりつくと、やわらかい吐息が硬い女騎士から漏れ出た。
そんな上官の様子を見ているライラも満足して、報告書を上げるべくオーラルドへ視線を向けた。
「オーラルドさんバッカスさんも食べたいのあったら紙袋からとってっていいですからね! 」
「あ、あぁ。助かるよライラ」
オーラルドと小食のバッカスはいつも礼だけは言うが、ライラの買ってきた食べ物を食べる事は殆どない。
というのも、バッカスは小食であるからだが、見かけによらず甘いものが好きなオーラルドは一度、ライラのお菓子を勝手に食べた事がある。
それがたまたまライラの一番大事にして楽しみにしていたお菓子だったから、任務から帰ってきたライラの怒りは爆発した。
素直で隠し事も嫌いな性格であるオーラルドは自首をしたのだが、ライラは首を縦にふる事は無く、稽古を申し出た。
食べ物の恨みは怖いという事を、オーラルドは改めて思い知ったのだろう。
ライラはリーゼル隊の一員であるが双剣士ではなく、称号も無い。
そんな彼女の得物は双剣ではなくメイスである。
その黒光りする重い魔法金属の塊は、彼女の怪力を加えることによって暴君と化す。
経験と技量ではオーラルドに全く以て敵わないが、ライラは隊の中でも一番の力持ちで、彼女が振るメイスの餌食になる者は殆どが肉片となって散っていった。
その事を知っているオーラルドは、何度か稽古をつけた事があるライラなのだが、その度に心では溜息をつく。
稽古中に二人の得物が合わさるのは一回きりである。
オーラルドは技量で回避をし、食の恨みを持つライラは遠慮なしに殺しに来ている。
ライラが本気を出したオーラルドの動きについて行くのは昔から今まで見ても難しい事だが、時にはライラが追い付くときもある。
そんな時に初めて両者の得物が合わさり、そのまま得物が壊れて稽古は終了だ。
一回を除いて全ての稽古ではオーラルドの刃がライラのメイスを切断するが、たった一回、メイスが双剣を潰し折っている。
オーラルドがライラのお菓子を勝手に食べた後の稽古がその一回で、えげつないまでに双剣を潰し折られた。
それ以来、オーラルドは食べ物を彼女から進められても遠慮するようにしている。
歳もメスと大して変わらずに若くて称号も無いが、『怪力のライラ』と知る者は呼ぶ。
ライラがサリバンから受けた命令は、既にこちら側についているシス区の区長『ユーラス・ダダグルマ』の調査と計画の一部を任せるという念押しをすることだ。
ユーラスは丁寧に返事を返し、早々に任せられた仕事に手を付けだして動いた。
特に警戒をする事も無いユーラスではあるが、サリバンは一度だけ探りを入れた。
その結果はライラから伝書鳥に渡った報告書を見て知ることになるが、その報告書を見てサリバンがどうなる事も無く、『何ら変わりなく想定通り』という思いが一つ浮かぶことになるだけだろう。
メスは作成した報告書を丸めて紐で
「私の任務もこれで一時完了です! 」
「うむ、よくやってくれたな。それではサリバン様の元へ行かせるか。バッカス頼む」
オーラルドは全員分の報告書を持った伝書鳥の箱を閉めると、自分の腕に乗らせた。
そして伝書鳥をバッカスに向けると、バッカスは洗脳操作無効魔法や自動発動の魔法とオールガードを伝書鳥に付与させた。
重要報告書であるから、万が一にも良からぬ者の手が届いてはいけない。
その為に、伝書鳥は魔法によって守られる。
外部の術者による操作を無効化し、攻撃にさらされた際には自動的にオールガードが発動するようになったのだ。
そんな伝書鳥を窓辺に持っていき、オーラルドは窓から腕を外に出した。
「では、サリバン様の元へ頼む」
伝書鳥はオーラルドの声を聞くと、太く硬い腕を蹴って羽ばたいた。
向かい風を利用して上へ昇って、伝書鳥はサリバン達の居るサラスト区に向かって小さくなる。
【サラスト区 宿屋クル】
サラスト区の大通りから一本中道に入ったところにある宿屋だ。
この宿屋もやはり新国建国の動きと共に状況が変わり、以前のように一日に客が一組か二組か……、と言っていられるような環境ではなくなった。
宿屋で働く者達の数も状況によって増えたが、それでも二人である。
清掃整理から受付、予約や名簿の事務仕事といったように、足や手、頭をクルクル回転させながら大忙しに働いている。
宿屋クルは、クロイス国が抜け殻になっていた期間にビンセント達がよく利用していた宿屋になる。
クロイス国から外国へ旅立つ決心をした場所もこの宿屋である。
その頃この宿にはビンセント一組だけしか宿泊客がいなかったのだから、経営者側からしたら今のこの状況は正に起死回生な状況だろう。
忙しいが、ありがたい。
何もこう思うのは経営者だけではない。
当番制で働く宿娘達も、久しぶりに忙しく働けることを大変ながら喜んでいた。
特にを言えば、妄想力がずば抜けている『ドロアドル』という宿娘が仕事中に一番輝く顔を周囲にばらまいている。
「いらっしゃいませ! お泊りでしょうか? 」
ドロアドルが受け付ける相手は、淡い青のショートドレスを身に着けた小柄な女だ。
「そう泊まり! 」
元気な印象を受ける客に対して、ドロアドルは続けた。
「ありがとうございます。しかし、現在お部屋がうまっております。本日の十九時に一つお部屋が空く予定でございますが、ご予約されますか? 」
「するぜ! 」
即答され、ドロアドルは対する客の名前を聞いた。
「ありがとうございます。それでは、お名前をお伺いいたします」
客は腰に片手を置いてドヤ顔で答えた。
「あたしはヘレン・ミスバドム! 名前自分で書くからいいぜ! 」
ドロアドルが対する客は、青の賢者『ヘレン・ミスバドム』だった。
ヘレンが空いている予約名簿欄を指でなぞると、ヘレンの名前文字が討浴びあがった。
それを見てドロアドルは驚いているが、ヘレンが何者なのかはまだ知らない。
「これでいいかな? 」
「――ハッ、ヘレン・ミスバドム様。ご、ご予約承りました……。本日の十九時にお待ちしております」
「おう! じゃあまたよろしくな! 」
ヘレンはドロアドルにそう言うと、道具袋を肩に背負い持ち、手を振って宿を後に街路へ足を進めた。
「よっしー。 宿もとったし飯行こう! シューマイ食うぜシューマイ! 」
ヘレンはリティスと共にサリバンへ報告を済ませた後、二人と一旦離れて自分の泊まる宿を探しに行ったのだ。
もちろんヘレン用の固定宿泊部屋はサリバン達によって用意はされている。
しかしヘレンは、新しく生まれる国を自らの足で歩んでみてまわりたいという理由で、個人で宿を取りにいっていたのだ。
この後は三時間程の時間を作れているヘレンは、サリバン達との食事の前に街を探索する。
【サラスト区街路】
現在時刻十七時十六分。
空を見上げれば西の空が柔らかく夕に染まっているが、目線を戻せば街路では相変わらず人が行きかっていて賑やかだ。
「なかなかいい街だよな……」
ヘレンは目線を戻して一つの屋台前に止まって目を瞑ると、活気あふれる街の鼓動が周囲から、耳にだけではなく雰囲気としても伝ってきた。
目を開けば数相応の人々やエルフ達、中には獣人が片手に食べ物ののった植物性の使いきり皿を持ち、もう片方の手には酒や果実水の入ったグラスを持って盛り上がっていた。
初めて通る街路の中道、初めて見る屋台に興味をそそられたヘレンは、話と雰囲気で盛り上がっている空間に吸い寄せられるように、賑わう者達の仲へと入って行った。
背の高い鹿獣人が持つ皿から、香ばしくも甘い香りが流れてくると、ヘレンは獣人の腰を指でつついて興味本位に呼びかける。
「おじちゃん何食べてるの? 」
「おう、これは『豚の甘辛煮』ってやつだ」
鹿の獣人はヘレンの見えるところまで『豚の甘辛煮』の入った皿を下げてみせた。
皿の中には細長く切られた豚肉に赤黒いとろみのあるタレがしみこみ
「おー! これうまそーだな! 」
へレンがよだれを唇の内を満たす中、鹿の獣人は何気なく陽気に尋ねた。
「ねーちゃんも建国の噂を聞いてこの国へやってきたのかい? 」
「いやー、私は一仕事頼まれて寄っただけだぜ」
「そうなのかい? まぁどういうわけがあっても、この街はなかなか楽しいな。初めはすっからかんな感じだったけどよ、日を重ねる毎に人が集まって、今ではこの通りだもんな! 」
「そうなんだよな。……私もちょっとだけ寄るつもりだったんだけど、このまま住んじゃおうかなって思うんだよな」
「それも良いと思うぜ、なんせ新しい国がもう少しで誕生するんだからな。――ワッハッハハ!! 」
鹿の獣人は酒を一口あおると、陽気に笑って店の料理が並ぶカウンターテーブルに向かっていった。
ヘレンは店の者と話をする陽気な獣人を暫く見ると、次は周りの客達を見回して顔に笑みを走らせた。
「そうだな、それも良いかもな」
ヘレンは小さくそう呟くと、色の濃い料理が並ぶ店のカウンターへと向かう。
「いらっしゃい! いろいろあるよ? 何食って何飲む? 」
カウンターの店員は、たくさんの料理を指してヘレンに尋ねた。
「あたし初めてこの通りに寄ったんだけど、どの店もどの食い物も美味そうだな」
「ここには色んな所から色んなやつが集まってきてますからねー、この通りだけでも色んな土地の料理が楽しめますよ! ――うちは東の国からやってきましてね、ここら辺じゃ結構珍しいみたいです」
「おー、それは食べるのが楽しみだぜ! なにがおすすめなんだい? 」
「全部自信もって美味いといえますが、初めて食べる方におすすめをあげるならば――、これにこれとか、これですね」
店員が指すものはヘレンの好奇心をあおる。
朱のとろみのあるソースにつつまれた物や、さっきの鹿の獣人が食べていた『豚の甘辛煮』、うがもう一つが謎で、籠のような入れ物を指差されたのだ。
「全部食べてみたいけど、これはなんだ? この中に食べ物がはいっているのか? 」
「そうです、この中に食べ物が保存されてるんです。この入れ物は
「おー、はじめてみたぜ。それで、なんていう食べ物が入っているんだ? 」
「この中には『シウマイ』という食べ物が入っています」
店員の話を聞いてヘレンはその食べ物の名前を聞き返した。
「シュウマイ?! 」
「シウマイです! 」
ヘレンは満面の笑みでコクコク頷くと、溜まりにたまった口内の唾液を一呑みして店員に言った。
「この三つ頂戴! シュウマイはいっぱいで! 」
「はい! 皿に盛るまで少しお待ちください」
店員は三つの皿を用意し、それぞれの料理を盛って、オーダー通りにシウマイを二人前のせた。
「全部で七百二十
「おー! こんなにいっぱいでそんなに安いのか?! すげー! 」
ヘレンは二つ返事でお金を取り出して店員に支払った。
「皿が三つもあるから手で持てないでしょう、カウンター席でゆっくり召し上がれ! 」
「ありがとよ! 」
料理をカウンターから引っ張り滑らせて席に着いた。
へレンが料理に手をつける前に、さっきの店員が水の入ったグラスを皿の隣に置く。
「おー、助かるぜ。……そういやこれってどうやって食えばいいんだ? 」
「それはこの
店員はカウンターにある料理を一つ摘んでヘレンにみせた。
「なるほどな。……これってなんだ? 」
ヘレンは朱のソースに包まれた物を指して店員に尋ねた。
店員は微笑んでヘレンにかえした。
「まず一口どうぞ」
言われるがまま、なれない箸を見よう見真似で使い、初めての食べ物を摘んだ。
そのまま摘み上げて匂いを嗅ぎ、口へと運んで食べた。
柔らかでありながらカリッとした食感の後に、プリッとはじける物が歯を伝って感じられた。
咀嚼をするほど甘辛い、少し酸味の利いた味が口の中に広がり、同時に楽しい食感が続く。
「美味しい! 」
どこかで食べたことのある食材だと思い、ヘレンは少し考えた後に思い出した。
「海老だこれ! 」
「正解です! それは『海老のチリソース』っていう料理なんですよ。横に添えてあるレタスで包んで食べても美味しいですよ。試してみてください! 」
言われるがままに試すと、期待通りに美味しい組み合わせだった。
「美味い! 何だこれ! 」
「喜んでもらえてよかったです、ごゆっくり! 」
店員はヘレンから離れて調理を始めた。
ヘレンは海老のチリソースを後二つ食べると、ずっと食べたいと思っていたシウマイに箸をつけた。
「これがシュウマイか、……いただきます」
シウマイを口に入れたとき、一番にでた感想は『熱い』である。
それでも聞いた通りに美味しく、ほほが緩むのが自覚できる程にヘレンは満足した。
「ビンセント・ウォーさんにカミラ・シュリンゲルさん、そしてミルさんかー……」
食べ終えた後、水を一杯飲み干して明日の出会いに思いはせる。
「食い物何が好きだろ」
モブの元RPGの進め方 O.F.Touki @o_f_touki
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