8. 花売りの覚悟

シグルスは町の近くまで来ていた。嫌な予感がしていたからだ。そしてそれは的中していたようで、フロアの元から戻ってきたであろうウィンから、何が起きたのかを聞けば、言わんこっちゃないと思った。この男はどうも面倒ごとを好む傾向にある気がしていた。いや、ドラゴンである自分といることが一番の面倒ごとだからほかのことは気にならないのか、とシグルスの頭の中でそれは完結した。


『大した娘だ。なあ、ウィン。フロアを助けることは不可能か?』

「・・・・・・・」



一方その頃、フロアはさっそくイース邸を訪れていた。町一番の屋敷は現在の領主になってからさらに豪華さを増す一方で、それと共に町民の反感も増えていた。


「クウちゃん――――」


たとえ自分が刑を受けようとも、彼らによってクウちゃんは助かるはずだ。そう自分に言い聞かせ、フロアは屋敷の中へと入っていった。


屋敷の者に案内されフロアは子爵の部屋の前にいた。重厚な扉がゆっくりと音を立てて開いた。


「やあやあ、麗しのフロア嬢。よいお返事を持ってきてくれたかな?」

「・・・側室の話、受けようと思います。」

「なんと!本当かい?」


イース子爵の顔に満面の笑みが浮かんだ。たくらみがうまくいった、そう言った感じだ。


「ただ、一つだけお願いがあります。」

「なんだい?未来の妻の話だ。聞いてやろうじゃないか。」


未来の妻―――

もちろんフロアにその気はなかった。なんとかしてクウちゃんを助けるための隙を作りださなければならない。そのあとのことは彼女にとってどうだってよかった。


「ドラゴンとはいえ、しばらく一緒に過ごしたから情がわいているのです。別れの前にできるだけそばで過ごしたいのです。お優しい子爵様なら、お聞きくださるかと思いまして―――」


子爵が能無しであるということは町民には分かり切っていた。少し調子づかせてみると、イース子爵は機嫌をよくして、「難しい頼みだが特別だ。」と言った。フロアはうまくいった喜びを顔に出さないよう、精一杯感謝の気持ちを述べた。もちろんそこにありがたがる気持ちなど微塵もなかったが。


「そこの衛兵、フロアを案内してやってくれ。彼女に触れることは許さないけどね。丁重にもてなすんだ。僕の妻になるのだから!」

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ドラコ・ベルム 北条としひさ @tsuyukusa92

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